表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LV999の村人  作者: 星月子猫
第七部
355/441

掴みかけた安息-14

「必要なことなんだ。デミスとの戦いはいつまで続くかわからない。そうなればこちらの戦力は次々に減っていく。補充するには……新たな超人の力が必要だ。君の開発している仮想空間……あれは僕の仮説が正しければ、脳と人体の影響をリンクさせて人工的な超人を作れる」


「確かに、本来であれば超人化は、超人としての身体の扱いを知らないが故に脳に負担をかけ、制御し切れずに後遺症、もしくは超人細胞に飲まれて死亡するが、仮想空間でそもそも超人としての身体が元であったと錯覚させて調整を施せば……人工的な超人は作れるかもしれん」


「かもしれないじゃない。作れるんだよ……科学的な根拠のもとにね。そもそも超人は、科学的な根拠に基づいた現象を、科学的な道具に頼らずとも発生させられるようになった人間のことだ。長年科学という環境で生きてきた人間に、魔法という新たな力が目覚めたことで発現した……一つの進化の形でしかない。これがわかっているならば、人工的に超人化を促すことはもちろん、新たな人類の進化の可能性だって……君の仮想空間があれば可能になる!」


「戦うためだけの生物兵器を俺に作れというのか?」


「そうだよ。人類が生き残るためにね」


「………………戦いが終わったあとはどうするんだ。戦うためだけに作り出された者たちは? 短期間でやるとなれば……人格の形成は極めて難しい。人格形成のために仮想空間内での時間を倍速にしたとしても、後の調整のことも考えれば三倍が限界だ。となれば、人格の形成は切り捨てることになる。そんな人間が、平和になったあとの社会に解け込めると?」


「なったあとの話なんてどうでもいいよ。何より大切なのは……今を乗り切ることだ。そのためなら僕たちは悪魔に魂だって売らなければならない。違うかい?」


「お前……本気で言っているのか⁉」


 あまりにも冷たい來栖の物言いが癇に障り、セイジは勢いよく來栖の胸倉を掴んだ。この状況故、言い分は正しかったかもしれないが、長年同じ研究所で行動を共にした友から放たれた言葉だと認めたくなかったからだ。


「おい、お前ら何やってんだ……! いったいどんな話をしていたかは知らないが、今は揉めている場合じゃないだろう?」


 そこで、一人おいてけぼりにされていたことにようやく気付いて部屋から出てきたライアンに止められ、二人は引き離される。納得できていないのか、セイジは嫌悪の籠った視線を來栖に向けると、そのまま何も言わずに通路の奥へと去っていった。


「セイジが怒るなんてよっぽどだぞ……お前、何言ったんだ?」


「……ちょっとね。僕もどうするべきか悩んでいたことを提案したんだけど。やっぱり怒るよね……そりゃ。さすがの僕も、自分で言っていて引きそうだったし」


 どこかやりきれない顔を浮かべながら、來栖は乱れた白衣を整えた。


 來栖自身もセイジの言い分は理解できており、その行為に抵抗がないわけではなかった。だが、そうするべき状況なのも間違っておらず、どうするべきか悩んでいた。だからこそ、自分が最も信頼している天才のセイジの意見を聞いて、どうするべきか決めようとしていた。それがたった今行われた問答へと繋がる。


「人間らしさを失うべきではないか……リーシアも同じことを言いそうだな」


「……何の話だ?」


「いや、こっちの話さ、まあ……人としてできることをやれるだけやろうって話だよ」


 話が見えず、ライアンは首を傾げる。対して來栖は気持ちに踏ん切りをつけられたのか顔を力強く両手でパンっと叩くと、空間管理装置を完成させるべく、覚悟を決めた真剣な眼差しを浮かべながらラボへと向かった。





 そして、遂に運命の日は訪れた。


 デミスの接近と共に激化する、変異体とデミス細胞との死闘の日々。だが、デミスが目と鼻の先にまで接近した時の脅威は、今までの比ではなかった。それはもう、『雨』と呼んでもおかしくはなかった。それだけの数、それだけの量のデミス細胞がアースへと降り注いだのだ。


『アースディフェンダーを起動しろ! 攻撃するんじゃなく、防壁を展開するんだ! 倒す前に人類が滅んでしまう!』


『宇宙で戦っている超人たちやスーパーロボットは何をやっているんだ⁉ 本当にちゃんと戦っているのか⁉』


『戦っています! それでも……それでもこれだけの量が!』


 それは、かつての偉人が想像し、描いたものよりも残酷で、救いようのない地獄絵図だった。


 前線で戦うものはデミスと戦うのではなく、デミスが生み出した細胞や変異体と戦うことで手一杯の状況。そして、変異体をいくら倒しても、恐らくはアースとは違う別の星で生み出した変異体が次々にデミスから排出され、超人たちを襲う。


 挙句の果てには、仕留めきれずにアースへと飛来した細胞が生物と融合し、変異体となったものが順に前線で戦う者たちの元へと飛び立つため、超人たちは挟み撃ちの状態で、苦しい戦いを延々と繰り広げていた。


 なんとか持ちこたえられたのも、この日のために準備していた各国のスーパーロボット、ラストスタンドが超人たちを援護してくれたからだ。だが、生物とは違い、ロボットは損傷すれば修復に時間がかかる。大破すればより多くの時間が必要となってしまう。


 むろん、人類にそれを修理するだけの時間は残されておらず、少しずつ蝕むように、人類の結集した力は削られていった。


 数多く残っていた超人たちも、あるものはデミスから直接伸ばされた触手に捕まり、身動きの取れない状態でデミス細胞によって変異体に、あるものは殺され、次々に命を落としていった。


 そして人類は改めて思い知らされたのだ。



 惑星サイズの敵に、塵に等しいサイズの自分たちが敵うはずがないと。



 倒すべきはデミスなのに、倒すべき相手と戦うことすらもできない。そんな余裕すら与えられない圧倒的戦力差。今でさえ勝てる見込みがないのに、デミスまで戦闘に加わったらと考えるだけで、絶望で目の前が真っ暗になった。


 それでも、諦めない者はいた。諦めずにチャンスを、撃退するための隙が、弱点がないかを探り続ける者がいた。無論、諦めてしまった者もいた。


 しかし、前線で戦っていた超人たちは誰一人として諦めず、その者を信じて戦い続けた。


 命を顧みずに最前線で戦うその姿に、諦めずに平和を追い求めるその心の輝きに、人類が積み重ねてきた歴史の重みと魂、そして意地を感じたからだ。死ぬならば、逃げるのではなく、立ち向かって散る。それが、前線に立った者たち全員が抱いた覚悟だった。


「……反対だ!」


 そんな戦いの最中、地下施設内にある会議室の一画で、後方支援に回っていた來栖が手で机を叩き、叫び声をあげる。会議室内には各国の要人、地下施設内である程度の権限を持つ者、各国の研究所から来た所長、そしてリーシアを含む一部の超人たちが集まっていた。


「來栖……こうしている間にも前線で戦っているものたちは疲弊している。我も、いずれ前線に戻らねばならん。現状のままでは我だけじゃない、全ての超人が命を失うことになる! それくらいお前ならわかっているだろう!」


 声を荒らげる來栖を宥めるように、リーシアは声をかける。緊迫する空気の中、冷静さを欠いた來栖に発言できたのは一部の者だけだった。


「成功の可能性を高めるためには合理的ではある……だが失敗した時のリスクは大きいぞ? 賛同するわけではないが、來栖の反対の言葉も無視できん」


 來栖の肩をポンっと叩いて窘めながら、セイジは眼鏡に手を当てながら至って冷静に自分の考えを言葉にする。


「でもよ、この作戦をやらねえと……遅かれ早かれ俺たちは終わりだぞ?」


 気持ちでは來栖の言葉に賛同なのか、暗い表情を浮かべながらライアンはそう呟く。


 その言葉で、來栖とセイジも顔を曇らせた。提案された作戦は、成功しなければ人類の滅亡が待っていると言っても過言ではないものだったからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ