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LV999の村人  作者: 星月子猫
最終部
422/441

終章 LV999の村人

 数十分にも感じられる数秒間の静寂が一同を包む。


 変異体やモンスターを含む敵たちは未だ動きを見せていなかった。それがなんとも不気味で、一同もこちらから攻撃を仕掛けられず、相手の出方を待ち続ける。


 姿を現した巨大な人型の生物、デミスそのものと思われる存在も動かず、ただ一点だけ静かに見つめていた。


『やはり……この程度ではくたばらぬか』


 少し残念そうな声色で、でもどこか、期待通りであると喜んでいるように呟く。


 爆発時、飛び散ったデミスの鎧の肉片に遮られていた鏡たちの姿が見えたからだ。


 デミスも、威圧的な殺気を感じつつも、実際に見ないと生きているとは信じられなかったのだ。


 普通であれば、どれだけ強靭な生物であっても、あの爆発からの消滅は免れないから。


 だが鏡は、その場にいた味方を含めて、きっちりと守り通していた。


「なんとか耐えられたみたいだが…………戦況は絶望的だな」


「おびただしい数の敵ですね。まさか、飛び散った肉片の全てがモンスターと変異体に?」


「冗談きついわ……言っとくけど、私はもう魔力ないわよ?」


 周囲を見渡して、バルムンクとフローネとパルナは顔を強張らせた。


「僕は鏡さんが休ませてくれたおかげで少しだけど余裕がありますが……それでも、この人数を相手に立ち回るのは厳しそうです」


 ロイドもすかさず、失った剣の代わりに闘気による剣を作り出し、いつ攻められてもよいように前方へと構える。


「フローネ、君はまだ戦えますか?」


「……敵の死体があればなんとか。今なら死体を吸収されることもなさそうですから」


 ロイドの地獄への誘いに、フローネは頷いて戦闘態勢に入る。


「だったらその死体の魔力を利用して、私も戦うわ」


 すると、二人が諦めずに戦おうとする意志に賛同して、パルナも身構えた。


「いや……お前らは全員下がれ。下がって今すぐにセイジたちの勢力に合流しろ」


 だがそんな三人を落ち着かせるように、ゆっくりとした口調で鏡が忠告を促す。


「……一人で戦うつもりですか?」


「ハッキリと言った方がいいか?」


 冗談で言っているわけではないのかをロイドが確認すると、鏡はロイドを一瞥する。何を言わんとしているのかすぐに理解すると、ロイドは何も言えずに押し黙った。


「ここは鏡さんの言葉通りに下がりましょう……幸い、敵はまだ動いていません」


「なに言ってんのよロイド……あんた、鏡を見捨てるの?」


 すぐに引き下がったのか予想外だったのか、パルナは声を荒立てる。だが、ロイドは落ち着くようにパルナの肩を掴むと、首をゆっくりと左右に振った。


「見捨てるわけではありません。一度体制を整えに戻るんです……今の僕たちがここに居ても邪魔なだけでしょうから」


 つまりは、足手纏いということだった。これから始まるのは希望と絶望の正面衝突、神の領域と言っても過言ではない戦いなのだ。そこに、常人が介入できる余地はない。


 それがたとえ、鏡を除けば人類最強の部類に入るロイドとレックスであっても。


「ふん、僕は最初から下がるつもりだったぞ?」


「嘘つきなさいよ」


「本当だ。僕はもう戦うべき場所を見誤ったりはしない。ここは……どう考えても師匠の戦場だ」


 最初から残ったところで何の役にもたたないことは理解していたのか、レックスは特に引きずった様子もなくハッキリとそう告げた。とはいえ、心配はしているのか背中から漂う哀愁のようなものに気付いて、パルナも「……そうね」と素直に引き下がる。


「そうですね、我々では明らかに戦闘力不足です。特に私は何もすることができないでしょう。それに……未だメノウ様の背中を借りなければならないクルル様お連れしたまま戦うわけには参りません」


 メノウの背中で今も苦しそうに呼吸するクルルを見て、デビッドは告げる。意識は既に取り戻しているが、それでも危険な状態にあるのは変わりはなく、このまま戦闘を続けるのは厳しい。


「すみません……メノウさん、世話をおかけします」


「気にするなクルル殿、どちらにしろ、私にはどうしようもない戦場だ。かつて、ダークドラゴンの下に鏡殿と共に行った時のことを思いだしてしまうな」


「メノウちゃんのサポートは任せといて、きっちりクルルちゃんをエデンにまで送り届けるから」


 まだ少しばかりの余力があるのか、タカコは片目を瞑って鏡へとウィンクを飛ばす。今は、それすらも心強いのか、鏡は微笑を浮かべて「任せた」と頷いた。


『我が、行かせるとでも?』


 無論、みすみす見逃してくれる相手でもなく、当然のようにデミスは人と同じ形をした手を向けて、元はデミスの鎧だったモンスターたちを操作し、一斉に襲わせる。


「俺が、やらせるとでも?」


 しかし、近付いてきた無数のモンスターたちの全ては、眼にも止まらぬ鏡の殴打の連続によって消し飛んだ。どれだけの数で攻めてこようが、自分がいる前では無駄だと訴えるように。


 直後、鏡は仲間たちを守る宇宙船を強くイメージした。


 すると、先程も展開していた光の壁にも似た、白い光を放つ球体状のフィールドがロイドたちの周囲に展開される。


 そして、そのフィールドが展開された直後、鏡はエデンが待機する方向を確認し――――


「っちょ、あんたまさか! ちょっとおおおおおおおぉぉぉぉ…………」


 球体状のフィールドを、ボールを扱うが如く全力で蹴りつけた。


 すると、パルナの叫び声が遠ざかると共に、球体状のフィールドは軌道上にいた変異体やモンスターを蹴散らしながら猛速度で吹き飛び、エデンが待機する方角へと向かって行く。


『なるほど。やられる前に逃がすか…………ならば』


 鏡の行動を見て、再びデミスは手を前へと掲げる。


 その動作を視界に映した無数のモンスター、そして変異体たちは一斉に鏡を無視して動き出し、白い光を放つフィールドを追ってエデンの方角へと飛んで行った。


『逃げた先でやればいい』


 勝ち誇ったかのような声が脳内に響き渡り、指を鏡へと突きつける。だが、鏡は一切動じることなく、むしろ不敵に口元を歪ませて一笑した。


「浅はかだな、それで俺が動じるとでも思ったか?」


『……ほう?』


「俺があいつらに逃げて欲しかったのは……お前がいたからだ。お前から遠ざけられたならあとは何も心配してねえよ……どんだけモンスターを送り込もうとな」


『つまり……何が言いたい?』


「あいつらを……舐めんなってこった!」


 デミス本体ならともかく、デミスがこれまで蓄え、身体の一部にしてきた生物たちの相手をすることで簡単に死んでしまうほど、ロイドたちは――――ティナやアリスたちは柔じゃない。


 どれだけ敵が向かおうとも、自分がデミスを倒すまで、必ず耐え抜いてくれる。


 そう信じていたからこそ、鏡はハッキリと告げられた。


『ならば、お前を殺してすぐに我も向かおう。そして、全てが終わる』


「やれるもんなら……やってみな」


 鏡の挑発を合図に、デミスは背中に生えた巨大な翼を大きく広げた。すると、翼から生える羽一枚一枚が突如輝き始める。その数、おおよそ数千。


 直後、羽一枚一枚から常人が触れれば消し飛んでしまう熱量の光熱線が放たれる。光熱線は鏡の位置を的確に捉えると、目にも止まらぬ速度で一直線に飛来した。


 無論、棒立ちしてもろに攻撃を受けるはずがなく、鏡は全身を覆う魔闘気の力を利用し、自分自身を弾として魔法を撃ち放つことで、ジェットパックに頼ることなく宇宙空間を縦横無尽に動き回り、光熱線を回避していく。


『……ならこれはどうだ?』


 回避は予想していたのか、デミスは慌てた様子もなく手を交差させる。


 鏡に当たらずそのまま直進していた光熱線は、デミスの手の動きに呼応すると放物線を描いて引き返し、再び鏡へと直進を始めた。


 鏡は無論、再度光熱線を回避するが、どれだけ避け続けても追いかけてくることを瞬時に悟ると、デミスが新たに攻撃を加えてくることを恐れ、鏡は逃げるのをやめて停止する。


「はぁぁあああああああああああ!」


 すると鏡は、身体能力強化の魔法を自分へと付与してさらに力を漲らせると、全方向から迫ってくる光熱線を、どんな魔力も跳ね返すスキル『反魔』の力を使って殴り飛ばした。


 跳ね返された光熱線は、手の範囲限定でイメージした通りの精確さで捌き、神が如き力を加えるスキル『ゴッドハンド』によって、一発一発確実に、さらに威力を増してデミスへと一直線に飛んだ。


『ぬ…………⁉』


 機関銃を撃ち放つが如き殴打の連続で跳ね返された光熱線は、次々にデミスへと命中する。


 爆破魔法を含んだ技だったのか、光熱線はデミスの身体を抉るように焼いたあと、大きな爆発を発生させた。

次回更新は10/14予定です

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