掴みかけた安息-13
「リーシア、ちょっと待ってくれ」
「んお? どうしたのだ來栖? これからって時に」
「これからって時だから渡しておくんだよ。今や、僕たちの所属する組織は地球の命運を左右する大部隊になった。君もこれから、挨拶がてら新たに世界のために集まってくれた超人たちの細胞を分けてもらいに行くんだろう? だから……これを渡しておこうかと思ってね」
「んん? 指輪か? なんだこれは…………むふふぉ⁉ まさか、まさかとは思うが來栖! お前……そういうことか? そういうことなんだろぉ⁉ んんー?」
「ああ、プロポーズという意味で受け取ってくれていいよ」
「ははーん、やっぱりな。期待させよって……この鈍感研究者は本当に興味のあることしかやろうとせんな。で? これはいったいどんな効果の詰まった装置なんだ? パワーアップするのか? 変身でもするのか? それともただの魔力増大装置か? 何にせよもうちょっとデザインを………………んおぉおおおおおおおおお⁉ 今お前! 我になんと言った?」
「理解まで長かったね」
それはデミスがアースへと到着する一週間前のことだった。
リーシアの演説の効果あって、各国に点在していた超人たちが結集。悪人だった者もヒーローだった者も、関係なくアースを守るために手を取り合い、來栖たちが住まう地下施設へと押し寄せていた。
これから、リーシアが集ってくれた者たちの前に立ち、代表して挨拶をしようと控室で待機していたところ、突然來栖がやってきたのだ。
「じゃ、じゃあこれはあれか⁉ 婚約指輪か⁉ 婚約指輪というやつなのかぁぁぁ⁉」
「ただの指輪じゃないよ。君の遺伝子的な生体反応を拾って生きていることをちゃんと示す発信機にもなっている。君が指輪をなくさないか、死んでしまったりしない限りはいつまでも僕に反応が届く」
「しかし……どうしてこんなものを今?」
「前に言っただろ? 今度、君が君って誰でもわかるようにする装置でも作ろうかってね。前々から少しずつ開発してて、昨日完成した。これで君がどれだけ他の超人の細胞を取り込もうが、リーシアだってわかる。……さすがにあれだけの超人の細胞を取り込まれたら、僕でも見抜けるかどうか怪しいからね」
「なるほどな……うむ! 確かに受け取った! 返事は…………ふっふっふ」
返事はと言いつつ、既に指輪を左手の薬指にスポッとはめ込んだ時点で來栖は察したが、面白そうだったのでそのまま何も言わずにリーシアの反応を窺う。
「どうしようかなぁ~! 普段から來栖にはボコボコに言われておるからなぁ⁉ 断っちゃおうかなぁ~? 我は美人で可愛いしなぁ⁉ 経済を支えるセルモンド財閥の娘だしぃ? いくらでも貰い手がいるからなぁ! 來栖に我はもったいないんじゃないかなぁ?」
「見た目がコロコロ変わるのに美人で可愛いって自分で言える君は本当にすごい」
正直、あまりにも見た目が変わりすぎるため、リーシアの父親も貰い手がいなくて困っていた。
付け足すなら、セルモンド財閥の権力を振りかざして見合いを何度も実行してきたが、リーシアの性格も相まって何度も破断になっていることを本人から何度も愚痴のように聞かされていた來栖にとって、欠伸が漏れてしまうくらいの煽りだった。
「じゃあ諦めるから指輪返してくれるかい? 代わりにペンダント型のを作ってあげるよ」
「はい嘘ぉおおお! 嘘です! すみませんでした! ちょ、やめるのだ來栖! これはもう私のだから! ちょっ! ごめんなさいごめんなさい!」
「最初からそう言えばいいのに」
取り返そうとすると、野生の獣が如く必死に抵抗してきたリーシアに、來栖は軽い溜息を吐く。
「というより……來栖はその、我でいいのか?」
すると今度は急にしおらしくなり、リーシアは恐る恐る問いかけてきた。その表情を見て、來栖は軽く噴き出して笑ってしまう。
「君は本当に面白いね、感情が豊かというか……僕にはないものをたくさん持っている」
「そんなことはないぞ? そんなことを言ったら來栖だって我にないものをたくさんもっているだろう? 我にはできないことを平然とやってのける」
「だからさ、君は僕に可能性を与えてくれる。君がいなければ……きっと今というこの時間もないはずさ。だから……この戦いが終わったあとも、引っ張ってもらおうと思ってね」
そう言って來栖が柔らかい笑みを浮かべると、リーシアも照れくさそうに笑みを浮かべた。
「よーし、そろそろイチャイチャするのやめてもらっていいか? 皆待ちくたびれてるぞ?」
そこでタイミングよく、ライアンからの野次が飛ぶ。
「んな! 一体いつからそこにおったのだお前!」
気付いていなかったのか、いつの間にか部屋の入口の前で立っていたライアンとセイジの姿を見て、顔を真っ赤にして飛び跳ねるようにリーシアは來栖から離れる。
「ライアンとセイジは僕と一緒にここに来てたから最初からだね。部屋の前で待ってもらってたんだ」
「いやいや。プロポーズしてきた來栖がどうしてそんなに平然とできるのだ!」
「ライアンとセイジがいたからって何か変わるわけでもないし、この忙しい時期に別行動をするのも面倒だったから待ってもらってたんだよ」
「軽! 百年の恋も冷める軽さだぞ!」
「冷めたかい?」
「冷めぬけど……」
からかうと、再びしおらしくなってリーシアは指と指をくっつけてモジモジとし始める。その光景に耐えられなくなったのか、ライアンは「俺たちはいったい何を見せられているんだ」と、セイジは「おなか一杯」と口からイメージで血を垂らす。
「ところでリーシア……お前、いいのか」
「へ? 何がだ?」
話題を切り替えようと眼鏡に手をかけて整えると、セイジは部屋に取り付けてあった時計に指を差した。それを見て、リーシアの顔が真っ青になる。
「お前、確か集まってくれた超人たちに挨拶とかするんじゃなかったっけ?」
「ぬぁぁぁぁああまずい! 早くいかねば……! 込み合った話はまた後でな來栖!」
慌ただしくリーシアが部屋から立ち去り、後には研究者だけが残る。その瞬間、彼らの表情に険しさが戻った。
「準備はいいんだな?」
「ああ、僕の用はもう済んだ。あとは好きなように僕を使い倒してくれていい」
セイジの眼鏡が怪しく光り、來栖はため息を吐きながらヤレヤレと首を左右に振る。
「戦いの中心は恐らく宇宙空間になる。人類を守るには地上に落とさないように宇宙空間でデミス細胞を排除しなければいけないからここしかないわけだが……例の物はできているのか?」
「できているようで……できていないね。必要になるだろう物資は全てリストアップしてるし、各国の工場を総動員させて量産の体制は整っているけど……肝心な装置のプログラムがまだ出来上がっていない。難しいんだよね、小型化って」
「おい……あと一週間しかないぞ? どうするつもりなんだ?」
「あと二日あれば完成するよ。五日もあれば充分量産、配給も可能なはずだ。科学と魔科学を合わせるのって凄くめんどうでね、血液中の気圧を調整して窒息死を防ぐまでは簡単だったけど、生身で太陽光を浴びても問題ないように光のシールドを展開するのがどうにもね、超人なら耐えれそうだけど……戦う前から焼肉パーティーをされても困るからね」
三人はそれぞれ、来る決戦に向けての準備を行っていた。來栖が作っていたのは、宇宙空間での滞在を可能にする装置だった。戦うのは超人という人であり、宇宙服を着ながらの戦いはどうしても戦闘力が落ちてしまう。
また、能力によっては宇宙服そのものを傷つけてしまうため、充分に力を発揮できないまま終わってしまう。
その問題を解決するため、既に開発され、コロニー建設のために実用化されていた空間毎管理してしまう魔科学を応用した装置を、來栖は小型化させようとしていた。「また応用品か」と少し不満そうだったが、四の五の言っている状況でもなく、現在に至る。
「まあ僕は心配ないとして……ライアンはどうなんだい? 君が作っているのも、それなりに戦局を左右する重要なものだけど? 確か、君が研究してたクローン技術を少し応用しているんだろ?」
「残念ながらスーパーロボットなんて、そんなすぐに完成する代物じゃないんだよ。当日に間に合ったとしても数台が限界だろうな。あと俺が提供したのは応用といっても、脳の伝達信号を読み取って操作を単純化させるシステムだけだ。大した技術じゃない」
「充分じゃないか、軍に所属する研究員たちはさぞ驚いたと思うよ。……そういえばラストスタンドだっけ? 君がメイン設計しているんだってね。デザインも君が考えてるって本当?」
「当たり前だろう。俺がやらなくて誰がやる?」
「何が当たり前なのか全くわからないんだけど……? 本当に君は昔からロボットが好きだよね。暇があればプラモデルも作ってたし」
「ロボットは男のロマンだからな、俺は良い時代に生まれたもんだぜ……なんせ現役で稼働しているロボットがわんさかいるんだから」
良い時代に生まれたという言葉に、來栖とセイジは声をそろえて「そうか?」と、今まさに世界が滅びようとしている状況から首を傾げて否定する。
そこから「知ってるか? この前ロシアで発表された最新鋭の陸戦型戦闘兵器がな」と、今話さなくてもいい趣味話に移行したため、來栖とセイジはライアンに背を向けて部屋を出た。
「一応だけど……セイジも準備はしているんだよね?」
「各国との連携、指揮及び物資の管理などなど、問題なく進めている。各国に点在する対国家軍事兵器……スーパーロボットを保有している研究所への協力要請も済んでいる。どこも喜んで協力してくれるそうだ。ったく、雑務を押し付けやがって……全部終わったら何か奢れよ?」
「めんどうなこまごまとした仕事は、昔からセイジの得意分野だからね。いつも丁寧に完璧にこなすし……適任者に仕事を振るのは当然さ。一応責任者だからね、僕」
デミスの影響で窮地に陥ってからというもの、ろくに睡眠もとれていないのか、目にクマの跡が残る疲れた表情でセイジはため息を吐いた。その様子を見て來栖が苦笑するが、直後、來栖は鋭い眼差しをセイジに向ける。
「まあ、僕が聞きたいのはそっちじゃないけどね。もう一つ……頼んでいたことがあったよね?」
「……断ったはずだが?」
その表情に勘付いて、セイジの表情も強張る。
「人類の人工的な超人化など……神への冒涜だ。それも人類のために作った仮想空間利用するだと? ふざけるな」
あけましておめでとうございます。
今年からちょくちょく修正を行う予定ですので、修正確認されたらまた読みに来てやっていただけると幸いです。今年もLV999の村人をよろしくお願い致します。




