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LV999の村人  作者: 星月子猫
第七部
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371/441

繰り返す-4

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「聞きました鏡さん? あの演説以降、この世界に足を運んだ人……ノアとガーディアンとグリドニア合わせても千人に満たないらしいですよ」


「へぇー……そうなんだ」


「そうなんだーって他人事みたいに、あの演説がまずかったんじゃないですかぁ?」


 アースクリアで混乱が広がる中、時を同じくして、その混乱が嘘に思えるようなだらしなさでティナと鏡の二人は、セイジのプライベートルームの中央に設置された、テーブルを囲ったソファーに座っていた。


 鏡は天井を見上げてボーっと座り、その対面のソファーにはティナが横になって欠伸を漏らしている。


 鏡の右隣には、鏡の膝を枕にしてアリスが眠っており、左側では鏡の隣に座れて上機嫌な様子のクルルが、紅茶を片手に座っていた。


「いえ、むしろあの演説があったからこそ千人も来てくれたと考えるべきだね。普通なら、あんな化け物と戦ってはいられないと考えるだろう?」


 部屋端のバーカウンターに腰を掛けながら、來栖が不敵な笑みを浮かべてティナに反論する。


「でも昔、鏡さんと同じようにリーシアさんが演説をした時は、もっと多くの人が集まったんでしょう?」


「昔とは状況が違う。昔は全員、デミスという驚異に常にさらされて極限状態にあった。でも今回は、自分たちの知らない外の世界にいる化け物と戦ってくれと頼んでいるんだ。いくら世界が窮地とはいっても、いきなり現れた化け物と戦おうとは僕なら思わないけどね?」


「まあ……それもそうですね」


 納得がいったのか、ティナは再び頬をソファーにくっつける。


「ていうか、あんたたちばっかり酒飲んでてずるいぞ、俺にもくれよ」


「お前はこの後も特訓するんだろう? 酒なんか飲んでてどうする……それと言っておくが、これはただの水だ。俺もやることが多いのでな」


 この部屋に一同を連れてきたセイジは、來栖の隣でバーカウンターに座りながら、退屈そうにロックグラスに入れた水を飲んでいた。


 勢いをつけてグイっと水を飲むさまは、端からはお酒を飲んでるようにしか見えない。


「それでも……認識を変えて無理やり連れてくるような真似はしないのですね」


 ふと思いたったのか、かつて、父親である国王シモンより、魔王と戦うように仕向けるための洗脳を受けたことのあるクルルは來栖に問いかける。てっきり來栖であれば、動かない住民を前にすれば洗脳を施してでも強引にアースへと引き込んで戦わせるのではないかと懸念していたからだ。


 少なくともそれを行えば、レベルの高い者は無理やり仲間に引き入れられる。


「前にも言っただろう? 認識を変えるというのにも限度があるのさ。それに……認識の変化はその者の本心じゃない。デミスと戦う決意をしたという認識を植え付けたところで、デミスを前にすればきっと簡単に心が折れてしまう。自分の意志で立ち向かう決意をしたものとは違ってね。そんな戦士は……使い物にならない。だからこそ、真にデミスへと立ち向かう心の強さを持ったものが、自分で納得したうえで来てもらうのが一番いい」


「……あなたがそういう考えでいてくれてほっとしました」


「おっと、勘違いしないでもらいたい。それが一番使える戦力を集めるのに適しているというだけで、集まりがあまりにも悪いなんて状況になったら……認識を変えてでも無理やり連れてこさせるよ? 下手な鉄砲数撃てば当たる……とも言うしね」


 來栖は再び、不安を煽るような醜悪な笑みを浮かべる。すると、そのあんまりな態度に横で見ていたセイジも呆れて溜息を吐き、肩を掴んで「やめろ」と声をかけた。


「どちらにしても、こちらの世界の環境に身体を調整できる人数には限りがある。今のペースなら、その必要もないがな。それに……演説を行ったとはいえ、やはり理解には時間が必要だ。そのうち嫌でもこの世界に多くの者が戦う意志を示して来てくれるさ」


 そう言いながらセイジは、來栖とは対照的な安心感のある笑みを浮かべた。


「しかし、改めて見ても随分と洒落た部屋でござるな。ノアで暮らす者たちが見たらなんと口にするか……」


「あ、いたんだ朧丸」


「ご主人が演説を終えて以降ずっと傍にいたのでござるが? 酷くないでござるかご主人?」


 その時、中央のテーブルに立って周囲をきょろきょろと見まわしていた朧丸が感想を漏らす。


「ところで……どうして來栖、貴様までここにいるのでござる?」


 同じく部屋に居てほしくないのか、朧丸が棘のある声色で來栖を睨みつけた。


「おや? いちゃ駄目でしたか?」


「演説が終わったあと、ノアへと戻ったはずでは?」


「直接セイジに渡しておきたい物があってね、それと……物資を取りにきたんだ、エデンはノアと違って食料が潤沢に保管されているからね。ま、そのついでに僕も少し休憩しようかと思ってここにいる感じかな……心配せずとも、この後すぐに出ていくよ」


 憎悪を向ける朧丸をからかうような言い方で、來栖は醜悪な笑みを浮かべる。


 とりあえずはデミス討伐のために和解はしたものの、仲良くできるかと言われればそういうわけでもなく、朧丸は冷めた視線を來栖へと向けた。


「渡しておきたいもの……とはなんでござるか?」


「君たちには秘密さ……今はまだね」


「秘密だと? この期に及んで某たちに隠し事でござるか? 何かよからぬことを企んでいるのではあるまいな?」


「まあまあ」


 そこで、疑うような視線を向ける朧丸を宥めるように、鏡が朧丸の胴体を掴んで自分の頭の上へと乗せる。


「この期に及んで、秘密があることを教えつつそれが何か言わない……ってことは、そうした方が俺たちのためになるってことだろ? 來栖は糞野郎だけど馬鹿じゃないからな」


「本人を前に言いたい放題だねぇ」


「事実だろ? ま……俺たちにはまだ言えない秘密兵器があるって思っておくさ」


 そして一人で納得すると、鏡は微笑を浮かべた。


 來栖のキツネが悪だくみをしているような含みのある表情が少し気にはなったが、今更こちらが不利になるような真似はしないと踏ん切る。


「さて? そろそろ俺も特訓に戻りたいんだけど……アリスぅ? そろそろ起きてくれないかな、重くはないけど身動きとれないからさ」


 ガーディアンでの戦いが終わって以降、なんだかんだと忙しく動き回り、ろくな休息がとれていなかったせいか、アリスはこの部屋に来てすぐに眠ってしまっていた。


 鏡が頬を突いて起こそうとするが、気持ちよさそうに寝息をたてたまま起きようとはしない。


「アリスちゃん? そろそろ……起きなさい?」


 しかし、クルルがどこか威圧的な声色で全身から魔力を漂わせた瞬間、アリスはパチッと目を覚まし、流れるような動作で起き上がった。


「おはようございます。タヌキ寝入りの…………アリスちゃん」


 そんなアリスを、高圧的な冷ややかな視線で睨みつけるクルル。


「ど、どうしてわかったの……?」


「二回目ですよ? わからないとでも思いましたか?」


「さ……さすがクルルさん」


 そんな威圧感を放つクルルに、アリスはダラダラと冷や汗を垂らして視線を逸らした。


「ち、違うんだよ鏡さん! 決してボクは……最初は本当に眠くなって!」


 クルルからの卑しい女を見るかのような視線を前に、アリスはあたふたとしながら鏡に弁明する。対して鏡は心底どうでも良いのか、天井を見上げて泳ぐ魚を見つめていた。


「だって最近……鏡さんボクに構ってくれないからさ。もちろんスキルを扱いこなすのに忙しいのはわかってるから、こうして休憩の時くらいはと思って」


「休憩の時になったからって、鏡さんの膝に寝る必要はないでしょう? 鏡さんだって疲れて休憩しているんですよ? 構って欲しくても、私のように普通に座ってお喋りすればいいじゃないですか」


「……それはその、つい昔の癖で……膝の上に。そしたら本当に眠くなっちゃって……でも途中で起きちゃって」


「……起きちゃって? それで寝たふりを続けたのはどうしてですか?」


「それは……その、で、でもね! 昔鏡さんと一緒にカジノで働いてた時は、休憩の時間になればこうして……ね⁉ 膝の上にピョーンって乗ったりね⁉ 眠たい時は膝枕してもらったり……ね⁉ 普通にやってたよね⁉ ね⁉ 鏡さんね⁉」


 しかし鏡は巻き込まれたくないのか、天井の魚を見つめたまま反応しない。


「昔の癖でいつも通りであるならばもっと堂々としていればいいでしょう? しかしあなたは寝たふりを続けた……そして、タヌキ寝入りがばれた瞬間とても慌てていましたね? つまり、あなたは鏡さんの膝の上で頬を擦り付けるのが、どこか打算的でやましいことだと感じていたのではありませんか?」


「クルルさん……怖!」


 どんどん威圧感を増して追求するクルルに、反対側のソファーに座っていたティナも思わずツッコむ。


「確かあなたは前に、自分はもう子供ではないと言っていましたよね? 自覚があるんですよね? あなたがそうやって男性の膝の上に飛び込む行為がどういう意味をもつのか、もちろん理解していますよね? 理解しているからそんなに焦っているんですものね」


「ち、違!」


 好意からくる打算的な行動を、言葉にされて鏡に聞かれるのが恥ずかしくなったのか、アリスは徐々に頬を紅潮させる。顔を真っ赤にしたアリスの姿を見て、ティナは「かわいそう」と思うと共に、乙女になったものだとどこか感慨深く成長を感じさせられていた。


「クルルさんだって! ボクのことなんてほっとけばいいのにそうやってネチネチ言うってことは、嫉妬してるんでしょ⁉ 羨ましいなって思ってるからそうやってボクを言葉で辱めようとしてるんじゃないの⁉」


「はい、嫉妬していますし、羨ましいとも思っていますよ?」


「……あれ?」


 案外素直に認めたことに、アリスは素っ頓狂な声をあげる。


「意外でもないでしょう? アリスちゃんだって知っていることではありませんか。私はただ……素直で正直なだけです。アリスちゃんのように後ろめたくなるようなことをしないだけで」


 その一言で、アリスは餅を喉に詰まらせたような表情で押し黙った。


 言葉で攻めたつもりが、逆に攻められる展開になるとは思っていなかったからだ。


「これは本来タカコさんに言うべき言葉なのでしょうが……あなたにも言ってあげるべきなのかもしれませんね、あざといあざとい…………アザコちゃん」


「これが……クルルさんがクラスチェンジで得た大賢者の実力……!」


「いや、違うと思いますけど」


 言い返す言葉もなく、負けを認めるアリスにティナが冷静に再びツッコみを入れる。


 確かにクラスチェンジを終えて大胆にはなったとは思うが、それとこれとはまた話は別だった。


 そしてそんな激戦が繰り広げられる中、鏡は『そういうのは戦いが終わってからにしてほしいな』と、一人冷静に天井の魚を見つめる。


 さらにその傍らで、セイジはとても真面目な顔つきで「おっさんにはきついな」と、來栖はセイジの言葉に「ええ、とても」と清々しい顔で、目の前で繰り広げられるピンク色の空間を見せつけられていることに真剣に悩んでいた。

次回更新は4/29 21時です

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― 新着の感想 ―
〘一言〙一番かわいそうなのは男三人だよな
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