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LV999の村人  作者: 星月子猫
最終部
423/441

LV999の村人-2

『ふふ……ははははは! それでこそ喰らいがいがある!』


 だが、デミスは笑っていた。これも想定内のダメージであり、意にも介していないのか、当然のように抉られた傷を徐々に再生させていく。完全に回復される前に鏡はダメージを与えようと引き続き光熱線をデミスへと向けて殴り返し続けるが――


『そら、無防備だぞ?』


 デミスが翼から光熱線を連射し続けたまま、手元に巨大な魔力による光の剣を生成させたのを見て顔を強張らせた。


 それが、デミスが放ったマジックバーストと同じく、濃密な魔力で生成された剣であるのが一目でわかったからだ。


 当たればたとえ『反魔』の力を持っていたとしても、その質量から発生する圧倒的な衝撃から逃げられず、一度月面にまで飛ばされたように吹き飛ばされるだろう。


 そうなれば、戦線復帰に時間が掛かり、その間に仲間がデミスの手によって殺されてしまう。


『さあ、どう対処する?』


 そしてデミスは、その巨大な光の剣を鏡へと向けて一直線に振り下ろした。


 振り下ろされた光の剣は、光熱線も巻き込んで大きな爆発を引き起こし、光熱線を殴り返していた鏡もろとも真下へと振りぬかれる。


「おいおい、無防備だぜ?」


『…………ぬぅ⁉』


 想定外だったのかデミスは声を荒立てる。


 確実に当たったはずだった。光の剣が鏡に触れるその瞬間までそこにいたはずだった。


 だが、気付けば鏡はデミスの背後へと移動していた。


 右手に、闘魔剣を握り、チャージによるオレンジ色の光を輝かせながら。


「お返しだ」


 反応して避けようと思った時にはもう遅く、鏡は剣を振り上げていた。すると、振りぬかれた剣の切っ先から、闘気と魔力が複合された巨大な斬撃がデミスを襲う。


『むううぅぅぅぅう!』


 鏡の放った限界の限界を超えた一撃を前に、まともに当たればただではすまないと即座に判断したのか、避けるのを諦めてすぐさま両腕と両足を駆使して身構え、斬撃を身体で受け止めた。


「まじか……?」


 自信のある一撃だった。これまでであれば、どんな敵が相手でも一撃で葬りさるほどの一撃。しかしデミスは、両腕と両足を失うどころか、ただ大きく傷が入る程度で耐え凌いだのだ。


『……随分と速いのだな。素晴らしい』


 そして尚も余裕を見せ続ける。


 その余裕に、鏡も少しばかり苦い顔を浮かべた。確実に決まったと思っていたからだ。


「一応……全力だったんだけどな」


 時の感覚を狭めるスキル『エクゾチックフルバースト』は、Actが進むごとに更に時間の感覚を狭める。Act1であれば一秒を五秒に、Act2であれば一秒を十秒にと、少しずつその性能あげていくのだ。


 そして、鏡が今使っていたのは、かつて鏡がクラスチェンジする以前に許された限界のAct『エクゾチックフルバーストAct5』だった。それは一秒を、三十秒の感覚にさせる。


 その力を使い、デミスの光の剣が当たる直前に反応して回避し、デミスに動きを悟られないほどの速さで背後へと移動し、無防備な身体に最強の一撃を叩き込んだのだ。


「……参ったな、つえーわ、こいつ」


 その結果は、軽傷。少しの傷をつけただけ。そしてそんな傷も、時間が経てば塞がってしまう。


『楽しくなってきた……さあ続きを始めよう』


「…………全然楽しくねえよ」


 速さでは勝っていても、全力の一撃を叩きこんだところで倒せず、一度でも相手の攻撃を受ければ重傷を負わせられる。


 間違いなく、鏡がこれまで対峙してきた敵の中で最も強い相手だった。それも、鏡の中でずっと眠っていたスキル『リバース』が力を発動するにふさわしい敵と判断するほどに。


 なのに『リバース』の力があっても埋まらない力の差があり、鏡は少しばかり戦慄する。


 だがすぐに気を取り直して闘魔剣を握りしめた。大きなダメージは与えられないが、ダメージは与えられる。今のように傷を負わせられるならば、何度でも挑んでその傷を息絶えるまで刻み込んでやればよいのだと。


「俺が一発もらうのが先か、お前が息絶えるのか先か……勝負といこうぜ」


 最後に立ち塞がる相手にふさわしい、巨大な力を持った敵を前に、鏡はこれまで経験してきた理不尽な戦いの数々を脳裏に過らせる。


 そして、久しぶりのひりついた感覚に「上等だぜ」と不敵な笑みを浮かべると、鏡は死を覚悟した。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「皆!」


 ロイドたちを乗せた白い光を放つ球体がエデンの頭上へと接近すると、白い光は失われ、そこから一同はエデンへと帰還する。


 死地へと赴いた見知った顔ぶれの帰還に、いち早くそれが何かに気付いたアリスが、嬉々とした表情で駆け寄った。


「…………みん…………な?」


 そして、言葉を失う。


 デミスの体内へと突入した百十数名あまりの部隊が、十六名にまで減ってしまったのも衝撃的だったが、何よりも、戻ってきた一同のボロボロとなった姿があまりにも悲惨だったからだ。


 フローネとパルナは魔力がほとんど残っていないのか、苦しそうに肩で呼吸しながら顔を青くさせ、あのタフなバルムンクでさえも腹部を大きく負傷して額に汗を浮かべている。


 一体何があったのか、クルルは首から肩にかけて大きく負傷した痕が残っており、意識はあったが立つのも辛そうに膝を崩していた。


 いつも余裕のある表情を浮かべていたロイドも生傷だらけで、辛そうな顔で汗を浮かべ、中腰になって呼吸を整えていた。同じくレックスも、立っていられないのかその場に座りこむ。


 タカコも全身火傷だらけで、何度も自分の身体を犠牲にスキルによる爆発を巻き起こしたのが窺えた。いつも取り乱すことのなかったデビッドも、服をボロボロに汚して生傷だらけで話すのも辛いのか、気難しい顔で息を整えている。


「……アリス」


 直後、パルナが親指を立ててアリスへと向ける。「約束は守った」と言わんばかりに。


「みんな……よく戻って…………!」


 想像を絶する戦いをしてきたのだろうと、アリスは悲痛な表情を浮かべる。


 だがすぐに、戻らなかった者のことを考えると不謹慎だったが、そんな姿になってまでも生きて帰ってきてくれたことを素直に嬉しく思い、明るい笑みを浮かべた。


 その時、バルムンクの背に隠れて見えていなかった一人の男の姿がアリスの視界に入る。


「……メノウ?」


 いるはずのない存在を目に、アリスは信じられないと言った顔で目を見開くと、存在を確かめるようにゆっくりと歩み寄った。


「お久しぶりです……アリス様」


 メノウも、アリスと視線が合うと、どこか悲しげで控えめな笑みを浮かべる。


「どうして……?」


「全てを説明するには……今は少し時間がありません」


 そう言いながら、メノウはさらに激化した戦場へと視線を向ける。


 今も尚、エデンの周囲では油機とメリーの乗るラストリボルト、シモン、ミリタリア、フラウとピッタの乗るラストスタンを含め、多くのラストスタンドの部隊たちが、ウルガとペスの率いる獣牙族たちが戦っていた。


 エデンに残っていたロットとディルベルトも、ロイドたちに駆け寄って手を止めることなくディルベルトのスキルを駆使し、ロットの弓矢を率いた狙撃で次々に敵を撃ち落としている。


 余力のあるメノウが、こうして悠長に話をしている余裕などなく、今すぐにでも戦線に復帰しなければ未来がない状況だった。デミス本体という死地を抜けたには抜けたが、それでもこの場所も死地と呼ぶに充分な過酷な戦場。


 デミスの本体に乗り込んだ一同でなくとも、数日間、戦線を維持するために戦い続けていた冒険者たちは既にかなり疲弊していた。


 そこに、これまでの十数倍以上の数の敵が増援に入った絶望的な戦況。なのに、まだ誰も諦めていない。


「説明は……あの者たちが掴み取ろうとしているものを掴んでからでいい。そうでしょう?」


「……メノウ」


「ただ、これだけは言わせてください……あなたとこの世界で過ごした記憶は無くしてしまいましたが、この世界を生きた私自身の意志を継いで、私はここにいます。それは他でもない、私自身が決めたことです」


 言いたいことは山ほどあった、でも、あまりにも多すぎて言葉を選びきれず、アリスは共に魔力の補給を行うためにエデンへと戻っていたエステラーへと顔を向ける。


 そして、理解する、エステラーが戦いの途中で言っていた言葉の意味を。


 後は紐解くように、どうしてここにいるのかはすぐに理解できた。自分も同じような理由で、こうしてここで戦っているからだ。


 そうしたいから、それが自分の最も求めることだからここにいるのだと。


「……おかえり」


 だから、多くは聞かず、アリスは優しい笑みを浮かべてそれだけを伝えた。

次回更新は10/18予定です

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