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LV999の村人  作者: 星月子猫
最終部
433/441

エピローグ-4

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 雪が解け、既にモンスターのいないロシアの土地では、ガーディアンを中心に少しずつ復興が始まっていた。ロシアの大地に生き残っていた動物たちを集めて家畜とし、古の技術を参考に過去の姿を取り戻していく。


 ガーディアンの到達者たち、そして、長年地下で暮らしていた人々は、少しずつ失われた時間を取り戻していくかのような労働にやりがいを感じ、活き活きとした毎日を過ごしていた。


「…………よぉ」


 そんなガーディアンの地下深く、ただの人間が長年地下で生活を行っていた居住区にあるセントラルタワー内のライアンの私室で、今にも息絶えそうな弱弱しい声を放つ、皺だらけの老人がベッドに横たわっていた。


「……ライアン」


 それを目に、セイジは悲しそうな表情を浮かべる。


 セイジをここまで案内したロイドとフローネも、セイジの背後に控えて同じように悲しそうな顔を浮かべていた。


「何故だ…………お前が作り出した技術だろう? 早くクローンを使って肉体を入れ替えろ」


「昔……お前が言ったんじゃねえか、ありのままでいることが……大切だってな」


 生き永らえようと思えば、ライアンはいくらでも生き永らえることができた。しかし、それをしない理由がわからないわけがなく、セイジは眉間に皺を寄せて拳を震わせる。


「お前……最初からそのつもりだったな? 気には……なっていたんだ」


 肉体を入れ替えられる者にとって、老人で居続けるメリットはない。


 思考能力も運動能力も低下し、あらゆる面で効率が悪くなるからだ。


 しかしライアンは、愛着を理由に頑なに変えようとしなかった。それがずっとセイジには疑問だった。


「俺は……お前と來栖みたいに強くない。本当は……ずっと前から俺の心はぽっきりと折れていたんだ。いつになったら……この地獄が終わるんだって思いながら……」


 皺だらけの手を天井へと掲げて、ライアンは感慨深く呟く。


「先に逝った來栖が少し羨ましかったくらいだ……だからよ、俺も、もう休みたいんだ」


 ずっと、死にたいと考えていた。だが、死ぬわけにはいかなかった。


 この世界で犠牲になった全ての者たちの想いを無駄にしてはならなかったから。


 だから、生き続けた。変わり映えのない地獄のような日々を。


 老人になるまで身体を変えようとしなかったのは、いつか終わりが来た時、自殺でもなく、寿命として安らかに眠りたいと考えていたからだった。


「デミスがいなくなった今でも、その考えは変わらねえ……若い身体に戻って、長生きしたいって思えないんだ……平和を取り戻して、満足しちまったんだろうな」


 まだまだやるべきことは残っている。だが、ライアンにはもう、それを見届けるだけの気力は残っていなかった。待ち望んだ平和を前に、もう一度身体を入れ替えて長い時間をやり直す選択をしたくなかったのだ。


「何なんだお前らは……ふざけるな! ずるいぞ! 俺ばっかりに……! 俺だけ残して逝くつもりなのか⁉ 身勝手だとは思わないのか⁉」


「思うさ、悪いなーってな」


「それで……俺には生きろというのだろ⁉」


 だがその考えは決して、変ではなかった。セイジも同じことをずっと考えていたからだ。ただ少し、ライアンよりも心が強かっただけで。來栖も、口癖のように「もう疲れた」と言っていたあたり、同じことを考えていたとセイジは思っている。


「別に……これから先もずっと生き続けろと言っているわけじゃない。お前も……時が来たらくればいい。でもよ……折角平和になって、お前の身体はまだ若いままなんだ。せめて……その身体が朽ちるまでは、平和になった世界を堪能してもいいんじゃないか?」


 若返っていたのは、デミスを倒すためであり、その使命を終えた今、若返る必要はない。街の復興に指導者は必要だったが、それはかつての時代を知る人物が一人でもいれば充分だった。


「それに、お前は昔から……面倒見が良かっただろ? こいつらを見捨てられねえはずだ」


「お前は見捨てるんだな」


「そう言うなって……セイジがいるから安心して任せられるんじゃねえか」


 何よりも、任せられると思える若者がいると、ライアンはロイドとフローネへと視線を向けた。


「だからさ、最後に一つ頼まれてくれねえか?」


 そう言うと、ライアンはベッドの横に置いていたガーディアンの施設を動かす管理者専用のリモコンを操作する。すると、部屋の出入り口とは反対側の壁が上昇し、隠された部屋が顔を出す。


「……これは?」


「回収に向かわせた奴がようやく戻ってきてな。まだ生きてはいるんだが……どういうわけか、一向に治らないんだ。スキルも発動してないみたいでな……このままだと間違いなく死ぬ」


 そこには、アースクリアで使われている物と同じカプセルが一つだけ置かれていた。


 カプセルの中は培養液に浸され、中に入っている者のバイタルを管理するためか、複数の配線に繋がれている。


 中に入っていた者に意識はなく、カプセルの下部から送り込まれる培養液に揺られ、目を覚ます気配は感じられない。また、筋肉の繊維が剥き出しになるほどボロボロの身体になっており、生きているとはとても思えない姿をしていた。


「お前確か、肉体がなくても意識だけをアースクリアに残せるようにしてたよな? そいつを使って……身体を治せる方法が見つかるまでは、連れて行ってやってくれねえか?」


「治す方法も……俺が見つけるんだろう?」


「悪いな……でもよ、世界を救った英雄が生きてなきゃ、ハッピーエンドって言いずらいだろう? それに……魔族の嬢ちゃんに約束しちまったからな」


 治すくらいまでは責任をもってやってくれとは、セイジは言わなかった。


 やれるなら、ライアンはやっているからだ。


「じゃあな…………頼んだぜ」


 全てを投げ出すくらいに、もう時間が残されていない。そしてその時間を延ばすつもりもない。


 先程のからの力強くもあまりにも弱弱しい声色からそれをハッキリと感じ取り、セイジは、恐らく二度と目を覚ますことのない老人を前に、悔しそうに拳を握りしめた。


「勝手だ……來栖も、ライアンも……本当に」


 二人とも逝ってしまった。使命を果たすや否や満足そうに笑顔を浮かべて。


 それが、どこか嬉しくもあり、切なくもあり、悔しくもあって、あまりにも複雑な感情を制御しきれずに、セイジは無言のまま拳を握り続けた。


 暫くして、決心したかのような顔つきでセイジは部屋から立ち去ろうと歩き始める。


「……セイジさん、どうか僕たちを導いてください。僕たちにはまだ……かつての時代を知るあなたの力が必要です。戦いはまだ……終わっていません」


 その後に続いてロイドが問いかけると、セイジは暫くの沈黙のあと、決意を抱いたかのような意思のある強い眼差しをロイドとフローネへと向けた。


「いいだろう…………俺は……俺は生きてやるぞ、かつての姿を取り戻すその日まで」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

次回更新は11/26予定です

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