「俺達は勇者一行だ!」とか言ってる奴に草が生える件 -8
ありえないことだった。というより、その数値を見たことがなかった。
レベルとは、【経験値】と呼ばれる数字を1000取得することで1上昇する。
基本的にレベルを上昇させるための経験値は、モンスターを倒すか、特訓をするか、精神的な変化や成長、身体的な成長を遂げた時に発生する。
一番手っ取り早く経験値を得る方法はモンスターを倒すことだ。だが、モンスターから得られる経験値には限界がある。例えばグリーンスライム、このモンスターから経験値を得られるのは、レベル3までが限界なのだ。
というのも、グリーンスライムのレベルが3だからである。
そしてそれは、クエスト発行ギルドが販売しているモンスターのレベルを調べることが可能なアイテム、【スぺクタル】を使用すれば誰もが気付けることだ。
経験値を得ようと思えば、自分と同等か、それ以上のレベルを持つ、上位に位置するモンスターを倒さなければならない。
弱い敵を倒し続けていても、レベルは上がらない。強い者の力を借りて自分と同等の敵を倒していても、経験値は手に入らない。
経験値とはその名の通り、経験の値を指し示す数値でしかないからだ。
また、パーティーを組んでいたとしても、パーティー内のレベルが最も高い者が経験を得られる敵を倒した時のみ、活躍に応じて経験値は発生する。
故に、レベル1の者がレベル70の者とパーティーを組んで経験値を得るのは確かに可能だが、一人でグリーンスライムを倒すのと、ブルーデビルをレベル70の者と一緒に倒すのとでは、得られる経験値の量は一人でグリーンスライムを倒した方が多い。
無論、レベル1の者が一人でブルーデビルを倒せるならばレベル差に応じて多めに経験値は手に入るが、基本的にレベル1の者がブルーデビルを倒せる芽はない。それだけレベルによる力は絶対的な差があるからだ。
また、たとえパーティに所属していても何もしていない者に経験値は与えられない。
味方をサポートしても経験値が手に入るため、僧侶等のサポート職はパーティーを組めば楽に経験値を得られるが、それ以外だと、相手の攻撃を受けて耐える。もしくは貢献したと呼べるダメージを与えなければ手に入らないのだ。
故に、わざわざ高レベルの者とパーティーを組んで、死のリスクを背負う低レベルの者はほとんどいない。そして足手纏いを連れて、経験値を配分する高レベルの者もほとんどいない。
金を積まれて護衛、ドロップアイテム目当ての討伐、基本手出しはせず、命の危険があった時のみ加勢して助けるレベリングをする者はいるが、いずれも金持ちにしか出来ないことである。
基本は同レベルの者同士でパーティーを組むか、勇者パーティーのような特殊な目的をもってレベリングをするのが普通なのだ。
そして、村人は最弱のロール。レベル3の戦士と、レベル3の村人3人が殴り合ってどちらが勝つかと言われれば、戦士が勝つ。
レベル30の村人と、レベル15の戦士、どちらが勝つのかと問われれば、戦士が勝ってしまう。それ程までに村人は弱い。パーティーを組むのを避けられる程に、レベルを上げても強くなれないのだ。
金を得た村人が、金を積み、最低限身を守れるくらいにレベルを上げてもらうというのはよくある。親戚に、違う役割を得た者がいて、レベリングをしてもらったという話もよく聞く話だ。
だが、レックスは最大でもレベル30の村人しか見たことがない。何故ならレベルを上げたところで、村人は戦闘において無価値だからだ。
レベル30の村人がレベルを上げようと思えば、レベル30以上のモンスターを倒さなければならないのに、強さは戦士のレベル15にも満たない。
一体誰が、他の役割よりも遥かに高い死のリスクを背負ってまで、レベルを上げようとするのか?
しかし、目の前の村人は、999の数値を持っていた。
「あ……あ……ありえない」
レックスが震えながら放った言葉に、鏡の数値を見た全員が同意見だった。
ありえない事だった。かつて、歴代最高到達者と呼ばれ、魔王をギリギリの所まで追いつめたとされている伝説の勇者のレベルが253。
なのに、自分達と年齢もそう変わらない目の前の男、それも……死のリスクが最も高い村人が、その最高到達者を遥かに上回るレベル。
天地がひっくり返ったとしてもありえないことだった。
「一体どうやって? 何をしてその境地に辿り着いた! 村人如きが! どうやって? 答えろ……答えろ!」
その時既に、聖剣のことなどレックスの頭にはもうなかった。
5歳の頃から、自分は特別な存在で、期待と希望を込められて生まれてきたとレックスは思っていた。
自分にしか出来ない使命がある。自分以外の者には不可能な所業、だからこそずっと強くなろうと努力してきた。戦い続けてきた。
なのに、目の前の男はそんな自分の努力を遥かに凌駕する数値を見せつけてきた。
勇者という役割を与えられた自分よりも、遥かにレベルを上げるのが難しいその役割で、999に登りつめた現実が受け入れられなかった。
自分よりも不利な立場で、自分を越えた。頂点に立つべき自分を遥かに凌駕する存在、それがどうしても認められなかったのだ。
「毎日モンスターと戦ってたからかな?」
鏡はレックスのもやもやした心情とは真逆に、どうでもよさそうに欠伸をしながら答える。
その行動が、レックスのプライドに更なる傷をつけた。
「それくらい僕も同じだ! 仮にそうだったとしても、その数値は……ありえない」
「ただモンスターを倒すだけなら、同じかもな」
「ただモンスターを倒すだけならだと? ふざけるな! モンスターを倒した数だって、僕は誰よりも多い、自主的な特訓だって……!」
「ごちゃごちゃうるせぇぇぇぇ! 俺がどうレベルを上げたとか、お前が今まで何をしていたとかそんなのどうでもいい! これが現実! 以上!」
そして鏡は、このままだと自分が辿ってきた人生でも語らないと帰れなさそうだと悟り、一喝してこの場から去ろうとする。
「ほら行くぞ、妹」
「え? え……あ、うん」
言いたいことや聞きたいことは、レックス以外の者にもたくさんあった。
だが、何から聞けばいいのか、何を言えばいいのか整理がつかず、魔族の少女の手を引いてこの部屋から去ろうとする鏡を、レックスたちは黙って見送るしか出来なかった。
「待てよ……それだけの実力があって、お前は何をやっている? 何を目標として生きている? お前なら……魔王だって倒せるはずだ!」
だが、勇者として、聞いておかなければならないこと、それだけは自分のプライドや考えとは別に、レックスは言葉にして放った。放たなければいけなかった。
「え? お金を稼ぎながら普通に生きてるけど……別にいいよ魔王とか、そういうのは勇者様に任せるわ。俺、別に魔王が居て困ることないし」
次の瞬間、鏡は勇者の存在意義を否定するかのような言葉を口にする。実際、鏡にとって魔王はモンスターを生み出してお金を発生させてくれる。良い存在でしかない。
特に討伐する理由が鏡には無かった。例えモンスターが、人々に危害を加える存在だとしても。
だが、【倒されるなら倒されるで、それもどうでも良かった】
「…………な、そんな理由っ!」
失望、怒り、軽蔑、敗北感、色々な感情がレックスの中で入り乱れた。それだけの力をもっているのに何もしないその存在に対し。
だが同時に、何も言えなかった。力を持っているからという理由で、自分が馬鹿にしていた村人に戦うことを強要する勇者が居てはならなかったから。
プライドが、人としてのモラルが、レックスから言葉を奪った。
そんなレックスを見て、鏡はレックスの横を通り過ぎる時、
「お前はまだ……この世界の仕組みを知らない」
小さく、レックスにしか聞こえない声量で、そう呟いた。
レックスにはその言葉の意味がわからなかった。
すかさずどういう意図でその言葉を放ったのか聞こうと、鏡の方へと視線を向けるその瞬間、何も言えなくなってしまう。
鏡があまりにも、悲しげで、全てを知って失望したような、つまらなさそうな表情をしていたからだ。
何を知って、そんな顔をするようになってしまったのか?
その境地に至って、何を知ってしまったのか?
レックスにはとてもじゃないが聞けなかった。聞くのが、怖くなったから。
「ところで……聖剣は王家の所有物なのですが……」
その時、クルルにとっても去られる前に聞いておかなければいけないことを口にする。その瞬間、鏡は部屋から去ろうとする足を止めて腰を90度曲げた。
「それについてはマジすまんかった」
そしてあわ良ければこのまま逃げようと思っていた鏡は、すかさず謝罪する。