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LV999の村人  作者: 星月子猫
第二部
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気付くのが遅すぎた-12

 日が落ちて周囲はすっかりと暗くなり、月と星が暗闇を照らす空間の中、鏡とメノウはそれぞれ手ごろなサイズの岩の上に腰をかけてげんなりとした表情を浮かべていた。


「こんだけ探し回って何も見つからないとか……すぐ戻るつもりが時間かけすぎたな」


「むぅ……どうする鏡殿? 今から戻れば深夜になってしまうが、一度街に向かってまた明日にでも来るか? 野宿をするなら見張りをするが」


「王都ならともかく、街の方になると結構距離あるしな……今日探し回って成果の無かった場所に時間かけてまた来るのもなんかな」


「なら野宿だな。明日の朝にでもまた探すとしよう。……こう時間を掛けてしまっているのは私の責任だ。モンスターに襲われないようにする見張りは任せて欲しい」


「いや、仲間なんだしこういうのは一蓮托生だろ? 3時間交代で休憩しよう。メノウも疲れてるだろうしそんなの気にすんなよな」


 鏡はそう言うと背負っていた荷物を降ろし、こういうことがあった時のためにと、予めタカコに持たされていた寝袋を取り出し野営の準備を行う。


「すまない鏡殿。ならば、お言葉に甘えさせていただく」


「いいっていいって、それより、もっと小粋なトークが出来るようになってくれ」


「ああ……努力しよう」


 何も気にしていないのか用意した寝袋にすぐにくるまって笑顔を浮かべながらそう言う鏡を見て、メノウも柔らかい笑みを浮かべる。


 そんなメノウの表情を見て満足したのか、鏡もリラックスした様子で寝転がりながら、夜空へと視線を向けた。


「しかし……本当にこの森にいるのかねえ? メノウが見たって本がでたらめって可能性もあるんだろ? 嘘が書かれてたんならどうしようもなくないか?」


「本当にこの場所なのかは確かに怪しくはなっているが、この周辺にダークドラゴンが存在するダンジョンがあるのは間違いない」


「なんでそう言いきれるんだ?」


「本に記された場所を魔王様に確認した時のことだ。魔王様自身、そのダンジョンに足を運んだことはないと言っていたが……ある地点にとてつもない何かがいるとおっしゃっていた。丁度、本に記された場所辺りであるとも言っていた」


 その時のことを思い出してか、メノウは表情を曇らせる。


「何を感知して言ってるんだそれ?」


「わからん……私にも何を感じ取って言っているのかわからないのだ。エステラーもそれに気付いている様子だったが、魔王様やエステラー程の強力な力を持つ存在でないとわからない何かなのかもしれない」


 それを聞いて鏡は、力がなくて感知できないのであれば、自分に感知出来ないのはおかしいと苦笑する。


「どっちにしたって俺達には感知出来ない訳だし、どうしようもないな。どっかにそりゃいるんだろうけど、その場所にいけないんじゃいたとしても意味ないし」


「すまない。私も感知出来ればその場所の入り口を探し当てられたのだろうが……この森にダンジョンがあるという情報しかわからんのだ」


「本には、この森にあるって以外に、明確な場所は記されてなかったのか?」


「ああ、地図に描かれたこの森の中央に記しがついているだけだった。だがそこにダークドラゴンがいるとハッキリと書かれていた」


「聖の森の中央に記しねぇ……」


 それを聞いて、鏡は思案顔を見せる。


 そして、確実にいると記述されているのに、おおまかに聖の森に記しがついているだけという事実がどうにも鏡は引っ掛かった。


 王都の書庫にも、どのモンスターがどこに生息し、どのダンジョンにいるかを記した書物はある。普通、そういった書物は地図上だけではなく、どこにそのダンジョンの入り口があるか等も詳細に記載される。


 元々、聖の森にダンジョンがあるという情報を人間は知らないため、魔族が作る書物は人間が作った書物のようにそこまで詳細に情報を記さないのだろうと鏡は考えて溜め息を吐く。


「……待てよ?」


 だがすぐに、その情報をヒントに脳内で微妙に引っ掛かっていたものに気付き、鏡は跳ねるように寝袋から身体を起こした。


「突然どうした鏡殿? そんな血相を変えて」


「いや、もしかしてだよ? もしかしてなんだけど……」


 よく考えれば、この二つの情報は変に辻褄があっていた。


 そもそも、よく出入りする人間がこの聖の森にダンジョンはないとしているという情報。そして、明確な場所はわからないが、この聖の森にダンジョンが存在し、ダークドラゴンがいるとされている情報。相反しているように見せかけて、この二つの情報は重なり合わせられる。


「そもそもダークドラゴンがいるダンジョンへの入り口が……ないんじゃないか?」


「どういうことだ?」


「いや、ダークドラゴンが幻とされてるのって、最初に見つけたって人以外、誰にも見つけられてないからじゃん? 実際、人間の方にはどこにいるかなんて記した書物はないし、この聖の森に来る連中がダンジョンを見つけたなんて情報もないしさ」


「それはそうなのだろうが……それがどうしてダンジョンの入り口がないに繋がるのだ?」


「魔族はこの聖の森にダークドラゴンがいるってわかってるのに、人間が見つけられないっておかしいじゃん? 見つけられにくい場所にあるのかと最初思ったけど、魔族がそこに絶対あるって言うなら、つまりダンジョンの入り口がないって考えるべきだろ? だから、メノウが読んだって本にも大雑把にこの森って記してあるだけだったんじゃないか?」


「馬鹿な……入り口のないダンジョンなどありえるのか? なら、ダークドラゴンを最初に見つけたという者は一体どうやってそのダンジョンに?」


 そう言われて鏡は「うーん」と思案顔を見せる。そもそも入り口がないのであれば、そのダンジョンの存在に気付くことは出来ない。


 だが、入り口がないとするだけで魔族がこの場所にダンジョンがあるとしている情報の信憑性は高まっていた。


「特殊な方法で行ける場所なのか……それか見えてないだけなのか」


「特殊な方法か……そうであればお手上げだが、見えてないだけであれば地中の奥深くにあるとか?」


「それあるかもな、まだ寝るにはちょっと早いし、掘ってみようぜ」


 メノウがつぶやいた言葉に、鏡は試す価値はあると判断し、ダンジョン内で価値のある鉱石を見つけた時用にデビットに持たされていたスコップとマトックを取り出して地面を掘り始める。


「ま、待て鏡殿。そんな当てずっぽうに地面を掘って意味があるのか?」


「一応ここ、聖の森の中心あたりだし……掘るならここでいいだろ。どこにありそうかなんて目星つけられそうにないし」


「むぅ……そうだな。よし、私も手伝おう」


 それから、掘っている途中でモンスターに襲われないよう、交代で見張りをしながら二人は数十分かけて地面を掘り続けた。


「……これは」


 そして、8メートル程の深さを掘り進んだところで、順番で地面を掘っていたメノウの手が止まる。


「鏡殿! 下りて来てくれ!」


「どうしたんだ? さっき交代したばかりだろ?」


「いいから下りて来てくれ!」


 血相を変えて叫ぶメノウの様子を異常に思い、鏡は8メートル程の深さのある円形に掘った穴の中へと跳び下りる。


「これを見てくれ」


 そして、鏡が穴の中へと跳び下りてすぐ、メノウは驚愕した表情を浮かべたままシャベルを地面へと突き立て、足元の土塊をザックリと掘り上げた。


「……まじかよ」


 すると、何事かと困惑した表情を浮かべていた鏡もすぐに驚愕した表情へと変化する。


 掘りあげられて空いた穴が、まるで再生するかのように周囲から土塊が溢れて盛り上がり、これ以上は進ませないと言わんばかりに穴が塞がったからだ。

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