序章
昼間の暑さとは裏腹に夜は春の涼しさを残す六月初夏。
「こりゃ確かに圧巻だねぇ。広い街だ。ウェールの奴が言ってた通りだ。ベガスみてぇな街だな」
暗闇を知らない帝都東京、建設中のビルの最上階に一人の男が立っていた。
天空に白々と輝く満月とは対照的な黒一色に統一された男。月明かりに照らされて薄っすらと見える横顔はここ何日も手入れをしていないのか無精髭が目立つ。サングラスと帽子をとった男は日本人ではなかった。髪と瞳はそれぞれ金とライトブルー。背丈は一八〇はあるだろう。
「しかしこんなに明るい街でも、二夜連続で国のお偉いさんが殺られりゃ少しは暗くなるもんかねえ」
心なしか普段より暗い街を見下す。男は口端を上げて小さく笑った。
「昨日の刑部とか言った外務大臣は随分国のためにやっていたようだが……まあ、俺の知ったこっちゃない。金を積まれれば殺す。それだけだ」
鷹のような鋭い眼で昨晩亡くなった刑部外相の邸宅を睨み、手に持っていた長いケースを地面に置いた。
「今日のターゲットは長浜満。内務大臣だったか。しかも明日は首相の山本か。知ったこっちゃないとは言ったが酷いねえ。これじゃあ日本は終わりだな」
男は細長いケースを開けた。月明かりに照らし出された一丁の長銃―M200。
「まあ俺が殺らなくてもこの国はすでに腐り切ってるがな。仕事だからしゃーないが」
慣れた手つきでアタッチメントを着け、バイポッドを立てる。
狙撃銃を静かに床に置き、次いで男も腹這いになりスコープを覗く。スコープの調整をし、射撃体勢に入る。
地上一五〇メートル開けた屋上。吹き抜ける風で革ジャンバーが音を立てて鳴る。
「対象到着まであと三分か」
安全装置をはずし、ライフルストックを持つ左手の腕時計を覗く。
「しかしどこで計画が漏れたんかねぇ。昨日もちょこまかと付き纏うのがいたし。クライアントがへましたか、それとも……」
呆れてため息を吐き、男は面倒そうに何かを考える。
「まあこれはこれで報酬をアップさせるいい理由になる。面倒なことしてくれたんだ。それなりの対価は要求してやる」
数刻後、先ほどまで吹いていた風は止み静寂が男を包み込む。
「ターゲットはこいつか……そのまま進んでくれよ。よし……いいぞ、いい子だ」
スコープの先には長浜内務大臣の乗るリムジンが大通りを直進してくる。
ガンガンガンガン!
静寂をかき切るかのように、ビルを囲み込むように組まれている足場が音をたてる。
「…今日は早いな、まさか仕留める前に嗅ぎ付かれるとは」
男は大小二つの足音を確認し、自分でも無意識のうちに呟いていた。
「動くな!武器を捨てろ!両手を頭の上で組んでこちらを向くんだ」
青年の声が屋上を駆け抜ける。遅れて黒髪学ランの青年と白髪袴姿の少女が姿を現した。
男はスコープから目を逸らし青年と少女を一瞥する。
「やるじゃねぇか。撃つ前に俺を見つけるとは昨日の奴らよりはまだマシみたいだな」
青年は男の頭に愛用のハンドガン―HK45を照準させ、引き金に指をかける。
そのまま歩み寄り見下す形で男を睨みつける。
バンッ!
銃弾が男の頭三十センチほど右の床にめり込む。銃口からは硝煙が上がる。
「もう一度だけ言う。武装解除して投降しろ。さもなくば次は頭だ」
「いいねぇ、その眼。嫌いじゃない。学生にしちゃよくやった方だ」
愉快そうに言い、青年の方を再び見る。
「だが詰めが甘い!」
男はそう告げると青年の視界から消失する。先ほどまで男がいたところには狙撃銃しかない。
「なっ、どこに行った」
「右です。晴永」
青年―晴永の真横には男の姿があった。
「遅いな、青年」
男は十分に溜めた拳を勢いよく晴永のみぞおちへと打ち込む。
「ぐはっ……」
晴永は思わずハンドガンを手放しその場でうずくまる。男は一旦距離を取り様子を見る。
「晴永ぁ!」
「…俺をかまうな、木葉。奴を仕留めろ…」
顔を歪めながら晴永は苦し気に言い、木葉は頷く。
晴永の上を跳躍し、すでに握っていた太刀を鞘から抜く。満月を背に白く輝くその太刀は男に向けられて大きく振り降ろされる。
「ほう」
男は少し目を見開くも疾風のごとく迫る少女の攻撃に合わせひらりとかわす。
「これは面白いものがみれた。まさか『消された子供たち(ロスト・チルドレン)』がいるとは」
腹を押さえながら立ち上がる晴永を確認し、両方に目を配りながら男は言葉を続ける。
「それなら尚更手加減はいら…」
男が喋るのを構わず少女は闘牛のごとく突進し突きにかかる。
「おいおい嬢ちゃん。せっかく興が乗ってるんだから最後まで……言わせてくれよっと」
男はまたひらりと少女の攻撃をかわす。目の前を通過していく木葉に男は手刀を入れ、さらにそのまま腕を掴み引く。男の手刀で木葉は太刀をその場に落とし、体勢を崩す。男は次いで掌で少女の腹部を持ち上げ、テコの原理で木葉を投げ飛ばす。
「くっ、木葉…大丈夫か」
「すみません、晴永。むしろ晴永は大丈夫なのですか」
晴永は飛んできたコノハを受け止める。その反動でコノハをお姫様抱っこする形で尻餅をつく。
「ああ、なんとか大丈夫だ」
晴永は木葉をそっと降ろし立ち上がる。
「むしろ今の方が大丈夫じゃなさそうだ…」
男は足元に落ちていた晴永のハンドガンを拾い上げる。
「ほお、この銃よく見れば米軍特殊部隊の最新モデルじゃねえか。子供が持つにはちょいと高過ぎじゃないかね。しかもご丁寧にレーザーサイト付きのタクティカルライトときた」
男は面白そうなおもちゃを見つけた子供のようにハンドガンを見まわし、そしてレーザーサイトの点を晴永の額に合わせる。
「形勢逆転だ。お前の失点は三つある。一つ、隠密行動を行わなかったこと。二つ、すぐに処理しなかったこと」
二歩三歩、男は晴永に近づきながら言葉を続ける。
「そして最後の一つは、この俺レイモンド・ミュラーに挑んだことだ!」
低く野太い声で言い放つと男は引き金を引き、銃のハンマーが叩きつけられる。
屋上には一発の乾いた銃声が響くのだった……
皆さん初めまして。かがみやです。
今回はテスト投稿です。
小説を書こうと思いながらも手が進まず結局挫折、というのを今までずっとしてきましたが、最近はなんとか執筆が続いているので思い切ってなろうに上げようと思い今に至ります。
昔から文を書くのが苦手なためおかしい点も多々あると思いますが皆さんどうぞよろしくお願いします。