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LV999の村人  作者: 星月子猫
最終部
391/441

決して越えられない壁-2

「……あまり驚かないのだな」


 顔を見た鏡の反応があまりにも薄すぎて、少々かっこつけすぎた登場をしてしまったかと後悔し、青年は苦笑いを浮かべる。


「なんとなく、どこかにいるんだろうなって……そんな気はしていた」


「はは、さすがは鏡殿だ。お見通しというわけか」


 そう言いながら笑みを浮かべた女性と見間違えるほどに整った容姿の青年を前に、鏡はどこか影の帯びた微笑を浮かべながら見つめた。


「お前は、俺の知っている存在とは別の存在。そうだな? ……メノウ」


「…………ああ」


 その問いに、メノウも少し寂しそうな表情を浮かべる。しかし、すぐにメノウは吹っ切れたような真剣な眼差しを、鏡へと真っ直ぐにぶつけた。


「だが、私は……紛れもなくメノウだ」


 はっきりと宣言され、鏡は暫く何も言い返さず、感慨深い表情でメノウを見つめ返す。


「不思議な気分だったよ。目が覚めた時、アリス様とこの世界に来たと思っていたのが、既に数週間もの時間が経過していて、私は一度死んだというのだから」


 過去に死んだ自分を想い、その時に感じたであろう無念を想像してメノウは悲しそうな表情を浮かべる。今のメノウには自分が死んだ時の記憶も、アリスたちとこの世界に来てから共に過ごした日々の記憶もなかった。何故なら、ここにいるメノウは、仲間を庇って未来へと繋げたメノウとは異なる存在だからだ。


「……誰が、お前をここに?」


「私を殺した男さ」


「……やっぱりか」


 記憶を漁り起こし、鏡はアースクリアへと戻る直前、來栖が言っていた言葉を思い出す。


 來栖はあの時、不可解なことを言っていた。メノウを生き返らせるかどうかを聞いてきた來栖に、アリスが選択肢を与えてくれたことを感謝した時のことだ。


『それは勘違いだよ。僕がわざわざ聞いたのは……ただの義理さ』と、來栖は謎の言葉を吐き捨てていた。その時は言葉の意味がわからなかったが、今ならわかった。


 既にあの時からメノウは、この世界に再び足を運んでいたのだろうと。


「命を弄ばれている気分だったよ。データとしての存在だからと殺され、こうして都合よく利用するために再びこの世界に生み出したというのだからな」


「なら、なんで奴に従った?」


「あの男が…………全てを話したからだ」


 そう言うと、メノウは遥か先にある青き星の傍にまで接近した巨大な生物へと視線を向けた。それにつられて、鏡も視線を倒すべき敵へと向ける。


「あれを倒さなければ未来はない……誰にだってわかることさ」


「でも、お前は憎くなかったのか? 仮にもお前を殺した男だぞ?」


 鏡は視線をメノウに向けぬままに問いかける。


 するとメノウは、苦笑混じりに軽く鼻で笑い「まあな」と返した。


「確かに怒りを示すべき理不尽だとは私も思う。しかし私には、殺されてしまった私の記憶が引き継がれていない。私が抱いた憎しみと怒りの感情を覚えていないのだ。最初は過去に起きた話を聞いても……信じられないとしかいいようがなかったくらいにな」


「……メノウ」


「だがな鏡殿? ……仮に私が殺されたときの記憶を引き継いでいたとしても、私はきっとあの男に助力していたと思う」


「どうして?」


「あの男は我々からすれば確かにクズにしか見えん。だが、ただ悪戯に命を弄ぶような男でもないからだ」


 当然、メノウも最初は警戒心を剥き出しに來栖と接した。


 この男は誰なのか? 何者なのかと? 仲間は? アリスはどこに行ったのかと? ここにいるメノウにとっては、まだアースは初めて訪れた場所だったからだ。


 そこで初めて出会った男に、「君は一度……いや、二度死んだ、そして、殺したのは僕だ」と言われれば、むしろ警戒しない方がおかしい。


 だが、來栖は『全て』を話した。嘘をつこうと思えばつけたはずなのに、利用するのであればもっと効率の良い方法があったはずなのに、しなかった。


 話の全てが本当であることを確認するのに、時間は掛からなかった。


 そしてメノウは確信する。來栖は一見、目的のために必要な全てを利用するクズではあったが、その目的は自分のためではなく世界のためで、目的を果たすために非常に徹しているだけなのだと。


 そして結果的に、その目的の達成は自分のためにも、仲間のためにもなる。


 それに気付いた時、メノウの中でどうするかの答えは決まった。


「これでも私はこの世界での記憶はなくとも、アースクリアで鏡殿と、そしてタカコ殿やレックス殿たちと共に過ごしたメノウではある。何をすべきかくらいはわかるさ」


 その言葉で納得したのか、鏡は「なるほどな」と笑みを浮かべる。


「あー……やめてくれ、悪かったよ。大事なこと忘れて怒り狂っちまって。昔あれだけ『よく考えたのか?』とか説教垂れてたのに、見失ってたのは俺でしたよ」


「……ん? 何の話だ?」


 メノウの話を聞いて、愚問だったと鏡は笑みを浮かべた。


 同時に、懐かしくなって少しだけ泣いてしまいそうな切ない表情を浮かべる。


 そう、これがメノウという男だからだ。いつだって冷静で、常に最善になるための方法を考えていて、いざとなれば身を挺してでも仲間のために行動してくれる。


 殺されたという憎しみや怒りを抑えて來栖に助力しているのも、全ては仲間のためになると考えたからだ。それが、一番役にたてると冷静に判断して、怒りに飲まれることなく。


 実際、今こうして助けに来てくれている。きっと、陰でずっと動いて支えてくれていたのだろう。それがわかって鏡は感極まって手を差し伸ばした。


「おかえり……メノウ」


「ああ……ただいまだ、鏡殿」


 それを、しっかりとメノウは握り返す。


「さて……聞きたいことは山積みだ」


 仕切りなおして鏡は腰に手を当てると、再び遠く視線の先に映る青き星へと目を向ける。


「俺……なんでここにいるんだ?」


「デミスの放った攻撃で飛ばされたのだ、覚えていないのか? 運よく月に衝突してくれたのが救いだったな、もし……ここに衝突していなかったら助けようがなかった」


「不幸中の幸いってやつか……メノウが助けに来てくれたのって、來栖の指示か?」


「一応な……実は鏡殿がやられたと聞いてすぐに飛び出そうとしたのだが、闇雲に探しても見つからないと引き留められてしまってな、落ち着いてからあの男の指示でここにきた」


 そう言いながらメノウは、ここに来るために使った宇宙船のようなものを指差す。それは旧文明の技術が使われており、ステルス迷彩による不可視フィールドの展開が可能な宇宙船だった。


 魔族であるメノウの身体はほとんどが魔力で構成された肉体であるため、デミスに探知される心配もなく、こうしてここまで無事に辿り着けたのだと鏡は納得する。


「よく見つけられたな、俺……埋まってたしさ」


「空間管理装置の反応を追ったのだ、それは通信機にもなっているからな」


「でも、俺の空間管理装置は壊れていたはずじゃ……通信機能は生きていたのか?」


「いや、鏡殿の空間管理装置からは反応はなかった。壊れている可能性を危惧してあの男が私にもう一つ空間管理装置を持たせたのもそれが理由だからな」


「じゃあどうして?」


「鏡殿と共にいた……朧私は会ったことがないが、その者が持っていた空間管理装置の反応を追ってここにきた」


「…………朧丸!」


 言われて、鏡は思い出したのか慌てて体中をまさぐった。そして、自分の服の胸のポケットの中にうずくまっていた小さな動物を見つけてすぐさま手の平へと優しく乗せる。


「よかった……生きてる」


 辛そうな表情を浮かべ意識を失っていたが、朧丸の身体は呼吸によって上下に動いていた。その姿を見て鏡は安堵する。


「さっきまで起きていたようだがな、月へと降り立ってからずっと念話で位置を伝えようとしてくれていた。この者がつけている空間管理装置はこの者のサイズに合わせて小さめに作られている分、反応が弱い。しっかりと位置を特定できずにいたが……この者のおかげで助かった。すぐに見つけられた」


 その説明を受けて鏡はどうしてまだ地に埋まっていた時、メノウの声が聞こえたのかを理解する。そして、そっと朧丸の額を指先で撫でると、「……ありがとう」と呟いた。

次回更新は6/30の21時です

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