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LV999の村人  作者: 星月子猫
最終部
415/441

変化し続ける存在-5

 直後、周囲を囲っていたモンスターと変異体たちは、突如を現れた青い閃光によってほぼ同時に左右上下問わず、弾け飛ぶように肉の壁へと叩きつけられ、一瞬のうちに全て絶命する。


「よぅ……生きてるか?」


「死にそうだ……だが、生き残れるのかもしれん」


 その青い閃光は立ち止まると、大量のモンスターに覆い被されて瀕死状態に追い込まれていたバルムンクに手を差し伸ばした。


「背中を地面にくっつけてダメージをやりすごしてたか? やっぱすげえ戦闘センスだな」


「ふん……お前には負ける」


 バルムンクはその手を掴み取ると、弱弱しい動きで立ち上がった。


「か……鏡、あんた…………生き、生きて」


 その姿にこれまでにない安心感を感じ取ったのか、パルナは声にならない言葉を発して、震えながら涙をこぼす。その姿を見た瞬間「助かった」と思えたからだ。


 それだけの安心感を与えるほどに、鏡の存在は大きかった。


 むしろ、その存在なしに、よくここまで耐えたと自分で自分を褒めたいくらいだった。


「開通したわ! 生き残っている皆は早く降りてきて頂戴!」


 直後、まだ鏡が来たことを知らないのか、下で穴を掘り続けていたタカコが叫ぶ。


「だとよ? とりあえず行こうぜ、回復魔法が止まらないように……慎重にな? デビッド、クルルを運ぶのを手伝ってやってくれ」


「お任せを」


 積もる話はあったが、まずはそれよりも犠牲になった者たちの想いを無駄にしないために、デビッドはクルルの身体を抱き上げ、パルナは回復魔法の効果が切れてしまわないように傍に寄り添いながら、穴の中へと飛び込んだ。


 生き残ったのは來栖、ロイド、デビッド、タカコ、レックス、クルル、パルナ、バルムンク、フローネ、戦士二人、魔法使い一人、僧侶一人と、たったの十三人だけだった。


「……さてと」


 一同が穴の中に飛び込んだのを見届けて、鏡はデミスの体内の奥の通路に視線を向ける。


「ぬぁぁぁぁああ⁉ もう少し優しく運んでくれないか鏡殿!」


 そして、猛速度で跳躍すると、緊急事態だったためその場に置いていったメノウの下へと戻り、戻るや否や服の裾を掴んで引っ張り上げ、再び戻って一緒に穴の中へと飛び込んだ。


「か……鏡ちゃん⁉」


 そして降り立つや否や、早速地面を掘り進めよとしていたタカコとレックスが驚愕の表情を浮かべ、現れた鏡に視線を向ける。


「し……師匠、やはり生きて……生きていたのか⁉」


 自然と、二人から笑みがこぼれる。こんな絶望しか待っていないはずの空間で、こんな奇跡が起きるものなのかと言いようのない感動が押し寄せたからだ。


 そんなレックスを前にして、鏡は少し顔を俯かせる。


 自分が不在だったせいで、これほどまでに過酷な想いをさせてしまったのだと感じたからだ。


「お前はもう、立派な勇者様だな。誰も……お前を笑ったりはしない、俺が笑わせない」


 だからといって、謝るのは違った。


「よくやってくれたレックス……ありがとう。お前は最高の勇者だよ」


 謝れば、レックスたちの覚悟を否定してしまうことになったから。


 そしてきっと「お前一人の戦いじゃない」と言われて怒られるだろう。だから今は、しっかりとここまで辿り着いた勇者の姿を目に焼き付け、感謝を述べるのが労いだと鏡は判断した。


「やってくれたようだね…………メノウ君」


「すまない、通信機が壊れて連絡がとれなくなってしまった」


「構わないよ、こうして、連れてきてくれたんだから」


 その姿を見て、來栖も安心して深いため息を吐くと、メノウに視線を合わせて微笑を浮かべた。その微笑にメノウも、やり通した戦士のような顔つきになって頷き返す。


「メノウ…………なのか?」


 メノウの姿を見て、一番驚いた顔を見せたのはレックスだった。そこにいるのが信じられず、近付いてはマジマジと見つめ、ペタペタと身体を触って本物かどうかを確認する。


「な、何をするのだ! 私は正真正銘本物のメノウだ! ……まあ、レックス殿たちと共にこの世界に来たという記憶はないが」


 それを聞いてレックスも理解し、一瞬俯いて暗い顔を見せる。ここにいるメノウは、レックスが約束を交わしたメノウではないのだと。


 だが、それでもメノウには変わりはないと顔を振るわせると、メノウに手を差し伸ばした。


「…………よく、帰ってきてくれた」


「ああ、ただいまだ……レックス殿」


 メノウはそんなレックスの反応に笑みを返すと、その手を掴み取る。


「僕は……………強くなったぞ」


「…………ああ」


 この場にいるメノウには、レックスと交わした約束の内容はわからない。


 だが、メノウはレックスの手を強く握り返した。握り返さずにはいられなかったのだ。


 メノウが知っているアースクリアを出る前のレックスと、今、目の前にいるレックスはまるで別人だった。


 傷つき、それでも鏡のように諦めずに前へと進み続けられる覚悟を宿した強い眼差し、ボロボロになった身体であがき続けたのが窺える鎧を身に纏い、肌は生傷だらけ。


 この世界で、想像絶する試練を乗り越えてきたに違いなく、そんな試練を乗り越えた男が自分に「強くなったぞ」と言うのだ。


 この握手がレックスにとってどれだけ大切な意味を持つのかわからないわけがなく、だからこそメノウは、尊敬の意を込めて握り返した。


「鏡君の救出のためにメノウ君を向かわせたんだ。顔なじみなら……鏡君もやりやすいと思ってね、駄目だったかい?」


 その問いかけに、文句を唱える者はいなかった。どうしてメノウがここにいるのかなんて些細なことで、大事なのは結果だったから。


 來栖の独断でメノウがここにいるとしても、メノウが鏡を救い出したのならば、それは正しい判断だったのだ。


「クーちゃん、クーちゃんしっかりして……助かったのよ私たち、眼を覚まして!」


 そんな中、パルナの必死な叫び声が響き渡る。


 クルルの容態が気になった一同は一斉に駆け寄り、どういった状況なのかを確認した。


 パルナが回復魔法をかけ続けたおかげか、既に血は止まり始めている。だが、クルルの意識が戻らない状態だった。


「魔力が……もうなくなる! そっちはどうなの? バルムンクの容態は?」


 バルムンクの治療に当たっていた生き残りの僧侶の女性にパルナは問いかけるが、バルムンクもかなりの重症を負っており、僧侶の女性は首を左右に振って手伝えないことを促す。


 すぐさま他の者に視線を向けるが、フローネやロイドもほとんど魔力が残っておらず、クルルを回復しきるだけの魔力は掻き集めたところで残っていなかった。


 打つ手なしの状況に、パルナは悔しそうに拳を地面に叩きつけるが、すぐさまメノウがパルナの肩を優しくポンッと叩き、落ち着くように微笑みかける。


「私の魔力を使えパルナ殿、貴殿はスキルで他者の魔力を利用できるのだろう? 私はここに来る道中でまだほとんど何もしていないのでな……多少使われたところで消えはしない」


「メノウ……! あんた、助かる……本当に助かる! ありがとうメノウ」


 心の底から感謝しているのか、潤んだ瞳でパルナはメノウの身体へと触れ、メノウを経由して魔力を利用し、メノウ手元から回復魔法を発動させる。


「大丈夫だ、必ず良くなるぞクルル殿」


 未だ目を覚まさないクルルに必死に語りかけ、メノウとパルナは回復魔法をかけ続けた。


「しかし、やはりさすがですねあなたは、こんな場所でさえ、メノウさん……でしたか? 共に行動する者が何もしなくてもいい状況を作り出せるなんて」


 自分たちと比較して、戦った痕跡すら感じられないピンピンとした二人の様子にロイドは素直に尊敬し、安堵の溜息を吐いた。


「どれだけ敵が現れようが、あなたには関係のないことなのですね」


「……敵?」


 すると、ロイドの言っている言葉の意味がよくわかっていないのか鏡は首を傾げた。その反応に、ロイドは訝しく表情を歪める。


「……おかしいね」


 その時、現状の状態が不自然に感じたのか、來栖が周囲をキョロキョロと見回し始める。


「どうしたんですか來栖さん?」


 その挙動が気になり、ロイドは声をかけた。


「いや……敵が来ないと追って来ないと思ってね。さっきまではあれだけ迫ってきたのに」


「確かに……そうですね、敵が追ってこない」


 言われて気付いたのか、ロイドも不審に感じ始める。

次回更新は9/19予定です

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