脇役なんて言わせない-6 クルル&パルナ ペア
「クーちゃん……大丈夫?」
「大丈夫です……でも、まさかこんなに大量のモンスターと戦う試練だと思いませんでした」
「あたしもよ……疲れるのなんのって、というか……これいつ終わるの?」
「わかりません……あとどれくらい倒せば終わるのかも。もしかしたら……ただ倒すだけでは駄目なのかもしれません」
クルルとパルナが降り立った場所はドーム状の広い空間だった。ダークドラゴンが住まう地下深くの部屋と同じく、火がないのにも関わらず明るく照らされていた。
出口はなく、部屋の隅から次々と現れるモンスターを相手に、二人はずっと戦い続けていた。
「ただ倒すだけじゃダメって言われても……ね」
目の前にまで飛び掛かってきたブルーデビルをパルナは凍てつく氷の刃を放つ魔法で切り落とす。出現するモンスターは苦戦するほどの相手ではなく、優に倒すことの出来る相手ばかりだった。しかし、その数は多い。
「なんもないわよここ? 完璧に密閉された空間だもの」
どこかに脱出できる場所はないかとパルナは辺りを見渡すが、何もなく、すぐに意識を近くにまで接近しているモンスターへと戻した。
「私たち自身が何かを自覚しないと駄目だとか……そういうことでしょうか?」
「さあ……わかんないけど。どうやらまーた次が来たみたいよ」
モンスターは、倒せばすぐに次が生成される。倒さずに放置すれば新たに生成はされなかったが、常に襲われることになるため、結局倒すのが最も賢い選択と言えた。
だが、そこで悩みが生じる。今は弱いモンスターであっても、倒すことによって生成されるモンスターが強くなってしまうのであればと、目の前に現れた見知った存在を目の当たりにして。
「鏡さん……? それだけじゃない……敵が……モンスターじゃ、ない?」
「魔族とか普通の一般人とか……それと、チラホラと見覚えのある嫌なのがいるわね」
そこにいたのは、本人とは思えない醜悪な笑みを浮かべる鏡、アリス、無害に見える村人、魔獣ベルセルクと言ったような人、魔族、モンスターが混在する部隊だった。
「なるほど……これが試練というわけですか? どんな相手でも戦えるかどうか……そんなところでしょうか? いいでしょう……正直鏡さんに勝てる気はしませんが、所詮は偽物。受けてたちます!」
しかし、クルルは動じずに立ち向かおうとする。パルナも少し引きつった顔を見せるが、クルルに続いて構えをとった。引きつった顔を見せたのも、敵の中にパルナがかつて愛した人物、自分が唯一師匠と呼んだ相手だったからだ。
「さっさと乗り越えろってこと? 馬鹿にしてんじゃないわよ……とっくの昔に腹は括ってるのよ……今更現れたところで動じると思ったのかしら⁉」
言葉では強がりながらも、パルナは躊躇して無意識の内に一歩背後へと下がる。だがすぐに意を決したのか手元に魔力を籠めた。
「クーちゃん合わせなさい!」
「はい!」
まずは、強敵の中に混在している雑魚を処理する。二人ともその考えにいきついたのか、言葉を交わさずとも同時に広域殲滅魔法の詠唱を始めた。
「「はぁぁぁぁああああああああ!」」
激しい氷雨と雷風の嵐が二人の周囲に展開される。
それにより、一部のモンスターや村人は一瞬にして消し飛び、鏡を含める一部の強敵たちも深手を負った。しかし、魔法に対する耐性の強い魔族は躊躇なく二人へと接近し、一斉にパルナとクルルの二人に飛び掛かった。
「っく!」
すかさずパルナは氷で作られた槍を複数生成して撃ち飛ばし、接近していた魔族の数名を背後へと突き飛ばすが、どうしても攻撃を向けられなかった一体に目の前までの接近を許してしまう。
「……アリス」
アリスには似ても似つかない邪悪な笑みを浮かべるそれは、パルナの首を鷲掴んだ。
「く……こんの!」
アリスの姿に気を緩めていたが、アリスとは思えない力強さにパルナはすぐさま正気に戻って振り払おうと手元に魔力を籠め始める。だが、そのまま爆破魔法で後方へと吹き飛ばそうとした瞬間、パルナは再びその手を止めた。
そこにいたアリスは、かつてパルナがヘキサルドリア王国の王城で鏡たちと対峙した時、アリスが無慈悲にも攻撃を仕掛けた自分に向けてきた、邪気のない笑顔だったからだ。
「パルナさん!」
クルルの呼び声でハッと正気に戻ると共に、横から撃ち放たれた雷の槍によってアリスは吹き飛ばされ、ドーム状の部屋の壁へと叩きつけられる。
そのまま煙を噴き上げて消えたアリスを見て、パルナは力なくその場にへたり込んでしまう。
「しっかりしてください……これは幻影が相手です!」
「わかってる……わかってるわよ。ったく、クーちゃんも強くなったもんだわ!」
「今では私の方が高レベルですからね……役割も賢者なので、リードはお任せください」
「そりゃ頼りになるけど……あんたはいいの? 躊躇しなくて」
「幻影は幻影です。心の中でハッキリと区切りをつけてしまえば、恐れるものなんてありません。大事なのは、この試練を乗り越えることですから」
「……わかってはいるんだけど……私にはちょっと……難しいかも」
強敵を倒してくれたにも関わらず、パルナは弱音を吐いてしまう。というのも、たった今倒したばかりなのにも関わらず、アリスが再び出現したからだった。
「見た目は鏡さんやアリスさんですが……能力は見た目通りではありません。魔獣ベルセルクも、さっきの広域殲滅魔法で倒れていましたし……見た目だけです! 乗り切りましょう!」
「その……見た目が駄目なのよね。わかってはいても、それでも……」
パルナにとって、たとえ同じ見た目でも殺すということは、自分の中で固く誓った決意を崩すような気がした。それだけじゃなく、単純に嫌だった。もう同じ過ちは犯したくないという自分への戒めだったから。
だが、パルナはその恐怖からただ逃げているということに気付いていない。そしてクルルは、本当に倒さなければいけない敵の存在に気付いていない。大切なのは見極めること、それに気付くことができるのか、二人の試練は力尽きるまで続く。
要望があったので、この章が終わったときに、登場人物の現段階のステータス一覧ページを作成します




