激闘結婚式の後日譚-3
「治る見込みがないのは事実だが、それは現段階での話だ」
それだけでは伝わらなかったのか、アリスとパルナとメノウの三人は目を細めて首を傾げる。
しかし、鏡にはハッキリ伝わったのか――
「なるほど」
深いため息を吐いて、「話は終わりだ」と席を立ちあがった。
「結局のところ……どうしようもないってことだろ?」
「まあ、そうなんだけどな」
鏡はあまり気にしていないかのような余裕を見せながらメリーに問いかける。
「え、どうゆうことなの鏡さん?」
「來栖たちは長い時間をかけてようやくデミスを倒す術を見つけ出した。それと同じってことだよ……つまり、未来に託すのさ」
「未来って……そうか! 今はダメでも遠い未来なら、鏡さんの身体を治す方法を見つけられるかもしれないってことだね!」
治せる、その言葉だけを都合よく解釈したのか、アリスは顔を明るくする。
そんなアリスの頭をポンッと撫でるように叩き、鏡は苦笑した。
「……わかってるんだろ?」
鏡にそう問いかけられて、アリスは顔を暗くする。
「俺はその間、存在しなくなるんだろ?」
一応、もしかしての可能性にすがって鏡も油機に問いかけるが、油機はすぐに頷いて現実を突きつけた。
「存在しなくなる……は少し違うけどね、肉体の劣化を防ぐために凍結するだけ。意識をデータとしてアースクリアに閉じ込めておくことはできるけど……肉体とリンクしてないから、アースクリアが消えない限り、死ぬこともできなくなる。それが嫌なら……肉体と一緒に意識も眠らせるかだね」
つまりは、治療を望んだ場合、今を生きる者たちと同じ時を過ごせなくなるということだった。
「諦めようぜ。俺が過ごしたいのは今であって未来じゃない……お前らのいない未来で元気になっても寂しいだけだからな」
「……そうだよね」
納得したのか、アリスは少し落ち込んだ様子で呟く。
「セイジさんは、ぜひとも鏡さんには眠っていただいて、未来を生きる人たちの手助けをしてほしいって言ってたけどね」
「おいおい、俺をまだ働かせるつもりかよ」
「セイジさんが言うに、またデミスみたいなのが現れないとも限らないからだって」
「来るかもわからない強敵のために俺が未来にいないといけないのかよ。ごめんだね」
そう返すとわかっていたのか、油機は「だよねー」とあっけらかんとした態度で両手を後頭部へと回す。
「それに未来のことは、その未来に暮らす奴が頑張ってくれるだろ。俺たちみたいに」
「鏡さんみたいなのがいるかは怪しいけどね」
苦笑交じりにそう言って、お互い笑みを浮かべ合うと、話は終わりと言わんばかりに油機は立ち上がる。
「セイジさんに伝えとくよ、まあ、あの人のことだから、きっと別の方法を考えると思うけどね」
「期待しないで待っとくよ」
鏡が気にしていなさそうなことで安心したのか、メリーも表情を和らげて立ち上がる。
そして、気を取り直して指を鏡に突きつけると――、
「期待しないで待っておけ!」
アースに戻るため、管理者であるダークドラゴンが今も遊ぶ、カジノへと向かって行った。
「ボコボコにされたのにめげない悪役みたいな台詞吐いたなあいつ」
そんな二人を鏡たちは見送る。
「あんた……本当にそれでいいの?」
そこで、気にしていない風を装う鏡に、パルナは気難しい顔を浮かべながら問いかけた。
「二度と……アースに戻れないってことよ?」
「しゃーないだろ? 外を見られなくなるのは残念だけど、元々こうして生きているだけでも儲けものなんだし。……外にいる皆には、定期的にこっちに来てもらうってことで……俺の寂しさを補ってもらうさ」
「とんだ寂しんボーイね」
「いいだろそれくらい! 頑張った俺にそれくらいしてくれてもいいだろ!」
「大丈夫だよ鏡さん! 鏡さんの傍にはずっとボクがいるから!」
「私もいるぞ鏡殿!」
「アーウレシイー」
遠い目をしながら鏡は呟く。内心では、満たされた気持ちになりながら。
「遥か先の……未来か」
そのまま、鏡は空を見つめた。
世界を救うために、逃げ道として用意された作り物の空を。
「うん、やっぱりどうでもいいな」
遥か先の未来、この世界が不要となり、全ての人々がアースに戻っていたとしても、
遥か先の未来、アースが見たこともない発展を遂げていたとしても、
遥か先の未来、新たな敵が現れたとしても、
鏡にとっては全てがどうでもいいことだった。
鏡にとって居るべき場所、居るべき時間、そして故郷は未来でもなければアースでもなく、かつて神のルールによって負の運命に縛られていたこの世界、アースクリアだったから。
神を倒すために始めた旅は終わり、世界を縛っていた神はもういない。
求めていた世界、帰るべき故郷がここにある。
「さって、二人だけで遊びに行くぞアリス」
「え、本当に? クルルさん抜きで?」
なら、鏡がするべきことはもう決まっていた。
たとえ肉体が治らなかったとしても、やるべきことは変わらない。
「時間はたっぷりあるだろ?」
求めていた今を全力で楽しむ。それが、LV999の村人、鏡浩二の物語。
しかし、この世界の時間は平和になった後も続いていく、
いつか、鏡がいなくなった遥か先の未来で求めていた今が失われることもあるかもしれない。
とはいえそれはまた、未来で起きる、別の物語なのである。
ご愛読ありがとうございました。
今後、小説もちょくちょく書きつつ、現役で働くプロのクリエイターたちと協力の元、LV999の村人に負けないくらいのRPGゲームの開発に集中していきたいと思っております。
公開は恐らく2021年になりますが、気長にお待ちいただけると幸いです。
あとイラスト描くのに目覚めたので、成長を見守っていただける方は、ツイッターとピクシブにて公開していきますのでぜひとも登録の方、よろしくお願い致します。
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pixivは星月子猫でやってるので、なんとか気合で探していただければ。。。(リンク貼るのNGだった記憶があるので)