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LV999の村人  作者: 星月子猫
第七部
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掴みかけた安息-4

『あー……んーっと』


 恐らく何を言っても無駄なのだろう、それを瞬時に理解した來栖は言葉に詰まった。


 そして言葉に詰まっている間に、歩道橋は下で暴れまわっていた超人によって破壊され、二人は暴れ狂う超人の前へと落ちてしまう。


『うわぁお! 近いよ近い! でも安心するがいい! お前のことは我が守って……』


 落下後、リーシアが振り向いた先に來栖はいなかった。正式にはいたが、すぐにいなくなってしまったのだ。


 その場には、來栖が纏っていた白衣だけが宙を舞って残されていた。


『因縁をつけられたら嫌だから、ヒーローと警察の仕事は奪わないようにしていたんだけど……危害を加えてきたのなら話は別だね。後悔しながら……お縄につくんだね』


 そんな台詞が聞こえ、リーシアが視線を元に戻すと、そこにはさっきまで大暴れしていた超人が倒れ、來栖が不敵な笑みを浮かべて倒れている超人に見たこともない銃を向ける姿が視界に映った。


 あまりにも一瞬のことに、リーシアは当然のように、その場でずっと戦っていた他のヒーローや警察たちも言葉を失った。苦戦していた相手を一瞬のうちに、それも一撃で倒してしまったからだ。


『お、お、お、お前! 今何をやったのだ⁉ も、もう一回やって! いや、取り込ませろ!』


 気付けばリーシアはそう叫んでいた。


『取り込ませろ……?』


 不可解な言葉に眉間に皺を寄せながら、「残念ながら、もう一回やるにも戦う相手がいないのでね」と、倒れた超人から離れてリーシアの目の前へと移動する。


『どうやって倒したのだ⁉ こいつの能力は超硬質化……皮膚が銃弾も通さないくらい硬くて、とんでもない怪力を持った化け物だったのじゃぞ⁉ ヒーローでも苦戦する相手をどうやって? そもそもどうやってあんな一瞬で移動したのじゃ!』


『そもそも、ヒーローでも倒せないっていう前提が間違っている。今までこの世界を支配してきたのはヒーローや魔法でもなくて、文明の利器、科学の遺産だ。ヒーローは確かに強いけど、相手によっては道具に頼った方が強いことだってあるってことさ』


『……な、何を言っておるのかわからんが、つまりお主は何か道具を使って倒したということだな? ヒーローでも苦戦する相手を倒してしまう道具……一体、どんな道具を使ったのだ?』


『……ただの応用だよ』


 興味津々に問いかけたリーシアに返ってきた言葉は、とても寂しさの感じられるものだった。超人を倒したことに対する喜びはそこになく、ただただむなしそうに、聞いてほしくなさそうな顔で。


『一瞬で移動したのは、転移装置を簡易化させたこのブレスレットの力だ。短距離ならどこでも一瞬で移動できる。こいつの皮膚を貫いたのも魔力を弾として撃ち放つことのできる魔力銃機のおかげ……発射時に実弾を加えることで威力を倍増させているから、こいつの硬い皮膚も貫けたわけさ。レールガンみたいなものだよ』


『一撃で倒せる威力って……ヤバ過ぎじゃろ!』


『一撃で倒せるわけないだろ? 急所を狙ったところでこの相手だとその硬い身体で止められるだろうし、そもそも殺すつもりもないからね。麻酔弾だよ。体内に撃ち込められれば眠らせることは容易だからね。でもそこの超人……思ったよりも薬の効きが悪いみたいだから、早くしないと……起きちゃうよ?』


 視線を向けると、言葉通り既に麻酔の効果が切れかけているのか、再び暴れまわろうと身体を動かしていた。慌てて周囲にいたヒーローたちが「確保!」と叫び声をあげて拘束に入る。


『す、凄いなお前……⁉ 何者だ? ヒーロー……じゃないよな?』


『ただの……科学者だよ』


 來栖は、魔力銃器を胸元にしまうとリーシアに背中を向ける。


『それと、何も凄くなんかないよ。僕が使ったのは既に発表されている偉大な研究成果の応用品……応用品なんだ。僕が作らなかったとしても……いずれ誰かが作っていた』


 そして、哀愁の漂う寂しげな背中をみせながら、來栖はそのまま、街の中へと消えていった。


 それが、リーシアと來栖の最初の出会いだった。


 自分が作った道具を試すだけ試して、その行動自体が虚しいと訴えるその背中にどんな言葉をかければいいのかわからず、その時はリーシアも何も言えなかった。


 だが、この時からリーシアは來栖という男に興味を抱いていた。自分にはないものを持っていると。


『探したぞ……なんちゃってヒーロー!』


 最初の出会いから、再びリーシアと來栖が出会うのはそれほど先のことではなかった。二週間後、來栖が暇を持て余して地上でコーヒーブレイクを楽しんでいた時だ。


 喫茶店のテラスで優雅にコーヒーを飲んでいると、対面の椅子にドカッと座って、以前見た姿とは異なる筋肉質で、ゴツゴツの岩肌に全身が覆われた女性が目の前に現れたのだ。


『わかっているぞ……ずばり、自信が欲しいのだろ? 自分じゃなければ作れなかったと言えるような凄い研究をしたいのじゃろう⁉』


『…………えーっと』


 あまりにも突然のことに、來栖は困惑した。まず飛び出した疑問が「誰?」だった。


 記憶力は悪くなく、むしろ良い。一度どこかで顔を合わせていたのなら記憶の片隅から必ず情報を掘り起こして照らし合わせられる。だが、記憶掘り起こしても掘り起こしても、目の前に現れた人物と一致する顔の持ち主が姿を現さない。


 茶色のロングヘアでパッチリとした目、藍色の瞳、独特な雰囲気のある巫女服のようなヒーロー衣装。つい最近、その特徴を抑えた人物と遭遇したが、同じ人物と呼ぶにはあまりにも見た目が違い過ぎた。少なくとも來栖が知っているのは、褐色の良い小麦色の肌をした、若くてきれいな女性だけ。


『まさかとは思うが……この前、歩道橋で出会った女の子かな?』


 外見は違ったが、もしかしての可能性にかけて來栖は恐る恐る尋ねる。


『お前……我が我だとわかるのか! 嘘だろ⁉ 我だとわかっちゃうのか⁉ 驚いたぞ! 我を我だと見抜くだと⁉』


『むしろ分かっていない前提で、さっきの台詞で話しかけてきた君に驚きなんだけど』


 わけがわからなかった。リーシアの言葉がではなく、リーシアという存在そのものが。


 何があってそんな姿になってしまったのか? そもそも本当に以前あった人物と同一人物なのか? 姿が変わっているのに気にせず話しかけてきているこの女性の神経はどうなっているのか? など、考えれば考えるほど疑問が浮かび上がった。


 逆にそれが、來栖には興味深く感じた。


『そもそも、僕は君の名前すら知らないんだけど? 』


『我はリーシア、リーシア・セルモンドじゃ。見た目は頻繁には変わるが……名前はしっかり覚えておくのじゃぞ?』

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