ライラック〜戦い2〜
幸宗は闘の城"鶴岡城"に走って向かっていた。
鶴岡城とは、もともと物見の為に造られた洋と闘の調度境目にある城である。
城下町では、洋と闘の商業の場となっていて、洋と闘の文化が入り混じった独特な文化ができているのだ。
その城の裏にある神社で照怜は待っていた。
「来たな。」
「なぁ。こんなことはもうやめよう?照ちゃん…
何か理由があるんだろう?こんな事をせざるを得ないことが…」
「…」
「…彼女をどこへやったんだ?」
「…」
照怜は何も言わず抜刀した。
「戦え、幸…。」
その刹那、ギラリと光る刃が目の前に現れた。
「ーッ⁉︎」
わたしは後ろに飛び退き、木刀を取り出した。
「ーっ‼︎まだ、その木刀で戦うのか‼︎
お前が腰に帯びているその太刀は何のためにある‼︎」
幸宗は腰に太刀と木刀を帯びているが、いつも木刀を使っているのだ。
「…約束しましたから。」
「ー‼︎
また、それか。お前はいつもいつも約束約束約束約束…!!お前は戦いから逃げているだけだ‼︎‼︎」
「逃げてなんかない‼︎」
「逃げてるだろ‼︎」
幸宗と照怜はつばぜり合いをしながら言い合いをしていたが、とうとうお互いの得物を放り出し、突つかみ合いになった。
「君がそんなにイライラしている理由は何‼︎」
「…ッ!それは…」
照怜が掴んでいる手を少し緩めたその時だった。
照怜の腕を一本の針が貫き、幸宗の頬をかすめた。
「つっ!!!」
赤がいたるところに飛び散り、腕から流れ落ちる。
「照ちゃん‼︎」
辺りを見回したが、どこから撃ってきたのかわからなかった。殺気も感じなかった。
針がかすめた頬が少しただれているのだけはわかった。
針に毒が塗られていたようだ。
「幸…」
照怜は苦しそうな声でわたしの名を呼んだ。
「何も喋るな!」
「ははっ…ざまあねえな。俺が幸を裏切った罰だな…。なぁ幸…姫を、鶴岡城を助けてくれ…」
今にも消えそうな声で言った言葉は衝撃的だった。
「姫…鶴岡城は今、洋の兵士に占拠されているんだ!姫もとらわれていて、解放する条件が幸を…!」
顔面涙でくしゃくしゃにして真実を言ってくれた。
「…っわかった、行ってくる。」
立ち上がって行こうとすると、腕を弱々しく、くっと引っ張られた。
振り向くと、照怜が「俺も連れて行ってくれ」と目で頼んできた。
***
照怜を背負って城の近くまで来てみると、門の近くには兵士たちがウヨウヨといた。
中には城の武士と思われる人もいた。
「あれじゃ中に入り込めないな。」
「城の裏手に向け道がある…」
「さすが、仕えている城のことはわかってるな。」
照怜は鶴岡城に仕える武士なのだ。
照怜を背負って裏に行くと、逃げ出してきたと思われる武士たちがたくさんいた。そのうちの一人がわたしたちに気づき向かってきた。
いつの間にか武士のみんなに囲まれていた。
「照怜殿!よくぞ御無事…ではなさそうだな。」
「幸宗殿を連れてきてくれると信じておったぞ!ありがとう!」
「幸宗殿、照怜から聞いたと思いますが、私たちでは歯が立ちませんでした…
組織に所属する照怜でもこのザマです。ですから、組織No.2の実力の幸宗殿にお力添えをと…」
色々と話を聞くと、こうして逃げだせた者もいたが、寝返った者たちもいるようだ。おそらく城の前にいた武士たちだろう。
「姫がとらわれていると聞きました。許嫁の方は?」
「今こっちへ向かっていると、」
「だったら、それまで時間を稼がないと…照怜をお願いします。ここにいる動ける人は…」
「我らもついていきますよ!」
振り返るとそこにいた全員覚悟を決めた目をしていた。
「この雪辱絶対にはらすぞ!」
「姫様を救う為に!」
その一声と共におう!と一致団結した。
***
幸宗たちが城の中に入って数分がたった。
城の至るところから煙がたち始めていた。
外で待っている照怜たちはその光景を見守っていた。
「…おい。」
「俺も連れて行ってくれーとか言っちゃダメですよー」
見張り役の若侍が城を眺めながら言う。
「ぐ…。だけどっ!」
「姫は許嫁の人が助けてくれますから!照怜さんは安静にしていてください!」
無理やり立ち上がろうとする照怜を無理やり押し戻した。
「許嫁が助けても意味がない…」
照怜はボソッと呟いてふてくされた。
若侍はふぅとため息をつき、照怜に手を差し伸べた。
「本当はダメなんですからね!
照怜さんは拗ねると長いですから仕方なく、仕方なくですよ!」
「拗ねては無いが、」
「じゃあいいんですねー」
「くっ!…ありがとう。恩にきる。」
若侍の手を掴み立ち上がる。
毒が周り、立つのも困難な状態だった。
(まだ、少しの辛抱だ…)
若侍は照怜を背負い、荒れ狂う城の中へと消えた。
***
一方その頃幸宗たちは、たくさんいる洋の兵士たちに苦戦していた。
(きりがないな…)
そこへ若侍と照怜が合流した。
「幸宗さん!すみません!照怜さんがどーしてもと拗ねてしまったので…来てしまいました!」
「拗ねてねぇよ。」
「照ちゃんは拗ねると長いからね〜
まぁしょうがないよ。止めても来ると思ってたし」
「だから拗ねてねぇって!」
「でもなんでそんなに姫のところへ行きたがるんですか?」
「そっそれは、や、や…」
「"約束"したからだよなー
それと、姫様のことが好きだもんなぁ。」
「ばっか!!!!」
照怜は慌てて、幸宗の口を塞ぐ。
顔が真っ赤だ。
「姫様一人守れなくて、何が武士だ!だから…」
「ああ。そうだな!君、照ちゃんのこと頼んだよ。」
「はい‼︎任せてください!」
幸宗たちが進もうとすると、兵士たちが立ちふさがった。
「「「我々にお任せを!!!」」」
武士たちが兵士たちを抑え込む。
「幸宗殿たちは早く奥へ‼︎」
「ありがとうございます!」
わたしたちは、武士たちに任せ、その場を離れた。
***
奥へと進むとさっきとは違い、ガランとしていた。
誰もいなかった。
(罠…?)
不信に思いながら、先へと進む。
すんなりと上へと行けた。行き過ぎて寧ろ怖い。
するとそこには頭が2つの3メートル級の大きな大きな狼のような犬のような動物が寝ていた。
「実験物かっ‼︎」
実験物とは、闘や洋の研究・実験施設で動物を実験台として生み出された獣たちのことである。人間が実験台になることもある。
闘と洋それぞれの研究・実験施設に実験物を所有しているが、一部野生化している獣もいる。
「照怜っ‼︎」
その獣の後ろに姫はいた。
「姫っ‼︎」
照怜は姫の方へ行こうと、身を乗り出したが、力が入らず倒れてしまった。
その音で実験物が起きてしまった。
『グアァオォォォ‼︎‼︎』
寝起きで不機嫌な獣は、倒れた照怜めがけて物凄いスピードで腕を振り下ろした。
「危なっ…!」
照怜を守ろうとした若侍はその腕をまともにくらい何メートルも飛ばされてしまった。
「大丈夫かっ⁉︎」
返事が無かった。
急いで若侍のもとへ駆けよった、意識はあるようだ。
「照ちゃん!姫様を守れる体力はあるよね?」
「ああ、もちろんだ!」
「じゃあ、飛ばすよ!」
「は?」
幸宗は照怜の着物の襟を掴み、そーれっと投げ飛ばした。
「ちょっーーー⁉︎」
案の定、照怜は床に顔面からダイブした。
「照怜っ⁉︎大丈夫⁉︎」
「だっ大丈夫です。
姫様を守れる体力は残ってますので、」
「そういうことではなくっ‼︎」
「本当に大丈夫です!姫様は俺が守りますから!」
(幸、あとは頼んだぞっ…!)
***
「さあて、どうしたものか。」
もののけと幸宗の睨み合いが続く。
先に動いたのは、もののけだった。
『グォアォォォォン‼︎』
腕大きく振り上げ、物凄いスピード、力が幸宗めがけて振り下ろす。
幸宗はギリギリのところで避けた。
が、もののけの腕は勢いそのまま、真横に薙ぎ払い、はたき飛ばされてしまった。
「がはっ…⁉︎」
立ち上がろうとすると、激痛がはしる。
(骨折れたかも、)
もののけはフラついている幸宗を尻尾で掴み締め上げる。
体がミシミシとしなる。
「が…ぐ、いっ…っ!」
その時だった、一本の矢がもののけの目を射抜いた。
「姫様っ!ご無事ですか⁉︎
助けに参りました‼︎」
弓を持ったイケメンの青年が急いでかけて来た。
「直野様っ‼︎」
直野は姫のもとへ駆けつけ、抱き合った。
「怖かった…!」
「もう、大丈夫ですよ。
相楽殿、姫様を守っていただきありがとうございます…!」
「あ、ああ」
照怜は優しく微笑んだが、どこか悲しそうだった。
喜びもつかの間、姫の顔が急に強張り、後ろを指をさす。
「直野様!後ろっ‼︎」
後ろを振り返ると、もののけが直野を踏みつぶそうとしていた。
その時だった、負傷していたはずの幸宗が木片片手に飛び上がり、もののけの腕めがけて木片を激しく突き立てた。
「お前の相手は俺だ‼︎‼︎」
もののけの腕から緑色の液体が流れる。
「相模殿!援護します‼︎」
直野はもう片方の目を射抜き、もののけの心臓も射抜いた。
『……ッッ!!!』
もののけの身体はズシンと倒れこみ、花びらとなって消えてしまった。
幸宗はその花びらをジッと見つめ、手を合わせた。
***
幸宗たちが下へ降りていくと、傷だらけの武士たちが笑顔で迎えてくれた。
「直野殿!姫様を助けていただきありがとうございます!照怜も幸宗殿もーー!!!」
「相楽殿と相模殿を早く医者へ‼︎」
「いえ、わたしはいいので、照ちゃんを。」
幸宗は、みんなが撤退準備、手当などをしている時、周りを見渡した。
が、アンはどこにもいなかった。
「手がかりも無しか…」
わたしはそのまま城を後にした。
***
城から少し離れた場所で逃げ延びた洋の兵士とある男が合っていた。
「よくあの場所から逃げて来れましたね〜。」
「おい、話が違うじゃねえか!俺は茶色の着物の方を狙えと言ったんだ!」
「突掴み合っていたから、どっちが茶色かわかんなくなっただけじゃないっすかー。しかも、暗かったし。」
「お前が間違えたせいで散々な目にあったんだぞ!お前が茶色の方を狙っていたら…!」
「どっちみち狙っていてもきみたちは勝てなかったと思うよ。」
「は?何言って…」
「茶色の方、幸宗っていう人は十分体力が消耗していたはずなのに、それでも勝てなかったのは、きみたちが弱すぎるからでしょ。僕ならちょちょーいって勝てそうだったけど。
あ、後僕はきみに命令された覚えはないよ。」
「てめっ…
ボスの直属の部下だからって調子のんじゃねーよ。」
兵士は男の胸ぐらを掴む。
「汚い手で触らないでくれる?」
男は兵士の手を振りほどき、男が兵士の胸ぐらを掴み兵士を引き寄せた。
「後、きみが言うそのボスからの伝言。
きみもう、用済みだってさ。お仕事ご苦労さん。」
と、耳元でささやくと、兵士がその場に倒れこんだ。兵士の下に赤い水たまりができる。
「僕の毒であれだけ動けてたあの人も異常だったなー」
男はそう呟き、そして、風とともに男は消えた。