表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LV999の村人  作者: 星月子猫
第七部
384/441

バッドエンド-8

「セイジ様……こちらは問題ありません。そちらは無事なのですか?」


『こちらもまずい状況だ……既に何人か被害が出ている。とはいえ、アリス、クルル、シモン、ミリタリアの四人のおかげで内部は少しずつ鎮圧し始めているが』


 ディルベルトの言葉通り、仲間がしっかりと動いてくれていたことに、鏡は「……そうか!」と、悪い状況ながらも嬉しくなって笑みを浮かべる。


『内部に大きく被害が出ていないのも、お前たちが動いてくれているおかげだ。このまま引き続き内部に敵が侵入しないように動いてくれると助かる』


「何をするつもりなんだ?」


『現在アースディフェンダーを稼働させている。あと40分もしないうちにアースを包むバリアが展開されるだろう……それまでの間、お前たちにしかできないことをやってもらいたい』


「……俺たちにしかできないこと?」


『可能な限り、飛来するデミス細胞、そして変異体とモンスターを駆除してほしい。できるだけ目立つように……派手に暴れてくれ。幸いなことに、敵はこのエデンに集中している。鏡……お前を脅威だと認識してな』


 それが、どういう意図で言っているのか瞬時に悟ると、鏡は「なるほどな」と納得して頷く。


 アースディフェンダーによるバリアが展開されれば、敵の供給は抑えられる。だが、アースディフェンダーを稼働させようものなら、アースディフェンダーは脅威としてすぐに破壊されてしまうだろう。つまりは、標的を自分たちに向けるための作戦なのだと、とりあえず鏡は了解した。


「でも……さすがに俺たちだけじゃこの状況はきついぜ? 全力を出せば体力だってもたないだろうし……バリアが展開できても、その後に内側に残ったやつを倒さないといけないんだろ?」


『そっちにレックスたちが向かっているはずだ。お前がバテテも、なんとかしてくれるさ』


 ほんの数週間前まではレックスを認めていなかった男が「なんとかしてくれるさ」と、実力を認めて頼りにしている事実に、鏡は目を丸くする。


 自分だけではなく、セイジもちゃんと仲間を認めて信用してくれていることに、にやついた笑みを浮かべると、鏡は「そういうことなら遠慮はいらないな」と自分の拳を突き合わせた。


「皆がこっちに来るなら、温存する必要もねえ、暴れるだけ暴れて、あいつらに交代すればいい……ディルベルト! やれるか?」


「私は美王……どんな状況であっても完璧に準備は万端さ。だからこそ……美しい」


「最早何を言っているのか……全くわからんでござるな」


「今更だろう? じゃあ早速……やるか! 朧丸! 振り落とされるなよ!」


「……任されよ!」


 直後、鏡とディルベルトの姿が消えてなくなる。


 そして、先程と同じようにエデンを囲んでいたデミス細胞と変異体たちの時が止まったように動かなくなると、そのまま身体を朽ち果てさせて地へと落ちていった。


『おい……今何をしたんだ?』


 ほんの少しの間姿を消して再び元の位置に戻ってきた鏡に、セイジは問いかける。


 鏡たちの通信端末を通して見た映像では、あまりにも速く動きすぎて何が起きたのかわからなかったからだ。


「何をしたって……ディルベルトと一緒に敵をぶっ潰しただけだけど?」


『十秒も経っていなかったぞ⁉ なのに……敵が毒でも吸い込んだかのように地に……!』


「二人係なら、一秒もあれば三十体は倒せるよ。そういうスキルだろうこれは?」


 鏡の説明にセイジは言葉を失う。一度はデミスがその力を手に入れてしまったが故に、世界を諦めようとしたくらい『エクゾチックフルバースト』の力はよく理解していた。


 しかし、実際にその目で見たのはレベル110のディルベルトが扱う『エクゾチックフルバースト』だけであり、レベル999の怪物が使う『エクゾチックフルバースト』ではない。


 身体能力が高いだけで、これほどまでの力を発揮することにセイジは高揚して身体を震わせた。


『やはり……敵がここに集中しているのはお前が原因か』


 極限にまで身体能力を高めた者がこの力を扱う恐ろしさを、セイジは改めて再認識する。同時に、それが敵に存在しているのに放置がするわけがないと、デミスの行動心理を読み取った気がした。


「まあでも……いくら倒しても減る気がしねえな。確か、ここにいる変異体は過去にいた人類の慣れの果てなんだろう? 過去にいた人類の数だけまだまだストックがあるってことか?」


 しかし、それでも敵の数が減る様子はなく、鏡がいくら周囲にいる敵を倒しても、倒した分だけ敵が現れ、一瞬だけ切り開かれた青き空も、変異体とデミス細胞に覆われて暗くなっていく。


「しかも……さっきよりも多くなってないか?」


 虫のように群がる敵を前に、鏡は引きつった顔を浮かべる。


 さっきまではまだ隙間を通して風景が見えていたが、今はもう外の光景がわからないくらいに敵が敷き詰まっていた。


『恐らく、お前たちの力に気付いてノアとガーディアンに向かっていたのが集まってきたんだ。……いいぞ! その調子で敵の注意を引き付けてくれ』


 だがこの状況はむしろ好ましく、あとは鏡たちがなんとか耐えることができれば状況は一変すると、セイジは笑みを浮かべる。


「ふう……そろそろ私も体力の限界だ。エクゾチックフルバーストを解除させてもらっても構わないかな鏡君?」


 そこで、体力の配分を考えたのか、ディルベルトは鏡に声をかけた。現状、一人でもなんとか耐えられていることから後のことも考え、鏡は頷いて答えようとするが――、


「いや待て! ディルベルト! お前はまだエクゾチックフルバーストを解除するな!」


 背後に接近していた変異体に気付いて蹴り飛ばした後、鏡は声を荒らげて止めた。


 突然の叫び声に『エクゾチックフルバースト』を解除しようとしていたディルベルトは身体をびくつかせ、再び気を張りなおすと鏡へと視線を向ける。


「……何故だ? そろそろ私の体力も限界に近い、発動しっぱなしというわけには……」


 言葉にしながら、ディルベルトは背筋に悪寒を感じて背後を振り返る。気付かぬうちに接近していた変異体を前にディルベルトは目を見開くと、変異体の急所を握っていたダガーで素早く一突きして事なきを得る。


 そして、何故鏡がスキルの発動を止めないように言ってきたのを理解し、押し黙った。


「気付いたか?」


「速くなっている……どういうことだい鏡君?」


 先程まで『エクゾチックフルバースト』の力で止まって見えるくらいに遅く動いていた変異体たちは、今までの動きは演技だったかのように反応速度を高め、ディルベルトに迫る速さで少しずつ動き始めていた。


「さっきまでは本気じゃなかった? 俺たちがあまりにも手強い相手だから本気でぶつかってきたってことか? ……いや、違うな。これは」


 突然動きを良くしたのは一体だけではなかった。それどころか、変異体だけではなく、デミス細胞までもが、先程とは比べ物にならない反応速度で俊敏に動くようになっている。


 それも、いきなり速くなるのではなく、徐々に、慣らしていくかのように。


『エクゾチックフルバーストAct4』を発動している鏡はもちろん、『Act3』を発動しているディルベルトにとっても全然問題のない遅い動きだったが、それでも速くなっているのは一目瞭然だった。


「真……剛天地白雷砲!」


 直後、何が起きているのか数秒間、空中に足場を作って考えていた鏡のすぐ横を雷の斬撃が通り過ぎ、十数体に及ぶ変異体たちが一撃のもとに消滅する。


 これまた何事かと斬撃の飛んできた方に視線を向けると、そこには剣を振り下ろした状態で立つレックスの姿があった。その背後には、パルナとフラウとティナの姿もある。


「師匠! 待たせたな……僕たちが来たからにはもう安心だ!」


「レックス! 気をつけろ! こいつら多分、一体一体がエクゾチックフルバーストを使ってくる! まだ使い慣れていないみたいだから『Act1』程度だが……油断するな!」


 到着するや否や鏡から衝撃の事実を耳にして、レックスの表情が歪む。


「やはり……あの時一瞬だけ変異体の動きが速くなったのはそういうことだったか」


 だが、その程度では怯まないと言わんばかりに「面白い!」と叫ぶと、レックスは大地を駆けて飛び上がる。直後、「朧丸!」と叫び声をあげて足場を作るように声をかけると、『エクゾチックフルバースト』を発動しているディルベルトを圧倒する速度で変異体を次々に剣で薙ぎ払った。


「どうした? 『エクゾチックフルバースト』とやらの力はその程度か⁉」


 この危機的な状況をどこか楽しんでいるのか、レックスは剣を振るいながら笑みを浮かべる。


 いつもどこか思い詰めた様子で戦っていたレックスが、どこか吹っ切れた様子で戦う姿に、鏡は「お前……ちょっと怖いぞ」と罵りながらも少し嬉しくなって苦笑した。


「ちょ、レックス! お主が妾の傍を離れたら……一体誰が妾を守るのじゃ!」


「というかフラウ様、どうしてあなたまでついてきたんですか? 内部にいとけばデミス細胞だけしかいないですし……フラウ様でも安全だったでしょうに」


「愚か者! あんな状況で一人で行動できるわけがなかろう! 怖いじゃろが! ほ、ほれパルナ! 不服じゃがお主専用の回復役になってやるから妾守るのじゃ!」


 空を埋め尽くさん数の敵を前に、フラウは身体を震わせながらパルナにしがみつく。


 その情けない姿にパルナは苦笑すると、空を見つめて肩を震わせた。パルナにとっても、この光景は想定外すぎたからだ。


 一万のモンスターを相手にした時なんて比ではない圧倒的な戦力差、過去の人類、それも変異体となって化け物になった数十億の数を相手に立ち向かう勇気が沸かず、臆してしまう。


「……どうしたんですか? 戦わないんですか?」


 そんなパルナを横目に、ティナが暗い顔を浮かべながら問いかけた。

次回更新は6/7の21時です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ