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LV999の村人  作者: 星月子猫
最終部
424/441

LV999の村人-3

「め……メノウさん⁉」


 直後、デミスの鎧が崩壊し、デミスの触手による脅威がなくなったため、戦い続けて失った体力を回復するために一度エデンへと戻ってきたティナが姿を現す。


 ティナは遠目からメノウの姿を見つけると、弾丸のような勢いで駆け寄って飛びついた。


「ティナ殿も、久しぶりだな」


「久しぶりって……どうしてここにいるんですか⁉」


「すまないが積もる話はあとだ、我々は――」


「どうして⁉」


 アリスに伝えたように今はそんな場合じゃないと、メノウは話を切ろうとする。しかし、ティナは譲らなかった。譲らず、今にも泣き出しそうな悲しそうな顔を浮かべてメノウのマントの裾を力強く握りしめると、精一杯の声量でそう叫んだ。


「どうして…………教えてくれなかったんですか?」


 そして、すがるようにティナは問いかけた。


 どうしても、それだけは聞きたかったのだ。


 メノウの姿を見た瞬間、それが、自分たちと共にこの世界へとやってきたメノウでないことはすぐにわかった。でも、だからこそ、聞かなければならなかった。


 居たのであれば、自分が一番辛い時に、どうして傍に居てくれなかったのかを。


「…………すまない」


 そして、メノウはそんなティナの顔を見つめると、申し訳なさそうに目を瞑った。


「來栖殿の頼みだったのだ。私の存在はギリギリまで明かさないと……それがいつか必ず、鏡殿たちのためになると言われたのだ。私も……それを信じた」


「來栖さんが……?」


「ああ、だがな……ティナ殿」


 それは結果的に、多くの者たちの力を引き出すこととなった。


 無論、メノウも傍に居たいと思う気持ちはずっとあった。だが、耐えたのだ。この瞬間のために、最後の戦いを終えて、全員が笑って暮らせる日々が再び訪れるようにと。


 そんな色んな思いを喉奥に押し込んで、メノウはティナの頭をポンッと撫でた。


「私は……ずっと見守っていたぞ?」


 これまでの頑張りを褒め称えるように、メノウは告げる。すると、我慢できなくなったのか、言葉にできない複雑な感情が溢れ出し、ティナは「が……頑張りましたぁ~!」と、子供のように泣きじゃくった。


 そんな二人のやり取りを、アリスは嬉しそうに見届ける。


「來栖……! 來栖はいるか……⁉」


 その時、一同が戻ってきたのを管制室で目視していたのか、二人の護衛をつけたセイジが慌ただしく走りながら姿を現す。全力で走ってきたのか、セイジは戻ってきた一同の目の前で立ち止まると、息を切らして肩を上下させた。


「……來栖は⁉」


「來栖さんは……亡くなりました」


 キョロキョロと周囲を見渡すセイジに、ロイドは顔を俯かせると、ハッキリと來栖の死を告げた。


 殺しても死なないような男だっただけに衝撃だったのか、セイジだけではなく、その情報を耳にしたアリスやティナたちまでもが目を見開かせる。


「來栖が……死んだ、だと?」


 おかしくはなかった。


 むしろ、デミスの体内へと入り込んで、これだけの人数が生き残っていることのほうがおかしいくらいだった。死んで当然、不思議ではない。不思議ではないはずなのに信じられず、セイジは身体を震わせる。


「最後にリーシアさんをその手でデミスから切り離し……デミスが放った爆発に巻き込まれて」


 そしてロイドは、來栖の最後の死にざまをセイジへと伝えた。


「そうか……來栖、お前はリーシアを…………リーシアを救えたんだな」


 するとセイジは、瞳に涙を浮かべ、どこか安堵した、清々しさの感じられる微笑を浮かべる。


 來栖が亡くなったことに対する悲しみの感じられない、どこか、喜びに満ちた顔で。


「ようやく…………辿り着いたんだな」


 それだけが目標だった。それだけが目標で、來栖は変わってしまった。


 そんな男の生涯をずっと見てきたからこそセイジは思った。


 心の底から「よかった」と。


 あまりにも辛く、そして険しい旅の道のりを終えた來栖を少しばかり羨ましく、素直に凄いと認めて、セイジは満足そうな笑みを浮かべたのだ。


 だが、戦いはまだ続いている。感傷に浸っている余裕はなく、セイジは、感極まり震えた身体を、握り拳を作ることで強引に止めた。


「…………状況を報告してくれ、何が起きているんだ?」


「私からご説明致します」


 それから、現在の状況をデビッドはその場にいる全員に語った。


 デミスの体内の中心部で起きた話を、これまでデミスと思っていた敵は、デミスが作り出した本体を守るための鎧でしかなかったことを。


 そして、リーシアの他者を取り込む力を得て、より強い存在へ昇華するために鏡を取り込もうとしていることを。


 そんなデミスを今、鏡がたった一人で喰い止めようとしてくれていることを。


 全て、語った。


「……鏡さん」


 今も尚、遠くで激しい戦いを行っているのか、飛び交う閃光を視界にアリスが祈るように呟く。


 生きていたことを嬉しくは思ったが、それでも無事な状況とはいえず、不安になったからだ。


「鏡様が勝利すれば……この戦いは終わるでしょう。ですが、鏡様が敗北すれば……我々人類は確実に終わります。それほどまでに、デミスは……強すぎるのです」


 デミスが強いのは、要塞とも呼ばれたガーディアンの外壁を削りとる力を持った鏡が、決めてにかけて倒せずに今も戦っていることから想像はできた。


 デビッドの言葉通り、鏡が敗北した時が、人類の最後の時となるのだろう。


 だが、一同には鏡の心配をして援護に入れる余裕もなかった。


「大事なのは……鏡とデミスが戦いを終えた時、俺たち人類が生き残っているかどうかだ」


 戦火は刻一刻毎に激しさを増していく、何故なら、敵の戦力がほんの十数分前に比べて、何百倍にも膨れ上がったからだ。


「ハッキリ言って……かなり厳しいぞ」


 固まって行動すれば、一度に戦闘できる人数は限られてくる。


 各地に散らばって戦っていた獣牙族やアースクリアの出身者たちも、デミスの鎧から撃ち放たれるマジックバーストと、デミスの触手によって一網打尽にされる脅威がなくなったため、エデン周辺に固まって戦闘を行うことで戦況を維持していた。


 現状、なんとか死に物狂いで戦うことで耐えているとはいえ、戦っている者たちは既にまる三日間、ほとんど休むことなく戦い続けて疲弊している。


 そんな中での敵の増援は、あまりにも絶望的すぎた。


 それでも諦めず、冒険者たちは果敢に挑み続けるが、敵の攻撃の手数も増え、新たに追加された見たことのないモンスターたちの攻撃に翻弄され、一人、また一人と死んでいく。


 全滅へのカウントダウンは、既に始まっていた。


「どこへ行く?」


 その時、無言のまま背を向け、ロイドとレックスの二人が歩き出した。


 何も言わずに行こうとする二人を、セイジはすぐさま呼び止める。


「……僕たちが行かなければ、戦力は刻一刻と減り続けるでしょう。せめて、戦力が減り始めるまでの時間を……僕たちが稼ぎます」


「……とてもじゃないが戦える状態とは思えない。今お前たちを無理に戦わせて死なせれば、それこそどうしようもなくなるだろう」


「だが……ここで僕たちがやらねば誰がやる?」


 レックスの問いに、セイジは答えられなかった。


 残っている選択枝は『多くの戦力を犠牲にし、主戦力の体力を取り戻したあと全滅する』か『主戦力を犠牲にし、多くの戦力を犠牲にせずに暫く保ったあと全滅する』しかなかったからだ。


 むしろ、全滅までの時間を稼げる分、ロイドたちが提案する後者の方がマシ。


「安心しろ、僕はただの勇者じゃない……勇者の中の王、勇王だ。どれだけ絶望的だとしても、無理を通して必ず乗り越えて見せる……師匠のようにな」


「僕もただの勇者じゃなくて剣聖ですから、そこで戦いが起きているならば、最後の最後まで前線に立ってその剣を振るわないと……名折れになってしまいます」


 死地へと向かうのが当然と言った顔で、二人は言い切る。


 そんな二人を前に、こうしている間にも死人が出続けている現状で「行くな」とは言えず、セイジは苦悩し、押し黙ってしまう。


「アリス、魔力補充用の小瓶……まだ残ってる? 残ってるなら持ってきてくれない?」


「アリスさん、私の分もお願い致します」


 すると、精神的にも肉体的にも疲弊しきっているはずのパルナとフローネが戦う意志を示した。


「無茶だ……回復魔法やポーションだけでは傷や魔力は回復できても、肉体的な疲労までは回復できない。パルナとフローネも既に数日間戦いっぱなしのはずだ、立つのも辛いだろう!」


「なら、俺が行こう。さっき回復してもらったばかりだからな……まだいける」


 セイジの揚げ足をとるように、バルムンクが前へと歩を進める。


「俺はまだまだやれる……なら、俺は行かねばならん。俺は……隊長だからな」


 ロイドとレックスに感化され、既に限界を超えて精魂尽き果てていたはずの一同に闘志が燃え滾る。戦えないからと休んでいては、勝利を掴みとれないことをわかっていたからだ。


「私は当然やるわよ……こう見えて、私タフなんだから! 火傷さえ治ればまだまだいけるわ!」


「見たままタフだと……いえ、おほん! 私もデミスの体内ではサポートに徹していましたからな、皆様よりかは余力が残っているはずです」


 そして、命からがら戻ってきた一同全員が、再び死にに行く決意を示す。


「私も…………まだ魔力に余力はあります」


「あんたは休んでなさいクーちゃん」


「ですが……!」


「あんたが活躍するまでの時間稼いであげるから、さっさとその傷を完全に癒してきなさいって言ってるの。焦っても仕方ないでしょ?」


 横になるクルルに視線を合わせながらパルナは訴える。


 人のことを言えた立場ではなかったが、今参戦したところで足手纏いにしかならないという意志を感じ取ると、クルルは素直に「わかりました」と呟き、回復に専念する。少しでも早く、大切な仲間たちを助けられるようにと。


「本当に…………いいのか? 死ぬぞ!」


「セイジさんは、來栖さんの言葉をもう忘れたの?」


 心配して問いかけるセイジに、アリスが訴えるような眼差しで見つめる。


 そして、その言葉で気付いたのか、セイジはそれ以上何も言わず、「頼んだ」とだけ口にした。


 レックスたちは死なずに戦おうとしているのではなく、來栖の約束を果たすために、死んででも世界のために戦おうとしているのだとわかってしまったからだ。


 同時に、こう思った。




 なんと凄い者たちなのだろうと。




 鏡の心の強さ、來栖の千年の想いを受け継いだ者の意志はなんと強いのだろうと。


「行くぞ………………勝つために!」


 レックスの音頭を合図に一同は頷き、再び立ち向かう。


 未来の見えない、絶望しか待っていない無数の敵の海で、希望を掴み取るために。

次回更新は10/23になります

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