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LV999の村人  作者: 星月子猫
最終部
393/441

決して越えられない壁-4

 しかし、その宣言を受けて異論を唱える者も、表情を歪める者はいなかった。


 それが当然であるかのような表情で、一同は來栖の次の言葉を待つ。


「覚悟は……できているみたいだね」


 一同の反応に少し安心したのか、今度は來栖も普通に笑みを浮かべる。


「師匠がいない今、もう僕たちがやるしかない……誰でもわかることだ。僕たちだけで師匠の代わりが勤まるとは思えないけどな」


「まあそれに、やらなきゃどっちみち死ぬことになるしね」


 覚悟を既に終えた真剣な顔つきでレックスが、既に仕方がないことだと諦めたようにパルナが呟く。


「私も……もう逃げません。全ては救えませんが……少なくとも共に行く皆さんの命だけは私が必ず守ります! 最初に死ぬのは私です、私が死ぬまでは……誰も死なせない」


 三日前、ティナは己の弱さに立ち向かい、あらゆるダメージを百分の一に抑えるスキル『淑女の施し』の真の力を解放した。誰かから責められることを恐れ、常に逃げる選択をとり続けてきたティナだったが、今のティナの眼差しに恐れによる曇りは一切なかった。


 何よりも恐ろしいのは逃げ続け、何もしないまま終わることであると気付いたから。


「元々、ノアで鏡と戦った時に失っていたはずの命だ。それに、この日のためにあらゆる者たちを犠牲にしてきた……いまさら俺だけ逃げようなんて思わん、ここが俺の死に場所だ」


 元よりこの戦いが始まった時から死を覚悟していたのか、バルムンクはこれまでの日々を思い返して目を瞑り、人、そしてモンスター問わずに切り捨ててきた大剣を握りしめた。


「いや、ここエデン内部なのじゃが、ここで死なれても……」


「我が娘よ……男が決意をあらたにしようとしているところだ。茶々を入れるものではない」


「す、すまぬ父上」


 そんなバルムンクにすかさずフラウが茶々を入れるが、それを元国王、シモンがいさめる。


「ところで來栖様……ここにフラウも呼んだのは、まさかフラウまで我々と共に戦いに参加させるためでしょうか? ワシが言うのもなんですが、いささか……力不足では?」


「ふ……この期に及んで娘の心配か? 人の王よ、お前にも親心というものがあったのだな……これまで私が見てきた王とは別人のように感じるぞ?」


 レベルも高くはなく、戦力としては不十分なフラウを心配するシモンを、魔王、ダグラス・バルネシオは微笑を浮かべながら茶化す。


「ワシは事実を言ったまでだ。お主こそ、そこにいる赤髪の娘が心配なのではないか?」


「愚問だな、あれはとうの昔に私の手を離れている。三年前、あの男と共に私の前に現れたあの時からどんな苦難であっても覚悟は終えているはずだ。あれはそういう娘だ」


 少し棘のある言い方だったが、魔王は特に気にした様子もなく堂々と余裕の笑みを浮かべる。


「あの……お父さん、本人を前にそういうのは」


 すると、さすがに皆の前だったのもあって恥ずかしかったのか、頬を赤くして照れくさそうにアリスは顔を俯かせた。


「んもぅ! 素直に心配って言えばいいのに、どうせ二人ともただの親馬鹿なんだから! ねぇ? デビッドさん?」


「ふぉっふぉっふぉ! 私にふらないでいただけますかな?」


 そこで、二人のやりとりを見ていたタカコがじれったそうにデビッドに問いかける。


 自分が仕える主君を相手に「親馬鹿」などと言えるわけもなく、タカコの唐突なふりにデビッドは楽しそうに笑いながら髭をいじって誤魔化した。


「緊張感ねえなこいつら……これが、死ぬかもしれない最終決戦の前の空気かよ、鏡だっていなくなっちまったって言うのに」


「まあまあ、辛気臭いのよりかはいいじゃん! ここで緊張感があってもなくても、現状は変わらないんだし……それより、まだ皆が希望を無くしてないって思える方がいいんじゃない?」


「まあ、ものは言いようだな」


 想像していたよりも、鏡を失ったことで一同が思い詰めている節がなく、フラウは少し意外そうな顔で「ふーん」と笑みをこぼす。その背後で、相変わらずしっかりとメリーの身体を胸元に抱き寄せながら油機が「ね?」と、満面の笑みを浮かべる。


「そういえば……フラウちゃんと同じってわけじゃないけど、メリーちゃんも私たちと共にいくのかしら? もう言われるまでもなく皆、理解しているとは思うけど……私たちがこれから向かう先って、デミスの体内よね? ラストスタンドに乗りながら侵入するのかしら?」


 そこで、ふと気になったのかタカコが來栖に問いかける。


「安心していい。ここにいる全員がデミスの体内に突入するわけじゃない。どうせ何もしなくても負ければ死ぬという前提がある以上、戦ってはもらうけどね。要は主力として前線で戦ってもらいたいのさ……君たちにはね」


「お……おお⁉ ということはなんだ? 妾も戦力として認めてくれているということかの⁉」


「ああ、生身じゃ弱すぎるから、ラストスタンドには乗ってもらうけどね」


 戦力として認めてもらったことが嬉しかったのか、フラウは思わず両手でガッツポーズを見せる。その傍らでアリスが「半分馬鹿にされてた気がするけど、フラウさんってそれでいいんだ」と遠い目で見守った。


「ウルガ、それとペス、君たち獣牙族はデミスの体内に入っていたら動けなくなるだろうからね、でも……外では戦ってもらう。デミスの体内に侵入すれば、外に出ていた変異体たちが一斉に中に戻ろうとするのを喰いとめてほしい」


「コトワル!」


「駄目です」


「シカシ、コトワル!」


「駄目です」


「コト…………いや、ウチ頑張る」


 さすがにデミスの目の前で戦うのも頭がおかしくなりそうなのか、ペスは勢いに任せて來栖の願いを跳ねのけるが、周囲の冷たい視線と、ウルガから放たれた嫌悪と怒りの混じった視線を受けて徐々に諦めをつけた。


「他の獣牙族ヲ、マトメレバいいのだナ?」


「そういうことです。よろしくお願い致しますよ」


「……承知」


 既に自分のやるべきことが見えているのか、ウルガは多くは問わずに悟ったように目を瞑る。生きるために戦う、これまでそうしてきたように、今回も生きるために群れを率いて戦うだけだから。


 これまでとは違うのは、周りにいるのが群れの仲間たちだけではないということ。そしてそれらとの連携のとり方は、後で勝手に來栖が教えてくれる。


 そう考えてウルガは無駄話を避けた。


「同じく獣牙族のピッタちゃんも中に入ってもらう予定はない。念のため、お姫様と一緒にラストスタンドに搭乗して、敵の位置を伝えるのや、攻撃を回避するのをサポートしてあげてください」


 すると次に、來栖はクルルの足元にひっついているピッタに視線を向けた。


 ここに呼ばれている時点で予想はついていたが、戦いの指名にピッタは身体をびくつかせる。

予定少し遅れ申し訳ありません。

次回更新は、7/7 21時です。(すこしたてこんでおりましてお待ちいただけると幸いです)

また、明日7/5はLV999の村人⑦の発売日です。恐らく早いところは本日から置いていると思います。

WEB版からかなりテコ入れしていますので、)よければぜひ御覧いただけると幸いです。

それでは今後ともよろしくお願い致します。

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