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LV999の村人  作者: 星月子猫
第一部 
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「俺達は勇者一行だ!」とか言ってる奴に草が生える件 -6

「村……人?」


 違和感しかなかった。疑問もたくさんあった。


 どうやってあれだけの攻撃を防いだのか? 村人がどうしてこんな場所にいるのか? どうして防具どころか、武器すらも装備していないのか? そして、何故魔族を庇うのか?


 理解し難い存在が目の前にいる。どうしてこんな状況で鼻をほじっているのか? 馬鹿にしているのだろうか? そんな考えが勇者パーティー全員の思考で巡っていた。


「あの時の村人か!」


 そしてレックスはようやく思い出す。目の前の村人と、ほんの数時間前に顔を見合わせたばかりなことに。あまりにも存在感がなさ過ぎて、レックスは鏡の存在をすっかり忘れていた。


「……どうやった?」


「っへ?」


「どうやって僕の攻撃を防いだ? 何をした? 一体どんなアイテムを使った!」


 どうしてここにいるのか、どうして魔族を助けたのかよりも、レックスはプライドを優先した。


 絶対の自信がある必殺技を、目の前の村人は無傷でやり過ごした。レックスにはその事実がどうしても信じられず、そして許せなかったのだ。


「アイテム? 何言ってんだお前?」


 苦虫を潰したような顔で返答を求めるレックスに、鏡は含みのある笑みを浮かべる。


「右手で防いだだけだ……まあそこそこ痛かったよ」


「右手……だと?」


 疎ましい表情で鏡を見つめるレックス。


「どうであれ、ご無事で何よりです。危うく一般市民の一人を殺めてしまうところでした」


 そんなレックスを宥め、クルルが一歩前へと出る。


 そしてクルルは礼儀正しく頭を下げた。この際どうやって防いだかはどうでもよかった。確かめなければ優先順位は、この目の前の村人が魔族を庇った理由。敵なのかどうかだったから。


「その子は魔族です。それを知った上であなたは庇ったのでしょうか? それとも……何も知らなかったのでしょうか? それを教えてください」


「いや、この子は魔族じゃない」


 クルルの問いに、鏡は「お前らの勘違い」と宣言するように、はっきりとそう返した。


 無論、鏡は理解している。目の前の少女が魔族であることを。


 そして鏡は知っている。魔族だから、勇者たちはこの少女を殺そうとしていることを。


「その少女からは、魔族が放つ魔力を感じられます。魔族以外にありえません」


「あー……それが魔族じゃないんだなぁ。こいつ、俺の妹だから」


 その言葉に、勇者パーティーの全員が目を点にした。少女に至っては「っへ?」と声をあげ、首を傾げて困惑している。


「い、妹さんですか? で、ですが……その魔力は? あなたは人間のようですが……」


「これだよこれ、ブルーデビルの角。効果は知っているだろ? 妹に持たせてあったんだよ」


 そう言って鏡は、目の前の少女のボロマントの中に手を突っ込み、あたかも、少女が持っていたかのようにレアドロップであるブルーデビルの角を見せつける。


 ブルーデビルの角は、角に込められた魔力が続く限り、所持者への敵意をモンスターから完全に消し去ることができる。ダダ漏れする魔力を保存しておくには、専用の瓶や皮袋が必要だ。


 ただし、その性質は魔族から放たれる魔力と同じで、ダンジョンで使えば大量のモンスターを生み出すことになってしまう。同じダンジョンに入った他の者からすれば、迷惑極まりないアイテムだ。


「ブルーデビルのクエストを受注していてな、たまたまドロップしたから、妹に持たせていたんだ。保存用の袋を持ってきてもいなかったし、勿体ないから安全の意味を込めて妹にな」


 そう言って、用紙に込められた魔力により、ブルーデビル30体を討伐し終えた証の浮かび上がるクエストの受注用紙を、鏡は勇者一行に見せつける。


 無論、鏡はブルーデビルの角を保存用の袋から取り出して見せつけたばかりで、持たせていたというのは真っ赤な嘘だ。


 今頃、目の前の魔族の少女が放つ魔力もあいまって「大量のモンスターが発生しているのだろうな」と鏡は遠い目を浮かべるが、これでまたクエストが発行されるなら美味しいとか、邪な考えを巡らせる。


「む……村人が、二人で? ブルーデビルを30体? き、聞いたことありませんよ!」


 少女が魔族ということよりも、目の前のクエスト用紙、それも達成済みの物を村人が持っていることに驚きを隠しきれず、思わずティナが声を張りあげる。


「ツッコミどころが多いわね、本当に村人なのかしら?」


 苦笑しながらパルナが問うと、鏡はすぐさまステータスウインドウの役割を見せつけた。見間違えることなく村人と書かれたステータスウインドウを前に、パルナは「うっそ……」と顔を引きつらせる。


 最初に村人と名乗ったのは、完全に嘘だと思い込んでいたからだ。


 ティナと同じく、高難易度のダンジョンに村人が挑むという話は、本当に聞いたこともなかった。


 故に、驚きを隠せない。


「ブルーデビルの角の効果は、もって5分程度ですが……」


 そこで、クルルが再び疑問を抱く。


 確かに村人がこんな所にいるのも驚きだが、5分しか続かないブルーデビルの角の効果が、都合よく今も続いていることに違和感があったからだ。


「失礼ですが、妹さんのフードを取っていただけませんか?」


「いや……それはちょっと、妹は恥ずかしがり屋さんだから」


「どうしてです? 今、ほんの少し脱いで姿を見せていただけるだけで、疑いが晴れるのですよ?」


「妹は……姿を見せると、照れ隠しに急にバーサーカーみたいに暴れだす病気なんだよ」


「そんな病気……聞いたことがありませんが?」


 まさかここまでしつこく問い詰めてくるとは鏡も思っておらず、明らかに誤魔化し方が雑になる。その様子を見て、もはや隠しきれないと悟ったのか、少女は自分からフードを外した。


「お、おい!」


 少女がフードを外すと、半分以上隠れていた頭部の全貌が明らかになる。


 宝石のように輝く艶のある赤髪、フェイスラインに沿って右側に垂らされた編み込まれたおさげ、そして、肩に掛かるくらいに延ばされた髪に混ざるように、後頭部から小さな角が二本、下向きに曲がるように生えていた。


 鏡はそれを見て、「あちゃー」っと、軽く溜め息を吐く。


「後ろを向いてください」


 クルルが指示を出すと、少女はその指示に素直に従い、背中をクルルたちのいる方向へと向け、後頭部に生えている角をさらして見せた。


「やはり……ですか、これは言い逃れ出来ませんよ?」


 そう言ってクルルは、所持していた武器のロッドを構える。対する少女は半分諦めていた。同時に、突然現れて庇ってくれた村人の青年に対し、感謝の気持ちを抱いていた。


 だが、言い逃れには限界がある。


 これ以上見苦しい言い訳を続ければ、仲間だと思われてこの村人も危なくなってしまう。ならば犠牲は一人でいい―—―—そう判断しての行動だった。


「いや、あれだ。この角は……アクセサリーです」


 だが、鏡は諦めずに意味不明な理由をこじつけて、少女を庇った。


 どう考えても見捨てるべきタイミングで、見捨てようとしなかった鏡に対し、驚きながらも少女は目を丸くし、鏡の顔を見つめる。


「アクセサリー? どっからどう見ても後頭部から生えているじゃないですか!」


 流石にこの苦しい言い訳には、クルルもレックスもティナもパルナも苦笑いだった。


「いや……その、あれ、あれです。後頭部の頭蓋骨に直接……その、角をはめこみました」


「は、はい?」


 想像するだけで痛々しく、不可能なアクセサリーの取り付け方に、勇者パーティーは思わず引きつった顔で硬直する。


「ほ、ほら、こんな感じに……ほぉい! って」


 そう言いながら鏡がブルーデビルの角を握り込んだ次の瞬間、台座の側面部分に「ズゴッ!」と鈍い大きな音を周囲に鳴り響かせ、ブルーデビルの角を腕力で無理やりねじ込んだ。


「えぇぇぇ……」


 その無理のある弁明に、ティナとパルナとクルルはドン引きする。


 だがその中でレックス一人だけが、その驚異的な行動に目を見開いた。


 今、この村人は、選ばれた人間しか持つことが出来ない聖剣が封印された特殊な素材で作られた強度の高い台座を、腕力だけで、それも、押し込むだけで破壊してねじり込んだ。


それがどれだけ異常なことなのか、レックスだけが瞬時に理解した。


「で、でも! そんな角の形をした動物も、モンスターも見たことありませんよ!」


 そして次に、鏡にとって耳の痛い言葉で、ティナは指摘する。


「それは……ですね。あの、……その、一回角を砕いた後に……接着剤でくっつけて、今の形に構成し直して……ぶっ刺しました」


 意味不明すぎるその言葉に、パルナは眉間に皺を寄せながら「はぁ?」と、言葉を漏らす。


 その様子を見て、鏡は慌てふためく。


「あ、違う! それはあれだ! 俺の従妹にしてあげた話だったー! 間違えちゃった! 妹には……そう! オリジナル! オリジナルで作った角を直接ぶち込みました」

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