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LV999の村人  作者: 星月子猫
最終部
407/441

それは、その一瞬でしかなくて-5

「行くよ! ここからが本番だ!」


 先陣をきったのは來栖だった。


 肉体改造を施して、アースクリア出身者に近しい身体能力を得ていた來栖が勢いをつけて飛び上がり、エデンを覆っていた重力場を抜けて、そのまま一直線にそこから一番近かった体内への洞穴へと飛んで行った。


「護衛致します!」


「油断するな! 敵はまだ大量にいる……こんなところで死なれたら困るぞ!」


 それを追って、ロイドとレックスの二人がエデンの地上を力強く蹴りつけて飛び上がる。


 二人が飛び上がったあと、事前に同行することを告げられていた勢力はお互いに顔を見合わせ、表情からお互いの覚悟を確認して頷くと、次々にデミスの体内に続く洞穴へと向かった。


「クーちゃん! あたしたちも行くわよ」


 パルナの掛け声を受けて、クルルも頷くと一同の後を追う。


 パルナもすぐさま追いかけようと足に力を籠めるが――


「パルナさん! 皆……!」


 アリスによって呼び止められる。しかしパルナは、一瞬だけ迷うとすぐに飛び上がった。


 聞くのを拒むかのように。


「皆の帰る場所……ボクたちが必ず守るから!」


 去り際、アリスの言葉を聞いて、パルナは何も言わずにアリスを一瞥すると、親指を立てて笑みを浮かべる。それだけで、どうしてその仕草を見せたのか理解すると、アリスは悲しそうな表情を浮かべた。


 帰って来られる保証はない、だから何も言わなかったのだと。


「無理はしないようにと」言ってくれたのだと。


「無理するよ……だから、絶対皆で帰ってきてね」


 とはいえ、最早なるようにしかしならない。ならばあとはもう、信じるしかなく、アリスも覚悟を決めた戦士のような顔つきでデミスの体内へと向かった一同を見届ける。


「頼みましたよ……皆さん!」


 時同じくして、ディルベルトの背中に張り付いていたティナも、全員が無事に戻って来るように少しばかりの祈りを捧げた。


『総員! デミス細胞と変異体たちから來栖たちを守れ! 絶対に……後を追わせるな!』


 その時、來栖たち突入部隊が一斉に移動したのを見てか、エデンに降り立っていた変異体たちが一斉にエデンを離れ、來栖たちが体内へと入り込まないように追いかけ始めた。


 それまでエデン目掛けて攻撃を仕掛けていた触手も、突如動きの軌道を変える。


『エクゾチックフルバースト……! まだ余力が残っていたか!』


 そして触手だけではなく、変異体たちまでもが肉体が急激に強化されたかの如く、勢いを増して來栖たちの下へと移動し始めた。


 度々発動をしていたが、消費が激しいのか常には使ってこなかった。使ってきてもティナのスキルによって大きな被害もなかった。だが、今は來栖たちの傍にティナはいない。


「あっはぁぁぁ! この展開は読めていたよ、この高貴なる存在にはなんでもお見通しさ!」


 だが、その動きを先に読んでいた海パン一丁の男がいた。


 いつの間にかディルベルトはラストリボルトの背後へと回っており、ラストリボルトの頭上には魔王とエステラーの姿もある。


「外さないでくれよ君たち! さすがに同時にこの人数に力を与えるのはきついのでね!」


『わかってる! …………すげぇ、さっきまでの敵の動きが嘘見たいだぜ!』


 ラストリボルトを経由して、ディルベルトの持つ『エクゾチックフルバースト』の効果がそれに触れているメリー、油機、魔王、エステラーにも伝わっていた。


『エクゾチックフルバースト』は時間の感覚を狭めるスキルであり、身体能力を強化するスキルではない。脳から身体に動きを命令する速度も早まるため、肉体を更に扱いこなすことはできるが、限界以上の動きはできない。


 だが、今のメリーと魔王とエステラーに身体を動かす必要性はなかった。ただ、狭まった時間の感覚で動く的を狙うだけで良いからだ。


『獣牙族の方がよっぽど良い動きしてるぜ……くらいな!』


 直後、ラストリボルトが構えた魔力銃器の砲口から魔力弾が撃ち放たれる。それは的確に來栖たちを追っていたデミスの触手へと命中すると、貫通してその陰に隠れていた変異体の頭部を撃ち抜いた。


 それに合わせて、魔王とエステラーが爆破魔法を放ち、敵が來栖たちに接近しないように援護を行う。そして、來栖たち自身も敵が周囲に寄らないように攻撃を繰り返していたのもあってか、來栖たちは遂にデミスの体内へと入り込んでいった。


『……よし!』


 勝利したわけでもないのに、大きな歓声が沸き上がる。


 しかし、それも束の間のことで、体内へと入られて追うことができなくなったデミスの触手はすぐさま標的を切り替え、再びエデンを襲う。


『ここまでは前回の戦いよりも上手くことを進められている。だが……油断できん! 來栖たちが戻って来るまでここを死守! チャンスがあれば外部からもデミスへ攻撃を仕掛けるぞ!』


 デミスの触手が折り返してこちらに向かってきたのを見て、エデンの地上にいた者たちは一斉にエデンから離れて散開した。一箇所に固まることで一網打尽にされる可能性を無くすためだ。


 ティナのスキルの力が及ぶ範囲で戦力を分散させ、デミスの戦力を少しずつ削っていく。それができたのも、こちらの一人一人の戦力が、変異体たちよりも圧倒的に勝っていたからだ。


 エデンの施設内部で待機していた戦力も、セイジの合図を受けて一斉に外へと飛び出す。


「アリス様! 私のサポートをお願い致します! 決して離れぬよう……孤立すれば殺されると思ってください!」


「わかった! エステラーの背中はボクが守るよ!」


 エデンの周囲を守ったのは、魔族とラストスタンドの部隊だった。いつでも補給を受けられるようにするためだ。


「「はぁぁぁぁぁぁぁあああああ!」」


 アリスとエステラーを筆頭に、エデンの周囲で魔族が得意とする爆破魔法が、巨大な爆竹を投げつけたが如く連続で巻き起こる。魔力が尽きれば消滅してしまう関係上、威力の高い大きな爆発を巻き起こすわけにはいかなかったが、それでも変異体やデミス細胞を駆逐するのには充分な威力だった。


 また、触手による攻撃は、ラストスタンドの部隊が巨大な魔力銃器と片手剣を駆使して防いだ。


「やりますねアリス様、昔のように……仲間に頼って見ているだけの子供ではないのですね」


「当然。ボクはずっと鏡さんの傍にいた女だよ? 回復だってできるんだから」


 岩陰に隠れて震えていた少女が、随分と成長したものだと、エステラーはかつて鏡と初めて対面した頃のアリスの姿とを比べ、感慨深い表情を浮かべる。


 それと同時に、あの日に抱いた気持ちと、可能性を信じた自分は間違っていなかったと実感した。何故なら、こうして自分たちが、人間と共に戦っているからだ。仮にあの時、信じなければ魔族との和睦は実現せず、自分たちはここにいなかっただろう。


 それもこれも、魔族と人間を繋げてくれたアリス、そして――


「なんか変な感じ、いつもメノウと一緒にやってた合わせ技をエステラーとやるのって。メノウと三人で使ったら、もっと凄い威力になったのかな」


 出掛かった男の名を、丁度アリスが口にしたことでエステラーは思わず笑ってしまう。


「…………きっと、実現しますよ」


「……え?」


「奴は、必ず戻ってくるはずです。私が魔王様の右腕ならば、奴は……左腕ですから」


 未だ、メノウからの連絡はない。既に死んだかどうかはわからなかったが、死ぬのであれば最後に何かしらのメッセージを残すだろう。何故ならメノウは、律儀な男だったから。


「さあ、喋っている余裕はありません! 近くにいるのから片付けますよ!」


 そう考えながらエステラーは持てる力のありったけ、目の前の戦場へと注いだ。


「無重力……厄介ダ」


 その戦場の一画で、弾丸のような速度で変異体を蹴りつけながらウルガは呟く。


 敵を蹴りつけた反動で宇宙空間の遥か彼方にまで飛んでいってしまわないよう、來栖より支給されていた手袋形のジェットパックからガスを噴出させて、ウルガは慣れない宇宙空間での戦いに苦い顔を浮かべた。


 獣牙族はこれまで培ってきた周囲への警戒力と戦闘センスを生かし、場所に拘らず散らばって変異体の駆除へと当たっていた。


「ウチはもう慣れタけどナ」


 そんなウルガの周辺で、流星がごとき体捌きで変異体を次々に蹴り飛ばすペスの姿があった。


 既に宇宙空間に慣れたのか、掌底打をぶつけたタイミングで位置を調整するためのジェットパックを放出し、威力の強化に使っている。


「ウルガが手こずルのハ珍しい、オモロイ」


「面白がってイル場合ではナイ、コレではマトモニ動けん」


「簡単ダ、止まりタケれば着地点を考えればイイ、これに頼ルナ」


 ペスは腕に装着されたジェットパックを主張すると、着地点となる変異体を指差した。それだけで理解したのかウルガも「ナルホド」と相槌をうつ。


「敵はウジャウジャいるキ、足場には困らん、本能のママに暴れレレバいい、勘の良いヤツは既ニやっとル」


「ならば、俺たちノ仕事はかく乱ダナ」


 ウルガはそう言うと、近くに漂流していた小隕石を蹴りつけて、変異体の下へと一直線に飛びかかる、そのまま変異体を勢いよく蹴りつけると、その反動を利用して違う変異体の下へと飛び掛かった。


 早くもコツを掴んだウルガの様子に、ペスは納得顔でうんうんと頷く。

次回更新は8/21予定です

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