ライラック〜戦い〜
夜遅く、居酒屋ナイトを覗き込む人影があった。
幸宗だった。
「今日もいないか…」
諦めて帰ろうとしたその時、ナイトのマスターが扉を開けた。
「どうかしたんですか?さっきからコソコソと。」
「え⁉︎いや、あの…」
いきなりのことで戸惑っていると、
マスターが「どうぞ、お客様でしよう?」と言っているような顔で中へと促す。
わたしはここで引き返すわけにもいかず、中へと入ると、さっきまで洋の兵士たちが笑い騒ぎあっていたはずなのにシン…と静まり返っていた。
(なんだ…?)
ところどころでヒソヒソ話が聞こえ始め、客全員が幸宗の方を見ていた。
「お客さん。毎晩この時間になると、店の中を覗いているけど、何か探し物かい?」
「ええ、少し、
あの、彼女は…?」
「アンのことかい?さっきまで居たんだけどねー。
あ、そういえば、お客さんと同じような格好をした人と何か話していたよ。」
「同じような格好?闘の人はこの店にも来るんですか?」
「たまにね。あ、その人がもし貴方が来たらこのネックレスを渡してくれって。そしたら解る…と。」
マスターから渡されたのは、幸宗がアンにあげた桜のネックレスだった。
「これって⁉︎」
そのネックレスは引きちぎれていてバラバラだった。
「…その人ってどんな格好でしたか?」
「確か…深い青の着物で黒髪のツンツンした髪型だったと思うよ。」
「ー!!」
幸宗は誰かわかったらしく、勢いよく席を立とうとしたその時、誰かに頭を掴まれ、机に叩きつけられた。
「ーいっ⁉︎」
飛び散るガラス片、真っ二つに割れたテーブル。無傷じゃ済まない程だった。
「へへっ!ちょろいもんだぜ!ボスは簡単なことでは死なねぇって言ってたけどよ、これなら……」
「〜〜ッ!!何するんですか!痛いじゃないですか‼︎」
頭を押さえて立ち上がった幸宗はほぼ無傷だった。
「(あれで、無傷なのか…?)」
「(何者なんだ?あいつは…)」
ヒソヒソとそこらから声が聞こえる。
「っ!やろっ!」
先程手を出してきた男が幸宗の顔を殴る。
鈍い音が店中に響き渡った。
幸宗の口から赤い液体がポタポタと流れ出る。
「ボスからお前をここから出すなと言われているからな。
恨むなら、あの青い着物のへっぽこ侍を恨むんだな!!」
男は天に向かって高笑いをした。
「何故笑わないんだ?
彼奴はな!俺たちに怖じ気づいて簡単にお前を裏切ったんだ!!笑える話だろ!」
「…………ねぇな。」
「あ?聞こえねぇんだけど?
お前も俺たちに怖じ気づいたか?
ハハッ!!まぁ無理もねぇわな!お前1人で何十人も相手できねぇよなぁ!
んー、そうだなぁ。お前が俺様に土下座するってんなら、半分は減らしてやるよ!」
「…ペラペラ喋る口だなぁ…」
ハァ…とため息をつき、マスターの方を見るとすました顔で目を閉じ、コップを磨いていた。
(何も見てない。関係ないっか…)
「今はそれが嬉しいかも。」
幸宗は拳に力を込め、ニヤニヤと土下座するのを待っている男めがけて殴る。
幸宗の時以上に鈍い音が店中に響き渡った。
「…笑えねぇよ。大切な友達の悪口言われて。」
予想外のことが目の前で起こり、さっきまでニヤニヤしていた兵士たちは黙り混んでしまった。
静寂の中1人また1人と抜刀する音が聴こえ始めた。
暫くすると、1人の兵士が斬りかかって来た。
それをひらりとかわす。
すると、兵士はそのまま後ろのテーブルへ勢いよく突っ込んでいった。
鈍い音とガラスが割れる音とが響く。
それを境に次々と兵士たちが斬りかかってくる。
幸宗はため息をつき、木刀に手を掛ける。
「こういうのは好きではないんですけど…」
木刀を腰から抜き放つと一瞬で5、6人が宙を舞った。そして、目にも止まらぬ速さで次々に兵士たちを薙ぎ払っていく。
怖気付いて逃げ出す兵士もいた。
そして、何十人もいた兵士たちはたった3人になってしまった。
例の3人だ。
「ひぃ!!」
怯える3人に木刀を突きつけ、「まだ、わたしを止めますか?」と微笑んだ。
3人は首が取れそうな勢いで横に降り、バタバタと扉から退いた。
幸宗が扉を開けると、3人の中のボブが銃を構えたが、撃たずにそのまま見送った。