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LV999の村人  作者: 星月子猫
最終部
404/441

それは、その一瞬でしかなくて

「ここまでは想定通りですな」


 状況確認のためにエデンの大陸の端へと移動し、後方を振り返ったデビッドが安心して肩の力を抜いた。隣には、同じく気になって確認しに来たのか、ラストスタンドに搭乗していない他の主力メンバーも追従している。


 後方では、エデンを飛び出した者たちが早くも遠ざかり、激しい攻防を行っているのか、ラストスタンドが撃ち放った魔力弾や魔法による光があちこちで煌めいていた。


「凄い威力だったわ……レベル100や200を超える魔法使い千人が一斉に広域殲滅魔法を使うと、あんなことになるのね」


 同じくうまく事が運ぶか不安だったのか、タカコも安堵の溜め息を吐き出した。


「昔の超人しか知らないデミスからすれば、想定外の攻撃だったでしょうな……旧文明の兵器に頼らずとも、あれほどの威力を発揮するとは思ってもいなかったでしょう。クルル様の素晴らしい一撃といい……真に恐ろしいのは人の力といったところですかな」


「いやん、デビッドさん……私、怖いわ!」


「ふぉっふぉっふぉ! ちょっと……無理がありますなぁ! 勘弁願いたいですなぁ! はは!」


 くねくね身体をひねりながら近付いてきたタカコに、デビッドはたまらずそう返す。


 するとタカコは「そうよね、皆、覚悟を決めてここにいるものだもの、私だけ怖がるなんて……無理があるわよね」と深刻な顔を浮かべて反省の意を示した。


 そのやりとりを隣で見ていたティナは反射的に「ちょっとポジティブな解釈しすぎでは?」と顔を引きつらせるが、タカコの耳には届かない。


「全力で追いかけてきているな」


 デビッドに続いて、レックスが後方を確認する。


「どうやらそのようだな……戦力をもう少しこちらに割くべきだったか? だがこれでハッキリとしたな、デミスは我々の接近を恐れている。前回の敗北からただ学習しただけかもしれんが」


 気になったのかエステラーも後方を確認すると、気難しい顔を浮かべた。


 まだ遥か後方にいるが、途中で飛び出した者たちと交戦せずにこちらを追ってきている敵が目に見えて大量にいたからだ。


「だが……少し安心シタ。コレであの場に残してきた者たち、ソレと、地上で戦ってイル者たチの負担が減ル」


 むしろ、望むところなのか、ウルガは笑みを浮かべてそう語る。


 対照的に魔王は、気乗りしないのかエステラーと同じく気難しい顔を浮かべていた。


「それを喜んでいいのかどうかは怪しいところだがな、その分、私たちが働かねばならん」


 まだ余裕はあったが、エデンに持ち運んだ魔力タンクには限界がある。戦わなくてもいいのであれば、戦わずに魔力を温存したかったのだ。


 とはいえ、この事態を想定していなかったわけではなく、魔王は諦めたように溜め息を吐く。


 その時、不安なのか、浮かない顔をしたアリスが視界に入り込んだ。


「緊張してるのか?」


 肩の力を抜くように、背中をポンッと叩いて魔王が語り掛ける。


「う、うん……少しだけ。上手くやれるかなって、ちょっとだけ不安になっちゃった」


「案ずるな、今日に限ってはお前の傍にいるのはいつもの面子だけではない、獣牙族、旧文明の兵器、アースクリア出身の冒険者たち、そして私たち魔族がついている」


 安心させるように微笑を浮かべた魔王に頭を撫でられ、アリスから徐々に緊張が抜けていく。


「そうよ、しっかり守ってもらいなさいよ? あんたの傍にいるのは……ロイドやレックスに匹敵する力を持った……魔王様なんだから」


「あれ、パルナさん? 魔法使いの部隊の指揮を任せられてたんじゃ?」


「任せられたのはあの時の一回だけよ、ていうか、私よりレベルの高い連中が集まってるのに私があーだーこーだー指示を出すとか間違ってるでしょ」


「それだけパルナさんがロイドさんに信頼されてるってことだよ」


「言いやすいってだけじゃない? わからないけど」


 実際はどうかはわからなかったが、戦力としてしっかりと数えられていることをパルナは素直に喜ぶと、照れ隠しに帽子を深く被る。


「めっちゃ浮く! 宇宙……気に入っタ! ……楽しい!」


 その時、くるくると宙を回転したペスが目の前を横切った。


 ふと気になって周囲を見渡すと、ペスとは違って不安定な重力の状態に驚き戸惑う者たちの姿が視界に入る。


「出番はまだなんだから、あれくらい気を抜いてもいいのよ?」


「いや、あれは抜きすぎでしょう?」


 ほぼ多くの獣牙族がうろたえる中、一人だけ楽しそうにはしゃぐペスを、アホを見るような目でティナは眺めた。


 本来であれば無重力であるはずの宇宙だったが、高速で移動するエデンから一同が離れてしまわないように磁場が発生しており、身体はかなりふわついていたが四方八方に飛ばされてしまうような状況にはなっていなかった。


「というか……ここ、宇宙なんですね。なんていうか……本当凄いですね、旧文明って」


「まあね……多分普通の状態なら今頃どっかに吹き飛ばされてるでしょうし」


 不安定な重力の空間に慣れていないのか、ティナは足元がおぼつかない様子で必死にバランスを保とうとする。とはいえティナはまだ慣れていない様子だったが、アースクリア出身の多くの者が既にその身体能力を生かして制御し始めていた。


「そういえば、フラウとかメリーの姿が見えないが、どこに行ったんだ?」


 周囲を見渡しても見知った顔が一部いないことに気付き、レックスが問いかける。


「エデン内部の格納庫だと思うけど? すぐに出られるようにラストスタンドの部隊は搭乗して待機しているってさっきロイドさんが言ってたわよ? ……ミリタリアも、あの後すぐに慌てて格納庫に走っていったし、どっちが格納庫なのか迷ってたみたいだけど」


 いつも涼しい顔をしているミリタリアが慌てていたのを思い出して、パルナは軽く笑った。


 そんなパルナを見て、既に過去の因縁とは決別しているのだと感じると、レックスは感慨深い表情で「お前も……強くなったな」とおもむろに言葉を吐く。当然、急に褒められて困惑したパルナは赤面して「きゅ、急に何よ……」と帽子を恥ずかしそうに深く被る。


「しっかし……まあ、凄いわねこれ、あたしたちが手を出さなくてもほとんど倒してくれているじゃない。どれだけ兵器を積み込んでるのかしら」


 するとパルナはわざとらしく誤魔化した。


 それを目撃してしまったティナはすかさず「気を抜きすぎでは?」とツッコむ。


 実際、パルナの言葉通りエデンに引き続き搭乗している者たちのほとんどが、ペスが余裕を見せているように、何もせずとも迫りくる変異体やデミス細胞を倒せていた。


 いや、迫ることさえできなかった。エデンに備えられた無数の砲口が、敵を近付けさせる前に魔力弾と実弾によって撃ち落としていたからだ。運よくかいくぐった敵も、エデンに残る魔法使いたちの手によって撃ち落とされる。


「デミスに接近するまでに、帰る時の燃料だけを残して全てを使いきるみたいだよ、セイジは」


 その時、いつの間に地上へと上がってきたのか、來栖が姿を現す。


「來栖さん、セイジさんの傍にいなくてよろしいので?」


 すると、來栖の姿が見えて追いかけてきたのか、ロイドが駆け寄って声をかけた。


 隣には、一緒に行動していたのかフローネもいる。


「エデンの構造については僕が知るところではないからね、セイジに任せれば大丈夫さ。僕は、僕の仕事だけを気にしていればいい」


「信用しているんですね」


「……千年の付き合いだからね。ムカつくけど、信用せざるを得ないよ」


 それを聞いて、フローネは微笑する。


 憎まれ口を叩きながらも、なんだかんだ信用し合っているのが微笑ましかったからだ。


「さて……そろそろ僕たちも準備を始めよう。黙って接近を許してくれるほど……デミスは馬鹿じゃない」


 そう言うと、來栖は顔を見上げた。


 全身の触手をうねらせた、アースと同等のサイズの巨大な怪物が視界を埋め尽くす。


 そこはもう、デミスの口元と呼んでも差支えのない距離だったのだ。


 來栖が、セイジのいる管制室からわざわざ地上へと顔を出したのも様子を見に来たからではなく、中でのんびりと待っている時間がもう残されていないと判断したからだった。


「……来るよ」


 來栖が冷静に呟いた直後、一本の大木のような太さの肉塊が一同の眼前に迫る。


「触手……!」


 すかさず反応できたのは、來栖、そしてロイドとレックスだけだった。


 ロイドがすかさず闘気で巨大な盾を生成させ、触手がエデンに衝突するのを防ぐ。


 触手が盾によって弾かれてすぐ、同タイミングで剣を抜き去っていたレックスは剣を振るい、真・剛天地白雷砲による雷の斬撃を放つことで触手を斬り落とした。


「射程圏内に入ったみたいだね。前回の戦いより……かなり射程が伸びてるみたいだけど」


 その場にいたほとんどが反応できず、気を抜いていた者たちの表情が一瞬にして強張る。


 伸びてきた触手はあまりにも不規則かつ早すぎる動きで接近してきた。それは、來栖たちより事前に見せられた映像のデミスの触手の動きではない。


 明らかに、前回の戦いよりも強化されていた。

次回更新は8/11予定です

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