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戦の桜   作者: 紅連雀
2/4

ライラック〜出会い〜

いつも賑やかな居酒屋ナイト、今日も洋の兵士で満席だった。


「アン!これを2番のところに!」


「はーい!」


アン・ライラックはナイトの看板娘であった。


「お待たせいたしました!」


美味しそうなご飯を置いた後、急に腕を掴まれ、何回も撫でられる。


(洋の兵士がくるといつもこうだっ…)


「アンちゃん今日もスベッスベの手だね〜。容貌も良いし、やっぱ、ナイトと言ったらこの子だな!」


「はぁ…」


いつものことだと思って諦めていると、


「ちょいと、ごめんよ。」


茶色の着物を綺麗に着こなす長髪の若い男性が、兵士とアンの間に入って来た。


「このおかずが欲しかったもんで。あ、お姉さん。これおかわりで」


男性は、おわんを差し出しながらヘラッと笑って席に戻って行った。



初めてだった、助けてくれたのは。



「お待たせいたしました、おかわりです!」


「ありがとう」


「あっあの!先ほどはありがとうございました!」


「いえいえ、礼には及びませんよ」


助けてくれた男性は優しく笑った。


「あれは、俺の役目ですから。」


小声で呟いたその言葉の意味はその時は、よく分からなかった。


***


客が全員帰り、後片付けをした後のアンの顔は非常にやつれた顔をしていた。


閉店ギリギリまで兵士たちが飲んで騒いでいたからだ。


帰ろうとしていると、店の裏手から誰かの声がした。


(なんだろう…?)


アンはそーっと覗いてみると、茶色の着物が見えた。

助けてくれた男性だった。

声をかけようと近づこうとしたが、3人の人影に気付きサッと物陰へ隠れる。


3人の人影はさっき手を触っていた人だった。


「おい、さっきはボブさんの楽しみをよくも邪魔したな!」


「謝れ!」


「…謝れと言われましても…あの人困っていましたから…」


ニコッと男性は笑った。


「てめーのその顔見てたらムカつくんだよ!戦の者が!!」


真ん中にいた大男ボブが腕を振り上げ、


ゴッ!!


鈍い音と同時に男性の額から赤いものが流れた。


「ひっ!」


アンは思わず声を出してしまった。


「チッ!見られたか」


3人が逃げた後、アンは男性の元へ駆け寄った。


「大丈夫ですか⁉︎びょ…病院に…!」


「これくらい大丈夫ですよ。」


男性はヘラッと笑う。


「家までお送りしましょうか?

いや、早く手当したほうがいいかな…?」


「本当に大丈夫ですから、お気遣いなく…」


男性が立とうとした瞬間、男性の荷物が落ち、野宿セットらしきものが出てきた。


「野宿…セット?」


「いやっ!あの、これは…」


男性は慌てて野宿セットを拾い、隠そうと鞄の中へ突っ込むが、なかなか入らず慌てふためいている。


私はその様子がとても可笑しく、吹き出してしまった。


男性は私がなぜ笑っているのかわからず、キョトンとしていた。


「ハハハッ すみませんっ。なんだか可笑しくって!…帰る家や宿などが無いのならうちへ、来ませんか?」


「へ?」


「手当もしたいので、うちへ来てください!」


「え?いや、あの、ちょっと!」


アンは戸惑う男性の腕を強引に引っ張って、家に連れて帰った。


***


海風が吹き抜ける街バーンド



海が近く、他国との貿易が盛んで、洋の象徴の赤い城ルビィ城があることから、第2の首都と呼ばれるほどの賑やかな街である。


その街にアンの家と居酒屋ナイトがある。



「どうぞ。入ってください。」


部屋に入ると、男性は物珍しげに部屋全体を見回し、


そして靴を脱いだ。


「えっ⁉︎ちょっと!何しているんですか!」


「え?部屋にあがる時は靴を脱ぎませんか?」


「ぬっ脱ぎませんよ!!」


人前で靴を脱ぐなんて下着を人前で脱ぐようなもの。

だけど、この男性は初めて知ったという顔をしながらも、いや、でもなぁ。と少し考え、また脱ごうとする。


「だから、脱がなくて良いんですってばぁ!!!」



…可笑しな人!



私は手当をしようと傷口を見たが、傷口はどこにも見当たらなかった。血が出ていたのは確かなのだが…


不思議に思いながら、血を拭い、念のため氷で頭を冷やした。



「…そういえば、貴方はその、"戦"という所の人なんですか?」


さっきのお客さん、ボブがこの人に吐き捨てた言葉の中にあった"戦"という言葉がさっきから気になっていたのだ。


どこかで聞いたことのあるような…ないような…


男性は驚いた顔をしてから


「誰からそのことを聞きましたか?」


「えと、さっき聞いちゃったので、しっ失礼でしたよねっ!気にしないでください!」


「……いや、聞いてください。


ー100年前、この国は戦と洋に分かれ争い続けていた。そして、戦いの結果、洋の勝利で幕を閉じた。


戦は洋の支配下に置かれたが、戦には国の象徴"桜"という譲れないものがあった。


そこで洋は、ある条件を出してきた。


・桜は誰も傷つけてはならないことを約束する。その代わり、戦の者は洋に絶対逆らってはならない。


その条件を戦は承諾し、それから桜を中心とした半径200㎞の範囲をとうという地域にした。ー


…これが、戦の昔話ですかね…。自分も聞いた話ですけどね。」


男性は苦笑いしながら言った。


「…なるほど、今の闘が昔、戦だったんですね!

じゃあ、闘にはその"サクラ"があるんですね!」


「ええ!そりゃもう大きな!あなたにも見てもらいたかったですね…」


男性は子供のように目を輝かして言った。

しかし、その言葉に私は少し違和感を感じた…


「何か、あったんですか?」


「ええ…まぁ、」


男性は言いにくそうに答えた。


「…5年前に、燃えてしまったんですよ。洋の兵士の手によって…」


「ーッ⁉︎嘘…」


私は衝撃の事実に暫く言葉が出なかった。


これは、洋が条件を破ったことになる。


「あの、まさかですが、"復讐"とか考えてたり…?」


「そうだったらどうします?



ーーなんて、冗談ですよ。」


グッと私に顔を近づけ、一度真剣な顔をしたが、すぐにヘラッと笑った。



けど、あの目は真面目だった。



冗談じゃなく本当に考えているとしたら…?



私はその男性のことをもっと知りたいと思った。


***


翌朝、アンが目をさますとそこには男性の姿は無く、置き手紙だけが残されていた。


『昨日は泊めていただいたり、手当していただきありがとうございました。これはお返しです。

相模幸宗より』


置き手紙の横に小さなピンク色のお花のネックレスが置かれていた。


「これって"サクラ"かな?」


そのネックレスは太陽に翳すとキラキラ光り、私の頬を優しくピンク色に染め上げた。


(綺麗…)



私の大切な大切な宝物となった。



「さがみ、ゆきむね…か…。」



居酒屋ナイトに行くと、洋の兵士たちが朝から飲んでいた。

しかしそこには幸宗はいなかった。


「また、会えるかな…?」


胸元の小さなネックレスを握りしめポツリとつぶやいた。



あれから一ヶ月がたったが、幸宗は現れなかった。


私は気になってナイトのマスターに聞いてみた。


「あの、マスター。聞きたいことが…

あのお侍さんって最近来てたりしますか?」


「いや、見てないなー」


「そうですか…」



「そういやあのサムライ馬鹿だったよなぁ」


話を聴いていたのか、横から入ってきたのは例の3人だった。


「あいつ弱かったよなー」


「そうそう、ボブさんの一発で倒れるとかもやしだろ!」


「彼奴いつもヘラヘラしてやがっからスカッとしたぜ!

まぁ、戦の奴らは俺たちには逆らえねえからな‼︎」


3人はガハハと大笑いをした。


私は一言二言言おうとして口を開いたその時、入り口が開き、黒髪の深い青の着物を着た男性が入ってきた。


そして、3人を無理やり押しのけ、ドスッと椅子に座った。



(…この人なら幸宗さんのこと知ってるかも!)


そう思い勇気を出して声をかけると、男性は私をギロリと睨みつけ、


「何?」


と、不機嫌そうに答えた。


「(怖い人だなぁ…)


あっあの!相模幸宗という人を知っていますか?」


相模幸宗という名前を聴くと、男性は驚き、目を見開き、私の肩をガシッと掴んだ。


「幸…幸宗の知り合いか?」


「え…まぁ、そう、です?」


「居場所わかったりするか?

あいつあんたと会った時何してた?

何か言っていなかったか?」


(質問が多い人だなぁ。)



彼の名前は相楽照怜さがらしょうれい。幸宗さんの親友だと言う。

そして、彼は今まで消息不明だった幸宗さんを探しているらしい。


私は彼に幸宗さんと会った時のこと、助けてくれたこと、いろいろ聞かせてもらったこと、1ヶ月見かけてないことをこと細かく説明した。


「あの馬鹿!いろんなことをペラペラと…‼︎」


「私が聞きたいって言ったので、幸宗さんは悪くは…」


「ああ、わかってる。

おいあんた、戦のこと知ってんだよな?そのことは絶対に誰にも言うなよ‼︎」


「わ、わかりました…」


「絶対に言うなよ‼︎」


照怜さんは飲んでいるお茶をこぼしそうな勢いで私に念押しする。



この時、私は戦の過去が洋の人にバレると単に嫌だからだと思っていた。しかし、本当の意味は違うことだと私はまだ知らなかった。




照怜さんと話をしていると、急に眠気に襲われた。


「なんだか、急に眠く…」


まぶたが重く、目を開けることも困難になり目を閉じた。


「悪いな…。こうするしかないんだ。」


そこで私の意識は途切れた…。


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