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LV999の村人  作者: 星月子猫
第六部
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第二十八章 それが、僕の答え

「フラウ様……走ってください! このままでは追いつかれてしまいます!」


 魔王の居城かのように薄暗く、不気味な雰囲気の漂う大理石で作られた広大な廊下、そんな先の見えない闇が続く場所を、レックスとフラウの二人は駆けていく。


「いやいや! 妾はお主のようにそんな早く走れぬ! 倒すか……おぶるかしてくれ!」


「く……僕では恐らくあれにはまだ! せめて一体だけならば!」


 二人は現在、一体の巨大なドラゴンに追われていた。その全長はダークドラゴンの本来の姿に及ぶほどに大きく、試しにレックスは剣撃を一度放って勝てる見込みがあるか試したがダメージは通らず、フラウの身を守らなければならないという使命感も働いて逃げる選択を取っていた。


「はぁ……はぁ……しかし、これは一体どこに向かえばいいんだ? 終わりが見えない……このダンジョンのモンスターの異常な強さから、恐らく突破すればクラスチェンジが完了するのだろうが」


「レックスでも強いとなると……妾は絶望的ではないか! 本当に大丈夫なのかこれは⁉ くそ……あのセイジとかいううさんくさいオッサンめが、何が肉体的ではなく精神的な問題が試されるだ! 全力で肉体的な試練ではないか」


「……ですね」


 息を乱しながらも必死に逃走を図り、途中にあった通路の物陰に隠れてドラゴンが通り過ぎるのを二人はジッと堪えて待つ。


「いや……駄目だ。そうじゃない。優先するべきは違うはずだ」


「いや……よせレックス……! 主では敵わんかったじゃろう⁉」


 しかし、それでは何の試練にもなっていないと、レックスは物陰から飛び出そうとするがフラウがマントをガッと掴んで制止させた。


「離してください……フラウ様!」


「何を急いておる……! お主はもっと合理的に物事を考え行動できる冷静な男じゃっただろうが……! 無理なら無理、行けるなら行くとな! この試練とやらが一体いつ終わるかもわからんのに、勝てそうにないモンスターまでも相手にしておったら身がもたんぞ!」


「合理的……? 冷静……?」


 かつての自分を聞いて呆れ果てたのか、レックスは嘲笑する。それは合理的ではなく、ただ逃げていただけ。まるで甘い汁をすするダニのように、自分にとって良い結果しか持たらさないのであれば、労力を払おうともしなかっただけだった。


 冷静なのではなく、冷めているだけ。魂の熱さなんて何もなくて、助けを求めている者たちが目の前に現れたところでどう考えても助けられず、自分にとって得がないのであれば動こうともしない冷血漢。


 かつて、一万人のモンスターの軍勢を前にして最初は逃げることを選択したように。


 かつて、鏡と対峙した時、口八丁で戦おうともせず、いつの間にか対話で何とかしようとしていたように。


「それでは……駄目なんですよ。僕は、僕のまま変われない。師匠を目指そうと思ったのは、師匠を師匠と呼ぶようになったのは……ビクビクと勝てない相手を前に守ってもらうためじゃない!」


 意を決したように、レックスは物陰から飛び出してドラゴンの前へと躍り出る。そしてすぐさま「こっちだ……かかってこい!」と剣を構えた。


 レックスの行動に、通路奥へと過ぎ去ろうとしていたドラゴンが立ち止まり、振り返って大きく咆哮をあげると、すぐさまレックスに向かって突進を仕掛けていた。


 その行動は、無謀だった。


 ドラゴンはレックスが一度戦って感じ取ったように、レックスよりも遥かに上の実力を持っていた。レックスで勝とうと思えば、それなりの作戦と工夫が必要な相手。


 しかし、レックスには何の策もなく、それはとても勇者が持つ勇気とは言い難い行動だった。


「がぁ⁉ …………こはっ⁉」


「レックス!」


 ドラゴンの尻尾による薙ぎ払いにより、レックスは壁へと叩きつけられる。レックスが持つ剣技、真・剛天地白雷砲でさえドラゴンの硬い竜鱗の前には軽い傷をつけるだけで、やはり手も足も出なかった。


「まだだ……! まだ!」


 剣を地面へと突き立てて立ち上がり、口から血反吐を吐き捨てドラゴンを睨みつけると、レックスは再び真・剛天地白雷砲の構えをとる。そして今度は、蓄積したダメージ攻撃に上乗せることができるスキル「リベンジ」を使って撃ち放つ。


 すると今度は竜鱗を貫いて尻尾を切断し、そのまま胴体部分にまで斬撃が及んで深い傷跡を残した。その瞬間を見逃さず、レックスは一気に攻撃を畳みかけた。


「うぉおおおおおおおおおおお!」


 切断した尻尾の断面を斬りつけ、そのまま流れるように跳びあがってドラゴンの胴体の傷口に、至近距離で真・剛天地白雷砲を打ち込む。


 すると耐えきれなかったのか、ドラゴンは悲痛な叫び声をあげて勢いよく地面に伏し、そのまま動かなくなった。


「む、無茶しよって!」


 戦闘が終わり、その場で膝を崩して剣を地面に突き立てたレックスの姿を見るや、フラウが物陰から慌てて飛び出して、レックスが負った傷の手当を回復魔法で行い始める。


「最初からそんなに全力でどうする⁉ 試練はまだまだ続くかもしれないのじゃぞ⁉」


「その時は……その時です。僕にそれだけの器がなかっただけの話……それじゃあ結局、意味なんてありません」


「愚かな……主はそんな男ではなかったであろう。本当に掴まなければならぬものを掴むために、最善を尽くせる男だったはずじゃ」


「ではフラウ様に聞きますが……この場合の最善とは?」


「む……と、とにかく生き永らえて、通路の奥に進んでじゃな。クラスチェンジを果たすのじゃ! それが先決であろう⁉」


「自分では勝てないと思えるような相手を前に必死に逃げ続けて、いつ辿り着くかもわからない通路の奥を目指して突き進み続けるんですか? 無様に、敵が出るたびに逃げ出して?」


「そ、そうするしかないじゃろう。今の戦闘でわかったとは思うが……たった一度の戦いの消耗が激しすぎる」


 既にボロボロな状態となったレックスに回復魔法を掛けながら、フラウは視線を逸らして呟く。真っ直ぐに見つめてくるレックスのせいで、何故か自分が間違ったことを言っているように思えてしまったからだ。

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