脇役なんて言わせない-3
「お前……覚醒までしていたのか、いや……むしろそれだけの力があって覚醒もしていなかったら変か。うん、普通だな。そう……普通だ」
「覚醒って何なの? そういえば、鏡さんもこの力は突然現れてたよね?」
「俺の限界を超えて強くなれる力の延長線上にある力だと思ってたけど……違うのか? ガーディアンの連中と戦ってた時に目覚めた力だけど……なんだこれ」
「アースクリアじゃなくてアースで覚醒したのか? 普通……成長の止まるアースでは絶対に覚醒など出来ないはずなのに……やはりお前はとんでもないな」
油機と同じく気になるのか、他のスキルに影響を及ぼすという特殊性のある突然目覚めた力の正体を鏡は首を傾げながら問いかける。
「覚醒とは、人間一人一人がそれぞれに持っている隠された潜在能力の解放のことだ。ある条件下、それもアースクリアの身体の成長を促せる環境でなければ普通……覚醒はできない。それを外で、それも自力でやってしまうお前は化物だ。異常なんだ」
「さっきからとんでもないとか化け物とか異常だとか人間じゃないみたいに言うの、そろそろやめません? 俺泣きそうなんだけど」
普通はありえないことを、さも当たり前のように口にする鏡にセイジは念を押して「お前は変だ」と指を突きつける。
「覚醒するとどうなるのですか?」
そこで、スキルや魔法とはまた異なる力、覚醒にどんな恩恵があるのかフローネが問いかけた。
「それは覚醒しないとわからないが……その力は役割に大きく影響する」
「役割に……ですか? そういえばクラスチェンジとも言っていましたね」
「覚醒はスキルのような特殊な力が身につくものではない、そもそもその者が持っている何かが飛躍的に上昇するのが覚醒だ。故に、そもそもの素質……役割による影響が大きいんだ」
言われて、一同は変化前の状態を覚えておこうと、既に覚醒できることを前提にして次々に自分のステータスウィンドウを開いて自分の現状を確かめる。その時何故か、鏡だけ「ん?」と眉間に皺を寄せてステータスウィンドウ睨みつけた。
「役割とは、システムとしてその者の才能を示したものだ。武闘家であれば近接戦闘における筋肉の伸びしろが大きく、僧侶であれば回復魔法による治癒力が高いといったようにな。そしてその才能に眠る潜在能力を解放し、より際立たせるのが覚醒……その影響を受けて最初に振られた役割から更に一部に特化した性能に変化するため、俺はクラスチェンジと呼んでいる」
「あー……だからか、俺の役割の名称が……変わってるの」
そこで、納得したのかステータスウィンドウを睨みつけてた鏡は顔を和らげる。その鏡の言葉に興味を示したのか、ぞろぞろと皆が鏡の周りへと集まり始める。
「覚醒したものは普通の者よりも上位に位置するため、更にどのような力が覚醒し、特化したのか役割の名称でわかりやすくするために、役割が変わるようにシステムを変更して俺が管轄するこの国だけに反映している。グリドニア王国に来たことで、俺が開発したシステムの影響を受けてお前の役割も変化したんだろう」
それを聞いて、一同は「どんな風に変化したの?」と鏡のステータスウィンドウを覗き込む。鏡のプロフィールを表示させるステータスウィンドウには、こう書かれてあった。
名前:鏡 浩二
レベル:999
役割:LV999の村人
「すごい……そのまんまの変化ですね」
結局村人には変わりのない名称の変化に、ティナが若干かわいそうな人を見るような目で鏡の背中をポンポンっと叩く。
「村人がレベル999ですよってだけの役割じゃんこれ、どういうことなの?」
対する鏡も、当然ながらショックを受けていた。
「村人はそもそも才能がないからつけられる役割だからな……才能がないのにとんでもないからシステムが強引に凄さを強調する表現としてその名称をつけたのだろう。一応だが鏡……お前は一体、覚醒でどんな力を得たんだ?」
「元々あったスキルが全部パワーアップした」
何食わぬ吐かれたとんでもない強化に、セイジは「……変態か?」と、更に鏡の認識を人外へと設定する。対する鏡は、面と向かって暴言を吐かれ、少しだけ落ち込んでいた。
「変態まで追加されちゃった。もう化物で、異常で、変態って……俺は一体何者なんだ」
「大丈夫です。鏡さんがどれだけ人間扱いされなくなっても、私が傍にいますので」
「ボクも! ボクもいるから大丈夫だからね!」
そんな鏡にすかさずクルルとアリスが慰めの声をかける。
「私であれば王族の権限で鏡さんを悪く言うものを処罰できます。アリスちゃん……あなたに何が出来るんですか?」
「ず、ずるいよまたそうやって! ぼ、ボクだって鏡さんを化物扱いする魔族がいたらボクの魔王の娘って権限で……そう! ボクも一応魔族の姫だから! ボクの権限で魔族を黙らせる!」
「話を戻していいか?」
事あるごとに話を脱線させようとする一同に困り果てた顔をセイジが浮かべると、もれなくタカコとパルナが二人を押さえつけて申し訳なさそうに「どうぞ」と促した。
「変態とはいったが、スキルを複数持っているお前に相性が良い力の目覚め方というだけで、覚醒によるその恩恵は珍しくはない。ディルベルトも似たようなものだからな」
「そういえばさっき、エクゾチックフルバーストの力が覚醒で伸びたって言ってましたね。ディルベルトさんはどんな風に役割の名称が変化したんですか?」
「私は王だからね……王は任命されることで与えられる役割だから変化はない。だが、私の願いでセイジ様に『美王』と変えてもらった」
「ああ……そうですか」
聞かなければよかったと、ティナが苦い顔を浮かべる。
「話を戻そう。仮にお前たちがデミスと戦うというのであれば……覚醒してみせろ。言っておくが覚醒のための試練は容易ではない、だが……残された時間も少ない。お前たちが覚醒することで証明してみせろ……人類の可能性を」
セイジがそう言ってくると既に予想していたのか、一同は真剣な顔つきに変わると当然のごとく頷いた。




