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LV999の村人  作者: 星月子猫
第七部
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再び-3

「まあ、あるにはあるが……未完成だ」


「未完成……? 中途半端に放置してそのままにしてるってことかい? 君らしくもない。自分で設計して詰まるなんて昔のライアンならありえないことだよ」


「いやな? 俺もいけると思ったんだが……俺の想像を遥かに超えてたんだよ。まさかあそこまでブラックボックスだらけだと思わなかった」


「ブラックボックス? 何の話だい?」


「いやな? 一端戦いが終わってから各国に点在してたスーパーロボットの残骸とかパーツとか掻き集めてな? それを駆使したロボットを作ってみたんだが……研究所に残されていたデータが全部飛んでいたせいで、稼働できないんだよ。仕組みがわかりゃ、なんとかなるんだが」


 それを聞いて、ノア出身の者たちは一斉に、今も尚、メリーと共に武器のメンテナンスをしている油機に視線を向けた。


「あそこにどんな道具の仕組みも、一発で分析する子がいるけど……彼女を使って完成させられないかい?」


「やっぱそうなるよな……自分で完成させたかったけど、ま……仕方ねえか」


 さも当たり前のように、研究者としての存在を否定するかのようなことを言い出したライアンと來栖を、セイジは心底不思議そうな顔で見つめる。


「……何を言ってるんだお前らは?」


「彼女は……どんな道具でも、使い方からその道具の仕組みの全てを解析するスキルを持っているんだよ」


「いやいやいやいやいや。は?」


「その反応は別に不思議じゃないよ。レベルが150にも満たないのに、この僕が切り捨てずに生かして残したくらいだからね」


「お前らの地下施設から出てきた連中のスキル……全員特殊すぎないか?」


 むしろ、ディルベルトの持つ『エクゾチックフルバースト』で大騒ぎしていた自分は滑稽だったのではないかと、セイジは頭を抱える。


「それで? ライアンはわかったけどセイジは? この日のためにどれだけの準備を進めていたのか……何が飛び出すのか楽しみだよ」


「俺が用意したものはたかだか知れている。空間管理装置と、各国に捨てられていた魔力銃器を含む火器の用意、十数万人は半年くらい賄える食料の備蓄、医療機具の準備だ。お前らみたいなとびっきりの戦力みたいなのはない。クラスチェンジは施してやれるがな」


「堅実だねぇ……まあ正直、そういった部分を頼りにしてたから予想通りではあるんだけど」


「あとは、敗北した場合……身体を捨ててアースクリアの世界に逃げることくらいか? 流石のデミスも、身体のない存在を相手にはできないだろうからな」


 未だ、肉体を捨ててアースクリアに永住することを諦めていないセイジに、タカコと鏡は鋭い視線を浴びせかける。それに反応して、セイジは「勘違いするな」とため息を吐いた。


「逃げ道を用意しているだけだ。来る戦いに向けて手を抜いたりはしない。俺だって勝つつもりで、全力で取り組むつもりだ…………最後の最後、敗北時にどうするか、その時の選択肢が多いとだけ思ってくれればいい」


 それを聞いて、グリドニア王国に赴いた一同は何も言わず、思いつめた表情を浮かべた。仮に敗北した場合、逃げ道が用意されているのは確かに悪くはない。しかし、本当の身体を失ってまで生き延びたいか問われれば、すぐに答えは出なかった。一同は既に、身体を凍結させられ、意識だけとなった者たちを見ているからだ。


 システムに誤作動が起きるだけで消えてしまう可能性だってある儚い存在。その気になれば記憶の改ざんすらも行える、システムに全てを委ねた自分自身が、本当に生きていると呼べるのかは怪しかった。


「そういうお前はどうなんだ? どれほどの準備を進めていた?」


「知っているくせに一々聞く必要あるかい? 僕たちの動向を衛星で調べて、ここエデンが移動しているのを気付かれないようにしていたくらいだ。全部知ってるんだろう?」


「相変わらず……喰えん奴だな」


 全てを見透かしているような物言いに、セイジは表情を歪めた。懐かしいようで、昔とは違う冷たさ感じたからだ。しかし、時代が違えば、支配者にもなれたであろう隙の無さに、今は少しだけ心強さを感じる。


「ま、皆それぞれ、それなりの準備はしているようで安心したよ。それでもまだ準備は必要だけどね……当面は、皆、準備に追われることになるだろう」


「私たちは何をすればいいかしら? できることなら手伝うつもりよ」


 準備と聞いてタカコが名乗りを上げる。敵であった相手に協力的なその心意気を嬉しく感じ、來栖は微笑を浮かべるが、「君は別に手伝わなくていい」と一蹴した。


「適材適所……君は戦いに向けて備えてくれ。クラスチェンジだっけ? あれの力をまだ扱いこなせていなんじゃないかな? 君も、鏡君もね」


 來栖の指摘がその通りなのか、タカコは拳を握りしめては放すことを繰り返す。クラスチェンジは身体能力が向上するわけではなく、元からあった力が解放されるだけで、扱いこなすためにはそれなりに感覚を掴むための時間が必要だったからだ。


 他のクラスチェンジした者たちもそれは同じなのか、頷いて反応する。


「そうだね……デビッド君だけ貸してもらおうかな。これから嫌でも人数が増える。新たにアースへとやってきたアースクリア出身の者たちのとりまとめをやってほしい。色々と説明や、部屋の割り当てとか物資の支給とか、めんどうな仕事が多いからね」


「ほっほ、お安い御用です。元より私は戦闘向きではございませんからな。お考えの通り、そちらの方が皆様のお役にたてるでしょう。お任せください」


 ガーディアンの地で、デビッドの持つスキル『等価交換』を駆使しても、相手から武器を奪って戦力を低下させることしかできなかったデビッドには、そもそも武器を持たない変異体を相手に大きく活躍できるビジョンが見えていなかった。


 それ故、戦闘以外の部分で役に立てるだろう來栖の提案は、デビッドにとっては願ってもいない申し出だった。


「そういえば、これからアースクリアにいる者たちの多くがこの地へと来るとは思うのですが……どうやって呼び込むつもりなのですか? 魔王を倒すように促すのでしょうか?」


 そこで、ふと抱いた疑問をフローネが指を口元に当てながら言葉にする。


「確かに気になりますね……ヘキサルドリア王国を収めるニニアン様は、いずれ話すことと、ダークドラゴンのことやデミスの情報を変に包み隠そうとしていませんでしたが、既に考えがあるのでしょうか?」


 同じく気になっていたのか、ロイドも賛同して來栖に視線を向けた。


「簡単な話だよ。かつてリーシアがやったように……演説を行うのさ」


「演説……ですか。言ってはなんですが、突然自分たちとは知らない環境に存在する化け物の話をされても、ついていけないのではないでしょうか?」


「何言ってんだこいつ? とかは思われそうだな」


 ロイドの懸念をライアンは肯定する。少なくとも、アースクリアの住人にとって、アースは未だ認識すらしていない異世界でしかなく、その世界が滅べば自分の世界も滅ぶかもしれないと聞いても、実感を抱けるかは怪しいからだ。


「演説って……認識を変えて無理やり連れてくるとかはしないんだな」


 思っていたよりも強引ではないやり方に、鏡は意外そうな顔を浮かべる。てっきり來栖であれば、洗脳を施してでも強引に戦わせるのではないかと懸念していたからだ。


「認識を変えるというのにも限度があるのさ。例えばそうだね……君たちにグリドニア王国へ行くように命じた時、認識保護を受けさせただろう?」


「ああ、確か記憶の欠如が起こる危険性があるんだっけ?」


「そう、認識を変化させると、それに伴う記憶の改ざんもある程度自動で行われる。しかしそれにも限界はある。変化した認識に結びつく記憶が多ければ多いほど、失う記憶も多いと考えればいい。魔王を倒しても……倒されていないという認識と、倒した奴がそもそもその世界にいなかったことになる程度の認識変化だが、君たちの場合、ヘキサルドリア王国にいる魔王との記憶が現状に至るまでの記憶と強い結びつきがある。その状態で認識変化を受けたら、自分たちはどうしてこんなところにいるのだろうか? と、精神の崩壊に繋がりかねないんだよ」


「下手にいじくれば、折角の戦力を失う結果を招きかねないってことか」


「そういうことだね、フルパフォーマンスで戦ってもらいたいなら……向こうから納得してもらったうえで出てきてくれるのが一番いいのさ。そりゃ僕もそれができるのならやりまくってるさ」


 その言葉に、「ああ、やれるのならやるのね」と、一同は改めて來栖に嫌悪の視線を向けた。

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