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LV999の村人  作者: 星月子猫
第六部
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それが、僕の答え-6

「戦力はどうなんだ? まさかこの千年の間……何もしてなかったわけじゃないだろうな?」


「誰に向かって言っている? 俺が生み出したアースクリア出身の冒険者たちは全員、クラスチェンジを済ませてある……数は多くないが、精鋭中の精鋭だ。数なんざ、このあとアースクリアの住人に呼びかけていくらでも補充できるからな」


 來栖の問いかけにセイジは一笑すると、そのまま目的地へと向かって歩き続ける。


 暫くして、ランドマークとなっていた大きな木の下に、地下施設エデンの入り口と思われる、妙に仰々しい旧文明の機械で作られたシャッターが見え始めた。


 そこには、ディルベルトを筆頭に、クラスチェンジを済ませたであろうアースクリア出身の冒険者たちが数十人規模で待ち構えていた。


「全員は外には出せないからな、とりあえず地下施設の中に、あと数百人は控えている」


「数百人……? それっぽっちで何ができるんだい? 数はいくらいても足りないんだけど? 全く……やはり異種族の開発を進めていて正解だったよ」


「無能がいくら集まっても仕方がないと思うがな」


「言うじゃないか? 言っておくけど、こっちは数だけじゃなくて今回の戦いのキーマンになるであろう鏡君もいるからね? 彼は僕の施設で生み出された人物だから」


「おーおー! すぐに喧嘩腰になるのやめろ!」


 油断すればすぐに取っ組み合いになりそうな二人に、ライアンは「ったく……お前ら一体何歳だ? 千何歳だ⁉ この糞ジジイ共!」と激怒し、神経をすり減らす。


「そういうライアン……お前はどれくらいの戦力を蓄えたんだ?」


「俺はロイド筆頭に、レベル200を超える優秀な冒険者たちが一万人ちょいだ」


「充分だな。いまいちパッとしない來栖より遥かに良い」


「パッとしないのは君じゃないか? クラスチェンジをしたからって、劇的に何かが変わるわけじゃないだろう? 元々あった力が軽く伸びるだけじゃないか? それにクラスチェンジは鏡君も既に終えていた……時間さえあれば君が気付かなくても、僕が気付いて成果にしていたよ」


「あぁ⁉ なんだお前ごら⁉」


「へぇ……久しぶりにやるかい⁉」


 最早止めるのもめんどくさくなったのか、ライアンは「もういいよ」と呟くと、鏡たちにディルベルトたちの前へと移動するように促す。


 そして今ここに、鏡を筆頭にヘキサルドリア王国、ロイドを筆頭にフォルティニア王国、ディルベルトを筆頭にグリドニア王国、それぞれの最大戦力が結集した。


「目的は一つだ……世界を……救うぞ?」


 この場にいる三ヵ国の者たちの魂をたぎらせるようにライアンは語り掛ける。呼応するように一同は頷きあうと、友好を示すためにそれぞれが手を交わしあった。


「ま……とりあえず、外で立ち話もなんだ? 中に入れてもらっていいかセイジ?」


 來栖とセイジの二人がお互いの襟を掴みかかったと同時に、ライアンはそう声をかける。


「……ライアンがうるさいからな、お前との決着は、もう少しだけ先延ばしにしておいてやる」


「それは僕の台詞だ。まあ千年も待ったんだ。もう少しくらい我慢してあげるよ」


 数秒間、二人は無言のまま睨み合ったあとほぼ同時に手を放し、來栖はライアンの傍へと、セイジはエデンの入り口のあるシャッターへと向かう。


「ついてこい……中を案内する」


 そしてそのまま、セイジは中へと入り、残った一同もその後に続いた。


「あのままやり合って、來栖が致命傷を負えば某にとっても好都合だったものを……」


 エデン内の薄暗い通路を歩きながら、ふと朧丸が鏡の頭上で舌打ちを漏らす。


「お前ってやっぱり結構腹黒いよな……頼むから全部終わるまでは変な気を起こさないでくれよ」


 頭上の危険物な生物に冷や汗を垂らしながら、鏡はセイジたちの後を追って通路内を突き進む。


 通路内は、まるで古の洞窟のようだった。光る文様が大理石で作られた壁を照らし、それが通路のずっと奥にまで続いている。移動する途中、何度も分岐点があり、エデン内部は迷路のような作りになっていた。


 右に曲がり、左に曲がり、真っ直ぐ突き進んだと思ったら、また右に曲がる。それは、セイジの後ろを歩く者たちにもその仕組みにすぐに気付けるくらいに複雑な、決められたルートを辿らなければ、目的の場所にまで辿り着けない侵入者除けの構造だった。


「いや、ていうかなんでモンスターまで出てくるんだよ!」


 そして何度かモンスターにも遭遇し、遂に耐えきれなくなった鏡がセイジにツッコミを入れる。


「ピーピーうるさい奴だな。モンスターは勝手に外から入り込んできたのがそのまま残っているだけだ。俺が配置させたわけじゃない」


「配置させたわけじゃないって……侵入者除けのためにいるんじゃないのか?」


「いいや? 地下施設は元々、人類がデミスの脅威から身を守るために作られた施設だ。だが、シェルターというのは一度閉じてしまうと、中に誰も入れなくなってしまう。故に、この地下施設は逃げ遅れた者が後からやってきても入れるようにしていたんだ。迷路のような構造になっているのは確かに、デミスの分離帯が目的地に辿り着かないようにするためだがな」


「ああ……そういうことか、この模様が導いてくれるってことな?」


 鏡の質問に、セイジは頷いて答える。壁の模様はある一定の規則に従って描かれていた。それは、伝説の聖剣が眠っていた古の洞窟のような複雑な模様でなはく、少し考えればわかるようなものだった。


「それだけ当時は、一人一人に構っている余裕がなかったんだ。この迷路だけじゃないぞ? デミスは人間の反応を拾って追ってくるからな、この迷路を終えて次の場所に転送されても、次の迷路が待っている。まあ次の迷路にはモンスターが入り込む余地はないから安心していい。危険なのはこの階層だけだ」


「なんで放置したままなんだ? 外に出る時一々不便じゃないのか?」


「ん? 外に出る必要なんてなかったからな? どうしてわざわざ危険な外に出る必要がある? 地下でも充分自給自足ができるようにしてあるんだ。人口管理さえしていれば外に出る必要性なんて普通はないはずだがな……まあ、來栖はわけのわからんことをしていたみたいだが?」


 その一言で、再び來栖の眉間に皺が寄る。


「まあ確かに外に出る必要はないな。俺のところも一応出れるようにはしてあるが、出る必要性は基本的にないから施設にいつも籠っているし」


「なんだい? ライアンもセイジに味方して、僕をいじめるのかい?」


「イジメるってお前、何歳だ? 千何歳だおい?」


 言葉では邪険に扱っているが、今まで見たことのないくらいに変化する來栖とライアンの表情に、それぞれをよく知っている油機とフローネは目を丸くする。


 セイジと來栖は一々相手を挑発するような言い方をするが、それでも変に激怒しないあたり、妙な絆を感じられたからだ。


 そんな三人の様子を見て、鏡はふと疑問を抱く。


「あんたらって昔からの知り合いなんだよな? 昔は……一体なにしてたんだ? ていうか、デミスとかいろいろ話聞いたけど、あんたたちの話って全然聞いたことなかったよな」


「確かに興味はありますね、ライアン様の過去の話なんて、僕も聞いたことありませんから」


 興味があるのか、ロイドも賛同して手を上げる。


「大した話じゃねえぞ? デミスに関係している大事な話は既にしてるしな」


 しかし、過去話をするのが気乗りしないのか、ライアンは渋い顔を見せた。


「ボクも興味あるな。來栖さんたち三人の話だけじゃなくて、デミスに襲われる前は、この世界はどんな世界だったのかとかさ」


 そこで、渋い顔を見せるライアンに喰い下がり、アリスが目を輝かせながら問いかける。


 すると、別に話したくないわけでもなかったからか、観念してライアンはため息を吐くと、「俺より來栖の方がそういう話はうまい」と強引になすりつけた。


「別にかまわないよ。今更、隠すことなんて何もないからね。退屈しのぎに施設内に辿り着くまでの間、話してあげるよ……昔の話をね」


 不敵な笑みを浮かべながら、気乗りした來栖は昔の話を語り始める。


 その話に、その場にいるセイジとライアンを除くほぼ全員が興味あったのか、耳を傾けた。


 話はそう、千年前。デミスがこの世界に現れる直前にまで遡る。

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「いいや? 地下施設は元々、人類がデミスの脅威から身を守るために作られた施設だ。だが、シェルターというのは一度閉じてしまうと、中に誰も入れなくなってしまう。故に、この地下施設は逃げ遅れた者が後からやっ…
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