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LV999の村人  作者: 星月子猫
第七部
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再び-2

「それくらいのことをした自覚はある。非人道的と誰かに指摘されたとしても、僕はその通りだとしか答えられないよ」


「貴様……開き直っているのではござらんな?」


「まさか、恨まれたくないなんて生温い覚悟でやっていたわけじゃないってことさ」


 しかし、だからと言って反省しているつもりもない、そんな態度で來栖は朧丸を睨み返す。


「僕、ライアン、セイジ。それぞれがそれぞれの地下施設を管理するようになった時、僕たちは共通の方針を決めた。一つは、いつかデミスを倒せるだろう存在を作り上げること。もう一つは……人々に希望を、生きる気力を与え続けることだ」


「貴様は……その人々の希望を抱く心を利用した!」


「そう、僕は人々が生きようとする気力すらも利用して実験を繰り返した。外に出てきたアースクリアの人間も、どうせ結果的にデミスと戦わないのであればと利用してきた。僕は利用できるものは全て利用してきた」


 全てはこの世界を救うため。そこに善も悪もないと、來栖は覚悟の垣間見える力強い眼差しで朧丸を睨みつけた。しかしそれが、どうにも開き直っているようにしか見えなくて、朧丸は嫌悪の視線を返し続ける。


「君がどれだけ僕を憎もうがどうでもいいことなんだよ。僕は憎まれて当然の人間だからね」


「……貴様!」


「だが、これだけは覚えておいてくれ」


 しかし、そこで來栖は再び表情を変え、訴えかけるような真剣な眼差しを朧丸へと向けた。


「君は……今まで僕が利用してきた者たちの屍の上に立っていることを」


 そして吐かれた言葉に、朧丸は困惑して目を丸くする。


「何をいけしゃあしゃあと……屍の上に立っている? 某すらも利用しようとしていた貴様がよく言えたものだな! 忘れはせんぞ……貴様が某にしたことを!」


「確かに君が逃げ出したときはさすがの僕も焦ったよ。必死になって僕の協力者たちに探させたさ……君は、人工的に作り上げた唯一の複数スキル保持の成功例だったからね。だからこそ君の言う通り、君を使って、さらなる進化した生物の研究を行うつもりでいた」


 しかしそれは、過去の話であり、今はそんな気はさらさらないかのように來栖は語る。


「だが、それも終わりだ。僕は鏡君に全てを賭けることにしたからね……つまり、結果的に君やピッタちゃんたちが僕の最終研究成果になる。だから……君たちは、これまでの全ての犠牲の上に立っていることを覚えておいてほしい」


「都合のいい話でござるな? 殺そうとしておいて、命を大切にしてほしいだと?」


「……リーシアを解放すること、それだけが僕にとっての全てだった。そこに善も悪もなくて……目的を果たすために色々なことをやってきた。恨まれて当然だし……復讐をしたいならばすればいい、僕は抵抗しない。でも、その全てのためにやってきたことを無駄にすることだけは許さない。僕は多くを犠牲にしてきたが、犠牲なった者たちを無駄にはさせない」


 普段から人を嘲り笑うような態度を見せてきた來栖の放った、どこか迫真めいた物言いは、これまでの長く辛い人生を訴えているようだった。


 その表情から朧丸も目を瞑って思考し、世界をなんとかしたいという思い、それだけのために全てを投げ捨てて生きてきたという気持ちだけは本物だと認める。


「全部終わってから……だな?」


「……そのようでござる。こうなってしまった以上、どうやら某は、それなりに責任のある立場になってしまったようでござるからな」


 その様子に気付いて鏡が声をかけると、朧丸は目を瞑ったままそう言葉にした。


 少なくとも、目的は一致している。決して、ただの享楽で人々を犠牲にしていたのではないのであれば、恨みを晴らすのは全てが終わってからでも遅くはないと、朧丸もそれ以上は何も言わずに押し黙った。


 どこか重苦しかった空気が解放されたのを感じ、その場にいた一同の表情が和らぐと共に、來栖も呟くように、「助かるよ」と感謝の意を示す。


 來栖にとって避けなければならないのは、私怨を優先してデミスと戦うための戦力を削ってしまうことだったからだ。


「で、こっちの話も終わったところだし、そろそろティナさん起きてくれないですかね」


 暫くして鏡が切り出し、再び幸せそうに眠っているティナの頬を突いた。


「あ……まだ寝てたんだ。幸せそうに眠ってるね……タヌキ寝入りだったりして」


「……どうでしょう。ありえなくもないかもしれません」


 鏡の膝元で幸せそうに眠るティナの顔を、アリスとクルルの二人は覗き込む。


「悪い顔……してます」


 どこか嫉妬の感じられる冷たい視線をティナに向ける二人に、紙飛行機を飛ばして遊んでいたピッタもビクッと体を震わせて立ち止まり、ボソッと呟いた。そんなピッタをタカコが抱き上げて軽い溜息を吐く。


「ティナちゃんも疲れてるのよ、クラスチェンジの試練で一緒だったからわかるけど。相当精神的にダメージを負ってたみたいだったし……なんなら、次の日にティナちゃんを起こしに行ったら、夢にまで出てきたのか寝ながら泣いてたわよ?」


 それを聞いて、その場にソファーで座っていた全員が一斉にセイジへと顔向けた。すかさずセイジも顔を逸らして「俺は知らん、俺のせいではない」と誤魔化す。


「疲れをとるのはいいけど、ここじゃなくていいだろ? とにかく俺が身動き取れないから起こそうぜ? ……ここで俺が屁をこいたら一発で起きそうじゃない?」


「あら? そんなことしたら私がティナちゃんに代わって鏡ちゃんを粉砕するわよ?」


 ウインクしながら物騒なことを言いだした粉砕者に、鏡は「そのウインクかわいいなぁー今日からアザ子ちゃんって呼んでいい?」と、感情の籠っていない笑い声をあげた。


「とりあえず鏡ちゃんにはそのまま我慢してもらうとして……今後の展開について聞かせてもらっていいかしら? デミスと戦うにしても、準備が必要なんでしょう?」


「そうだね、これからの動きについては話しておいた方がいいだろう。僕たち管理者の間でも、それぞれができることを整理しておきたいしね。大体わかっているつもりだけど……隠し種があるかもしれないし」


 來栖は確認するように隣に座るライアンとソファーに座るセイジにそれぞれ視線を向ける。


「なんで俺に視線を向けるんだよ。言っとくが俺は……千年前にお前たちがやれって言ったことを延々と精度をあげてやり続けただけで、隠し種なんて言えるようなものはないぞ?」


「まあライアンは研究者のくせに昔から捻ったことはしない一直線な男だったからね、僕やセイジみたいな特殊なことはしてないんだろうけど……君は趣味があったよね?」


 何を言いたいのかを察したのか、ライアンは「あー……」と言葉にしながら視線を逸らす。


「銀色の……ラストスタンド」


 遅れてタカコも気付いたのか、フローネと初めて出会ったときに目にした、普通よりも遥かに性能の高いラストスタンドの存在を口にした。


「そう、それのことさ。ライアンは昔からロボット工学が大好きでね、医療器具も作ってたけど、医療用アンドロイドみたいなロボットとか、ラストスタンドの設計にも携わってたよね? 昔からプラモデルを作るのも好きだったしね…………あの時は鏡君を呼び寄せるためだけに使っていたから目立たなかったけど……あれ、普通のラストスタンドより遥かに性能が高いよね?」


「ラストスタンドの改造くらい……お前らだってやってるだろどうせ?」


「やっていない。覚醒やら意識保存の研究で時間がなかったからな」


 ライアンの問いに、セイジは首を左右に振って否定する。


「僕はやったけどね、ラストスタンドの構造の発案者ではないから上手く改造できなかったよ。作るのに必要な物資も多すぎたし、結局唯一作れたのも、鏡君たちが壊しちゃったからね」


「なら、量産が難しいこともわかってるんだろ?」


「量産には期待してないさ。戦局を変えうる秘密兵器が一台でもあればいい。銀色のラストスタンド……あれは僕が作ったものより、遥かに性能が高かった」


「言っておくが……あれは一台しか作ってないぞ」


「ふーん……『あれは』ね? 君のことだから満足できずに違うのを作ってあるんだろう? わりと適当に格納庫にしまっておいて、フローネちゃんが自由に使っていたのを見ると、仮にあれで暴れられてもなんとかできる隠し玉があるんじゃないかなぁ?」


 暗号化されて鍵のかかった扉を無理やりほじくるように、來栖はいやらしい言い方でライアンに白状するように問い詰めた。その光景を見て、「やっぱりこの男は全てが終わったら殺さねば」と朧丸が、「うわぁー」と引きつった顔でフローネ、クルル、アリスがそれぞれ呟く。

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