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LV999の村人  作者: 星月子猫
第七部
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掴みかけた安息-2

「それで? なんの話をしておったのだ來栖ぅ~? 我に話してみよ」


 するとリーシアは悪戯な笑みを浮かべて、來栖に纏わりつく。


「へばりつかないでくれないかい? そんなに僕の天才的な頭脳を吸収したいのかな?」


 しかし來栖は反応を示さず、テーブルに置いてあったコーヒーカップを手に持って一蹴した。


「そんなわけなかろう! 主はもうちょっと我を信じぬか!」


「君がいつ悪人の細胞を取りこんで悪い奴になっているかわからないからね。用心にこしたことはないだろう?」


「見境のない女みたいに言うでない。我が取りこむ相手はちゃんと厳選しておるわ! ていうか取りこんだからと言って人格も変わらぬわ!」


「見た目はすぐに変わるけどね」


「でも、お主はいつも我と見抜くしそんな心配いらぬじゃろう⁉ この前、我の服を着せた偽物を用意して騙してやろうと思ったのに、一瞬で見抜いたじゃないか」


「……においが、ね」


 嘲笑すると來栖は鼻をつまむ。リーシアは赤面して慌てると、「そんなバカな!」と自分の身体をまさぐり、必死にクンクンと嗅ぎ始めた。その行動が心底面白かったのか、來栖は腹を抱えてケタケタと笑い声をあげる。


「いやー、君は本当に面白いね。ピュアすぎるよ」


「だって來栖が臭いとか言うから!」


「僕は別に臭いなんて一言も言ってないよ? においとしか言っていないけど?」


「ぬぁぁぁああ來栖! また謀ったな!」


 笑い声をあげる來栖をリーシアはポカポカと叩き始める。次第にその威力は増していき、気付けば來栖の座っていた椅子は破壊され、來栖は地面へと叩きつけられていた。


「よぉーしそろそろやめてやれリーシア。せめて目を開けながら殴ってやれ」


「ん? ぬぁぁぁあ! すまん來栖! やりすぎておった!」


「いや、絶対わざとだよね?」


 ライアンが声をかけると、常に自身の能力に変化が起きているせいで力加減がわからなかったのか、リーシアは慌ててボロボロになった來栖を抱き起こす。


「止めなくてもよかったのに」


「折角のテラスが汚れるだろう?」


「それもそうだ」


 いつの間にかカップを片手にテーブルから離れていたセイジが皮肉な笑みを來栖へと向ける。どこか馬鹿にされているような気がしたが、來栖も今は大目に見ることにした。そう、今は。


「それで? お前はどうやってリーシアだって見抜いているんだ?」


「いくら骨格や肌の色、血液に流れる成分に変化が起きても。基本を構成している遺伝子の核に変化はない。じゃないと、リーシアの持つ他人の能力を自分に加える力が発動できなくなるからね。だから、その部分を見ればいいのさ」


 來栖の説明がよくわからず、三人は顔を見合わせて首を傾げる。


「……つまり、どれだけ他の能力を取り込んでも変わらない部分があるということさ。例えば瞳の色や、胸のサイズ、性別はもちろん変わらない。他にも色々と細かく見分けられる部分はあるよ。声帯にも変化はないし」


「なるほど! だからこの前、男の偽物を用意してもすぐにばれたのじゃな⁉」


 納得顔をみせるリーシアとは逆に、腑に落ちない顔でライアンとセイジは顔を見合わせた。さすがにそれだけで見抜くには無理があったからだ。


「いや、さすがに見分けられないだろう……瞳の色と胸って、同じ色の奴なんていくらでもいるだろうし、胸って、お前……胸って。そんないつも見てるのか?」


「いやライアン、そこはあまり重要じゃない。要は同じ構成の人物なんて他にいくらでもいるということだ。俺は見分けられたことがない」


「やれやれ……だからさっき他にも色々と細かく見分けられる部分があるって言っただろう? というよりライアン、君はリーシアに協力してもらって研究を進めてるんじゃなかったのかな? どうして気付けないの?」


 痛いところをつかれ、ライアンは苦い顔をみせる。


「いや、別に見た目を変えるとかの研究じゃねえし……そう、見た目の関係ない研究だからいいんだよ。リーシアの遺伝子を取り込んだあとに、自分の遺伝子に適合させる変化にしか興味がないんだ」


「ふーん……確か、クローン生成の研究だったっけ? 遺伝子を取り込む仕組みとクローンの生成が関係しているとは思えないけど?」


「ただのクローンならいらねえが、俺が研究しているのはコピーじゃねえ。本体そのものを作り出す次世代のクローンだ。成功すれば……そのクローンに意識を移しこんで若返ることだってできちまうんだぜ? 永遠を若いままで生きられるんだぜ? 最高だろ?」


 その問いに來栖は無表情で、セイジは乾いた笑みを浮かべながらライアンを一瞥する。


「生き続けるのが必ず幸せとは限らんぞライアン?」


「なんだセイジ? お前は興味ないのか?」


「ないね……限られた時間を有意義に使うからこそ人の一生には価値があるんだ。これまでも、そして……これからもな」


「そんなもんかねぇ」


「ええぃお主ら! 難しい話はやめんか! 折角の休憩時間なのにつまらん話ばっかりしよって」


 暫くは目を点にしながら三人の話を聞いていたリーシアも、退屈になったからか來栖の首を絞めながら頬を膨らませて怒った顔をみせた。理不尽に首を絞められた來栖が「……何故?」と二人に視線で助けを求めるが、二人はまるで動こうとしない。


「で、結局……來栖は何の話をしておったのだ? 我は來栖の話が聞きたいのだ!」


「な……ら、首を……絞め……るな」


 しかし、今度はわざと首を絞めているのか、リーシアは嬉しそうに笑みを浮かべたまま離そうとはしなかった。


「いつも思うが、随分と來栖を気に入ってるんだな?」


 そんな光景を前に、ライアンが來栖を憐みながら問いかける。


「うむ! 來栖はどれだけ見た目が変わってもいつも我と見抜くからな! それだけじゃないぞ? 我がヒーロー活動するのに役立つ道具を作ってくれたりするのじゃ!」


「お前……ろくに研究せずに何をやっているかと思ったら、そんなことをやっていたのか? お前の本職はヒーロー活動のサポートじゃないぞ?」


「わかっているさ、心配しなくてもただの暇潰しだよ……次にやりたいことを見つけるまでのね。正直今の時代。僕が研究しなくても他の誰かが見つけられるようなことばかりだし」


 ようやく解放されて呼吸を整えながら、來栖がつまらなさそうに吐き捨てる。


「ほぅ? そんなこと言うなら俺が作っている仮想世界のシステムを先に作ってみるか?」


「無理だね。分野が違うし……そもそも興味がない。ライアンのも同じさ、僕は永遠の命に興味がないんでね。そうだな……次は君たちでもリーシアがリーシアだとわかる装置でも作ろうかな」

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