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LV999の村人  作者: 星月子猫
最終部
426/441

LV999の村人-5

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 同時刻、未だ無数の敵に囲まれるエデンの宙域でレックスたちはまだ生き残っていた。


「目を覚ませパルナ!」


 体力の限界に達し、意識を失った一瞬を狙われてパルナの下に一斉にモンスターが覆いかぶさる。


 だがすぐに、近くで奮闘していたレックスが駆け付け、剣を振り払ってパルナを救出しようとする。だが、救出するには力が足りず、握りしめていた剣を振るった瞬間に手放してしまう。


 しかしそれでもレックスは、素手でモンスターを掻き分け、引き剥がすようにパルナの腕を掴むと、一目散にエデンへと向けて逃げ出した。


「レックス……私もう、駄目っぽい」


「ならエデンの中に戻って休んでいろ!」


「私を運んでいる暇なんてない……でしょうが、あんたも死ぬわよ……あんたも限界でしょ」


「お前を見捨てて戦うくらいなら、潔く僕も死んでやる。死ぬのが当たり前の戦場でも、助けられる大切な命を見捨てられるほど僕は……強くはない!」


 背後を振り返れば、パルナに覆いかぶさっていたモンスターが追いかけていた。


 逃げる速度よりも追いかける速度の方が速く、戦わなければ逃げ切ることはできない。


 しかし、剣を失い、ろくに力を出せない状態で、パルナを庇いながら対処できるとは思えず、レックスとパルナは終わりを感じて目を瞑る。


「そのままエデンへと戻ってください! 私が守ります!」


 しかし、モンスターに追いつかれ、鋭利な爪や強靭な顎で噛みつかれても大きな痛みを感じず、レックスは眼を丸くした。身体に仄かに灯った光を確認すると、レックスはハッと何かに気付いた顔つきでそのままエデンへと向かう。


「ティナさん……! それ以上はもう!」


「無理をするなティナ殿、ここはもう我々に任せて戻られよ!」


 直後、スキルによってレックスを守ったティナが血反吐をぶちまける。それだけではなく、ティナの目からは血管が切れたのか、血の涙が垂れ流れていた。


 ティナのスキルの発動には体力と魔力を使用する。


 力をコントロールしたことで消費を抑えられたとはいえ、数日間、休みもなく使い続けられる力ではない。


 魔力を補充する手段はあっても、体力はそういうわけにはいかないからだ。


 既にない体力を酷使してスキルを使い続けているせいか、それは身体的なダメージとなってティナに影響を及ぼし始めていたのだ。


「私が戻ったら……もっとたくさん、死んじゃうじゃないですか……駄目ですよそんなの」


 ティナは、それでも瞳に闘志を燃やし、傍でティナの護衛を勤めていたアリスとメノウへと気丈にふるまう。


「でもボクは……ティナさんが死んだら悲しいよ。誰かを守るために死んだとしても……嫌だ」


 それでもアリスは譲らず、ティナに視線を合わせて訴えかける。


「アリス様……!」


 だが、そうやって説得している暇も与えられず、敵は次々に襲い掛かった。初めの数体はメノウだけでなんとか防いだが、明らかに手数が足りておらず、メノウはアリスに助けを求める。


「タカコ様!」


 前線で戦う者たちを背後から援護をしていたデビッドは、突然ピクリとも動かなくなったタカコの下へとすぐさま向かう。無抵抗の状態を敵が放置するわけがなく、パルナと同じように一斉にモンスターが群がったからだ。


 すぐさまデビッドは浮遊していた息絶えた変異体二体を使ってスキル『等価交換』を発動させ、群がるモンスターの中にいるタカコと居場所を交換させる。


「デビッドさん…………私はもう、駄目みたい」


「何をおっしゃいますか……! まだ、あなたは生きているでしょう!」


「違うのよ……身体が、もう……動かないの」


 生命力を火薬にして爆発を起こすタカコのスキルは、当然ながら大きな体力を消耗する。


 これまでは強靭な肉体を持つタカコだから耐えられていたが、今や爆発も起こせないほどに体力を失っていた。それだけではなく、度重なる爆発に肉体が耐えきれず、肉の繊維が内部でずたずたになり、動かすことすらできなくなっていたのだ。


「デビッドさん……この戦いをもし生き残れたら……私と……!」


「弱みにつけこむなどあなたらしくありませんな! そういうのは戦いが終わったあとにお聞きいたします!」


 言われる前に、デビッドはタカコの身体を掴んですぐさまエデンへと向かう。


『ピッタ……生きとるか?』


『フラウ姉が無事なら……ピッタも無事です。でも……お腹すいたです』


『奇遇じゃな、妾もだ。久しぶりに……デビッドが作ったケーキが食べたくなった』


 何度も何度も敵を倒し続け、運よく生き延びてはエデンへと戻って補給を行い、そしてまた命がある限り戦場へと足を運ぶ。そんな状況に、フラウとピッタの二人の気力は尽きかけていた。


 戦場を駆け回っていたラストスタンドも、気付けば十分の一の数もいない。


 そんな状況でフラウとピッタの乗るラストスタンドが生き残れていたのも、ミリタリアとシモンの二人がまだ生きているおかげだろう。とはいえラストスタンドに乗っていても神経はすり減っていく。ミリタリアに至ってはスキルも発動し続けているため、もう限界に近かった。


『なあ父上……終わってしまう前に、どうしても聞きたいことがあるのだが』


 フラウはもう気付いていた。どうあがいても、自分たちが生き残る道はないことを。


 仮に生き残れる可能性があるとしたら、エデンに戻って戦いが終わるまで隠れることだろう。だが、フラウはそれをしなかった。そんなことをしてしまえば、自分がいなかったがために負担を強いられ、死んでいくことになる者たちに顔向けできず、一生後悔するとわかっていたからだ。


『不穏なことを口にするな……まだ私もミリタリアも生きている。必ず、あの男が未来を切り開いてくれるはずだ……耐えろ。耐えるんだ』


 シモンの言葉に、フラウはデミス本体のいる方向へと視線を向ける。


 デミスは今も尚、青い光を纏わせる鏡と戦い続けていた。自分たちが未だデミスに殺されずに耐えられているのも、鏡の力があそこでデミスを食い止めてくれているからに他ならない。


 とはいえ、鏡がデミスを押しているのかと言われればそうでもなく、むしろ、押されている状況に、一体その未来はいつになったらきり開かれるのかと、不安になった。


『父上……教えてくれ』


 だからこそ、聞きたかったのだ。仲間のために、鏡がその未来を切り開くまでの時間を稼ぐため、いつ死んでも悔いがないように。


『どうして妾には、洗脳を施さなかったのだ? 妾だけ……自由にさせてくれたのだ?』


 フラウの問いに、シモンはすぐに言葉を返さなかった。それだけで、これまでその事実を意図的に隠し通してきたのがわかった。


 ずっと気になっていた。姉であるニニアンに過酷なまでの教育を施し、鍛え上げようとしていたのは最初、時期皇女として育てるためにだとフラウは考えていた。だが、クルルが生まれ、ニニアンと同じように過酷な教育を施されたのを見て、ずっと疑問に感じていたのだ。


 疑問に感じながら、自分に課せられないのであればそれでいいと、ずっと聞かなかった。聞けば、自分にもその過酷な運命を背負わされることになるのではないかと恐れていたからだ。


『妾と姉様とクルル……何が違ったのだ? どうして……妾だけ?』


 それに対して劣等感を抱いたことはなかった。


 むしろ、自分は選ばれた存在などと勘違いし、幸せに思っていたくらいだ。だが、全てを知り、こうして戦いの場にいることで疑問に感じたのだ、使命を捻じ曲げてまで、自分を甘やかした父親の意図を。


『それが……アレとの最後の約束だったからだ』


 思い出したくなかったことなのか、シモンは誤魔化すように大剣、エッケザックスを振るい、モンスターを薙ぎ払っていく。


 アースクリアにいる多くの冒険者たちを犠牲にしてきたシモンが、私的な理由でフラウだけを見逃した。


 それは王として、ヘキサルドリア王国の管理者として、許されない行為だった。


 しかし、シモンもまた、人の子だったのだ。


 ニニアンを産み、そしてフラウを産んで亡くなった妻との最後の約束を守りたいという我儘。母親の顔すらも知らない我が子を、母親のいない分の愛情を注いでやりたいという父親心だった。


『フラウ……お前はアレとよく似ている。だから、本音を言えばお前には来てほしくなかった』


 それでも、自分の意志で立派に戦うことを決意したフラウを、父親として誇らしく思った。まさかここまで生き残れるとは思っておらず、娘の成長を実感して。


 そして、後悔した。洗脳など施さなくても、自分の娘たちは立派に道を歩めたのではないかと。娘を信用せずにニニアンとクルルに洗脳を施したのは間違いだったのではないかと。


 とはいえ、それを言葉にするのは無責任すぎた。


 正しかったことも間違っていたことも含めて今がある、それを否定するのは、たとえ間違った選択だったとしても、それを乗り越えてきたニニアンとクルルを否定するに等しかったからだ。


『……父上』


『だが……どうやらもう、終わりのようだ』


 吹っ切れたような顔で、シモンは呟く。


 まるで「良い夢を見せてもらった」と言わんばかりの軽い口調に、何事かとフラウとピッタは周囲を見渡す。すると、原因はすぐにわかった。


 遥か遠くで戦うデミスが、自分の分身である変異体とモンスターで動きを封じた鏡に対して、巨大な魔法陣を向けていたからだ。


『…………お父!』


 見ただけでもまずい状況であるのがわかり、ピッタは叫ぶ。


 直後、デミスの手元から一度エデンを襲った純粋な魔力による衝撃、マジックバーストが鏡へと向けて撃ち放たれた。手元に掻き集められた小隕石が散弾銃のようにすぐ目の前にいる鏡を巻き込み、マジックバーストによる眩い光に包み込まれる。


「…………鏡さん!」


 誰もが見ていたその瞬間を視界に、アリスも叫んでしまう。


 放出されたマジックバーストはそのまま月面へと衝突し、大きなクレーターを作り上げる。同時に飛ばされた小隕石は月面を叩きつけるように次々に衝突し、山のように重なった。


 マジックバーストだけではなく、隕石の衝突による暴力的な破壊に耐えきれる生物が存在するわけがなく、青き閃光を放っていた鏡の姿は完全に消え去ってしまう。


『次は……お前たちの番だ』


 そして、その場にいた全員の脳裏に、絶望が囁かれた。


「おしまい……ですね」


 シモンと同じく、悔いのない吹っ切れた顔でロイドは呟く。


「どうやら、そのよう……ですね」


 次々に倒れる仲間たちの戦力を補充するため、変異体とモンスターの死体を操り戦わせていたフローネも、丁度、操るために必要な最低限の魔力すらも無くなったのか、微笑を浮かべて操るための魔力の糸のリンクを切った。


 そうやって次々に、戦っていた者たちは戦意を喪失させていく。全員、どこかやりきったかのような顔つきで。無論、まだ戦う者たちもいたが、全員の心は同じだった。


 諦めたのではなかった。ただ、出し尽くしたのだ。もう、何もだせないのだ。


 なのに、敵の数は減っているかどうかもわからないくらい残っており、さらにはデミスの周囲に残っていた敵もこちらへと向かってきている。


 デミスは、鏡がダメージを与えてくれたおかげか、マジックバーストの反動で動けないのかはわからなかったが、すぐには向かってこなかった。それでも、デミスが直接手を下さなくても滅びるのは時間の問題だった。

次回更新は10/29予定です

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