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LV999の村人  作者: 星月子猫
最終部
403/441

第三十四章 それは、その一瞬でしかなくて

「あまり驚かないんだな」


「そりゃね」


 エデン内部、セントラルタワーの中央に位置する管制室の中、胎動するように点滅を繰り返すコンピューターの光の前で、セイジと來栖は顔を見合わせずに言葉を交わした。


 そして、強い推進力で宇宙へと向かっているのか、流れるように変わる景色の映したホログラフィックのディスプレイを前に、來栖は笑みを浮かべた。


「元々、君がただ僕たちから隠れるためだけに、エデン毎、空に飛ばしたなんて思っていなかった。何か別の目的があったけど、諦めたからあんな使い方をしたんじゃないかってね、まあ……これ単体で宇宙戦艦としての機能も果たすとは思わなかったけど」


 まさか、ただの移動用の宇宙船としてではなく、外敵から守るためのバリアに加え、敵の排除を行う武装まで施していたとは思わず、來栖は「予想以上だよ」と度肝を抜かれたと言わんばかりに顔を引きつらせる。


「アースディフェンダーが稼働するかどうかの瀬戸際で使わなかったのはどうしてだい?」


「……エデンのこの武装は最終手段だ、バリアも魔力弾も大量のエネルギーを消費するから長くは展開し続けられない、仮にあのタイミングで使っていても、鏡やディルベルトが少し楽できるだけで何も変わらなかったさ、物資は無限じゃない……使いどころを考える必要がある」


 どちらにしろ、バリアを展開していたところで、鏡が身を犠牲にしてまで防いだデミスが持つ巨大な魔力を利用して撃ち放たれた極太光線、マジックバーストは防げなかった。


 その時点で終わってしまえば元も子もなかったが、鏡たちが守り切ってくれることを信じた結果、セイジはこうしてこの時までエデンの最終兵器を温存できたのだ。


「妥当な判断だね、それで正しかったと思うよ」


 大陸型宇宙要塞エデン。


 それは、この戦いに全てをかけるため、この瞬間まで誰にも見せることなく隠してきたセイジが造りし最後の兵器だった。


「……俺は前回の戦いの時、アースを守ることに目を向けすぎて、戦いに出る者たちに充分な支援を行えなかったのをずっと気にしていた。空間管理装置のおかげで宇宙空間に滞在できても、ろくな補給を受けられないのでは長くはまともに戦えないとな」


「結局ヒーローたちは根性を見せて最後の最後まで戦い抜いていたけどね」


 だからこそ、今へと繋いでくれた者たちの想いを無駄にはできず、セイジはこの時まで温存していたのだ。「ここで出してしまうか?」という少しの油断が敗北に繋がりかねなかったから。


「あの時は、アースに住まう膨大な数の人類を守るという前提があった。だが、今回はその心配が以前より必要ない。ほとんどを、前線で戦う者たちのために使える……いや、使う」


 しかし敵はそのヒーローたちを含めて人類を取り込み、さらに危険な存在となっている。ここまでやってようやくスタートラインに立ったくらいにしかセイジは感じていない。


 それでも、そのスタートラインに立てたことが今は重要だと考えていた。


「クラスチェンジに宇宙要塞か……随分頑張ってくれたみたいだけど、それでも一度は倒すのを諦めちゃったセイジ君? 君が希望を抱いた鏡君はもうこの場にいないけど、大丈夫かい?」


「今さら過ぎるだろう。あの時はまだ別の道があった……だがもう始まってしまったんだ。主戦力が不在だからと引くことはもうできん」


「不在……ねえ」


 もしも、自分が信じた男の力が考えている通りであれば、こんなところでくたばるはずがない。あれ以降、自分が送り出した男からの連絡が途絶えてはいるが、それでもまだ生きているはずだと思えるあたり、合理的という言葉から外れた男なのだと來栖は改めて感じていた。


「というか、こんなものを隠し持っているなら先に教えてくれないと、作戦に支障が出るだろ?」


「宇宙空間で戦うんだ、当然、運ぶために必要な宇宙船の話になる。その時にでも言えばいいと思っていたが……んん? そういえばお前ら一度も触れてこなかったな」


「さっきも言っただろ? 気付いてたって、ライアンと僕とで『あいつ、出し惜しみして隠してやがる』ってニヤニヤしながら出すのを待ってたよ」


 そう言いながら、わざとらしい笑みを浮かべて視線を向けてくる來栖に、セイジは「このピエロが」と苦い顔を返して視線を逸らした。


「……あのもじゃ男め、帰ったら一発殴ってやる」


 今頃、エデンの変化ぶりを見て、ガーディアンで腰を抜かしているだろうと少し得意気に微笑すると、セイジは眼鏡を整えてエデンの上空を映したディスプレイを真剣な顔つきで睨みつけた。


「さて……そろそろ始まりだ」


 ディスプレイに映っていたのは、視界全体を埋め尽くすまでに接近し、よりはっきりと見えるようになった星サイズの化け物の姿、そして、アースディフェンダーによって展開されたバリアの膜だった。


「近くで見るとぎちぎちだね、潰しがいがありそうだ」


 バリアに阻害されて中に入れず、光に吸い寄せられた虫がビッシリと張り付いたように、変異体とデミス細胞で敷き詰められていた。


 あまりの数に気持ち悪くなったのか、セイジは顔を引きつらせる。対照的に來栖は、嬉しそうに不敵な笑みを浮かべた。


「よし……加速するぞ!」


 セイジの掛け声と共に、目の前にホログラフィックの操作パネルが出現する。


 そこに手をかざすと、エデンに推進力を持たせているガスの噴射口の勢いが強まり、エデンは更なるスピードで上へと向かって動き出した。


「これが最後の戦いの狼煙になる……派手に行くぞ!」


 バリアの外へと出た瞬間、バリアの外でびっしりと張り付いている敵は一斉にエデンを襲撃する。ここでさらに速度を上げるのは、バリアすぐ外の領域を抜けた段階で敵の追従を避けるためだった。


 これよりエデンは、作戦を開始する。


 目的はエデンがデミスの目と鼻の先にまで辿り着き、デミスの体内へと入り込むこと。


 バリアの領域を抜けた瞬間、これ以上のアースへの侵入を防ぎ、バリア周辺にいる敵がエデンを追ってこないよう殲滅するため、一部の者たちは離脱を開始する。


 作戦通りに事が運ぶかどうかは、全てエデンに同乗した冒険者たちの手に委ねられた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 エデンはさらに速度を増し、アースディフェンダーによって展開されている大気圏を覆うバリアへと近付いていく。一秒毎に猛速度でバリアへと接近する上空を前に、一同は息を飲んで戦いの始まるその瞬間を待った。


『これが最後の戦いの狼煙になる……派手に行くぞ!』


 そして、バリアを突破する直前にかけられたセイジの合図を耳にすると同時に、各々はそれぞれ行動を開始する。


「聞こえましたかクルルさん!」


「はい! 準備はできています!」


 声にすぐさま反応するとロイドはすぐさま振り返り、両手杖を手に、既に魔法発動の準備を始めていたクルルへと叫んだ。


「フローネ! パルナさん!」


 次にロイドは、それぞれ呪術師の部隊と魔法使いの部隊とで一時的に指揮を任せていたフローネとパルナへと声をかける。


 二人はそれぞれ、「こちらも準備はできています!」、「任せなさい! いつでもいけるわ!」と返事をすると、心の余裕を主張するように微笑んだ。


 合計1000人はいるそれぞれの部隊の者たち一人一人が魔力を手元へと集中させているのを視界に入れると、ロイドも安心した顔つきで何も言わずに頷く。


 直後、エデンはアースディフェンダーが展開しているバリアの外へと突入する。


 アースディフェンダーのバリアに張り付いていた無数の敵は、エデンが展開しているバリアによって勢いよく押し上げられると、その衝撃に耐えきれずに吹き飛んで四散する。


 だが、あまりに多くの数の敵と一度にぶつかり大きくエネルギーを消耗してしまったからか、代償としてエデンに展開されていたバリアは消失し、速度を増し続けていたエデンそのものが急激に減速してしまった。


 そして一同は、エデンのバリアにも、アースディフェンダーのバリアにも守られていない状態で、億の数はいる変異体とデミス細胞の前へとさらされた。


 たった今、エデンとの衝突でおよそ千体の敵が吹き飛ばされたはずなのに、まるでそんな出来事はなかったかのように、敵は一斉にエデン目掛けて接近を開始する。


 しかし――


「よし……ミリタリアさん! お願い致します!」


「ええ、数だけ揃えたところで意味がないことを、思い知らせてやりましょう」


 一斉にエデンへと目掛けて接近を開始していた敵が、近付くと同時に突然動きが鈍くなった。


「っつ…………さすがにこれだけの数は、堪えますね」


 凄まじい負担が掛かっているのか、ミリタリアの頭部の血管が浮き彫り上がる。


 突如、敵が動きを鈍くしたのはミリタリアの持つ敵の身体的能力を大幅に下げるスキル『神に愛されし者』を発動したからだ。


「今です! 一斉放射!」


「ありったけをぶっ放しなさい!」


 そして、その一瞬の隙をついてフローネとパルナ率いる総勢1000人による広域殲滅魔法が撃ち放たれた。エデンの広大な大陸上空が氷の刃による雨と、爆発によって満たされた。


 氷の刃に貫かれた変異体とデミス細胞の全身は凍結し、脆く砕きやすくなった身体を後から追って迫った爆発によって粉々に砕いていく。


 見ていた全ての者が、空を埋め尽くした爆炎と、爆炎によって粉々に砕かれたが濃密な魔力によって消失することなく残り続けた氷の粒の美しさに魅了された。


「大賢者としての力……今こそ!」


 だが、それで終わりではなかった、それまで全身の魔力を手元に込めて待機していたクルルが両手杖を上へと掲げた瞬間、薄い円形状の魔力による小さな衝撃波が撃ち放たれた。


 それはクルルの手元から離れるほどに大きく広がり、最終的にはエデン全体の二倍の大きさにまで拡大する。そして、砕かれた氷の粒に魔力による衝撃波が触れた瞬間、氷の粒は撃ちだされた弾丸が如き速度で弾き飛ばされ、エデンの進行方向のさらに奥側にいた無数の敵の身体を一斉に貫いた。


 その力は、放棄された魔力さえも自分の魔力を加えることで利用する、過去に存在した歴代の賢者や魔法使いの誰もが扱うことのできなかった空間支配魔法だった。単純な魔力の強さや知性の高さとは関係なく、複雑かつ精密な魔力操作を可能とする大賢者だからこそできた芸当。


 ゾーンドミネーション。


「今です! バリア表面でアースを維持する部隊は一斉に離脱を開始してください! 以後、後続で援護にくるライアン様の部隊と共に、ライアン様の指揮下へ!」


 エデンを覆っていた無数の敵が一気に消え去り、素早くロイドが指示を出す。


 ロイドの掛け声を耳にすると、アースディフェンダーのバリアに群がっていた敵からの追従を防ぐため、エデンの地上で待機していたラストスタンドを含む四分の一の勢力が一斉にエデンから飛び出した。


 同時に、再びエデンは敵を置き去りにするために加速していく。

次回更新は 8/8です

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