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LV999の村人  作者: 星月子猫
第六部
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脇役なんて言わせない-2

「……守りにおいてはこれ以上ないスキルだろう。どんな巨大な威力でも、必ず百分の一に抑えることが出来るんだからな」


 その時、鏡はタカコたちがアースに訪れてまだ間もない頃、当時、小型のメシアと呼称していた旧文明の兵器、ラストスタンドと戦った時のことを脳裏に思い浮かべた。


「かつて……この力をもった超人のおかげで、超人たちは長きに渡って戦うことができた。この力を持った超人が地に伏してからは早かったぞ? すぐに皆、後を追ったからな」


 それは、自分たちよりも圧倒的な力を持ち、一発でも当たれば本来死に至るであろうラストスタンドたちによる攻撃の雨を、ティナを背中に乗せたタカコが攻撃をもらうことなどお構いなしに戦地を駆け抜け、防御力無視のその拳でラストスタンドを破壊しまくったというただ無双していただけの光景。


 自分たちがラストスタンド一体を倒すのに苦労している間、もうタカコとティナだけで良いと思えるくらいに次々に破壊していった恐ろしすぎる戦いの記憶。


「なんだ。さっきからどうしてそこの緑髪の僧侶の背中を全員で押すという奇行に走っている?」


 気付けば鏡は、ティナの背中を押してセイジの前へと押し出そうとしていた。ティナは嫌な予感がしたのか、必死で抵抗に走る。しかし、鏡を手助けるようにして次々にパルナ、アリス、クルル、レックスがぐいぐいとティナの背中を押した。


「お待ちどう様です」


 そして鏡から放たれる、セイジにとっては意味不明な一言。


「なんだ? どういう意味だ?」


「彼女のスキルが……それということですよ」


 セイジの問いかけにフローネが答えると、セイジは再び呆けた顔になって数秒固まった。


「ば……馬鹿な。どんな奇跡だそれは⁉」


 あまりにも重なりすぎた偶然に、セイジは無意識に勢いよくティナの肩を掴む。


「私に言われても…………いや、でも無理でしょう⁉ 私のこの力の範囲は狭いですし! 何より私は鏡さんのような時間の感覚をコントロールする力なんてもっていないですし! あとこの力、あまりにもしんどすぎてせいぜい十分の発動が関の山ですし!」


「時間の感覚については問題ない。スキルの多くは、触れることで他者にも影響を及ぼすことが可能だ。無論、それを操る者も精密な力の操作が必要になるが……鏡の身体に常に密着していれば、影響を受けて……ティナと言ったか? お前もエクゾチックフルバーストの恩恵を得られるはずだ! スキル発動による体力の消耗もさっき言った通り、数秒程度で済む!」


「密着って…………え? 密着ですか?」


「そうだ! 背中にへばりついておくのが一番効率的だな。難点は、戦いのとき鏡の力に振り落とされないようにしなければいけないということと、鏡も振り落としてしまわないように力を抑えなければいけないというところか。だが、デミスが発動を終えれば連発は難しい…………その時をジッと待って攻め入ることができればもしくは」


 可能性を見出したのか、セイジはそれだけ伝えるとぶつぶつと一人で思考を巡らせ始める。そのまま置いてけぼりされたティナがポケーとセイジの考えがまとまるのを待っていると、背後から突然クルルとアリスの二人が何やら思い詰めた表情でティナの肩をポンッと叩いた。


「この作戦は駄目ですね……皆さん。諦めましょう」


「うん、ボクも駄目だと思う」


「いやいやいやいや、意味がわからんぞお前ら」


 折角活路を見出したのに、早々に諦めることを推奨する二人に思わずメリーがツッコミを入れる。


「わかってないのはお主じゃぞ? 吊り橋効果というのがあるからのぉ……命をかけた戦場で男女がピッタリとくっつき合うなんて何が起きるかわからないぞぉ? 乙女二人にとっては大ピンチというわけじゃな!」


「フラウ様……何を言っているのか全然わからないのですが」


 メリーとは逆に、「わかる、わかるぞぉ!」と納得顔でうんうんと頷くフラウに、レックスが本当に意味が分からないのか困惑した表情を浮かべる。


「まあ、あんたはチクビボーイだからわからないのも仕方がないわね」


「チクビボーイは今関係なくないか? そしてその名で呼ぶな」


 パルナがにやけ顔でレックスをからかったその時、既に考えがまとまっていたのかセイジが咳払いをして注意を引き付けた。


「やはり……現状では駄目だと言わざるをえない」


 そして、セイジは出した結論を伝える。


「私のスキルの……効果範囲が狭いからですか?」


「いや……効果範囲は伸ばすことが出来る。少なくとも遥か昔に戦ったその力をもつ超人は広範囲にその力を与えていた。お前……そのスキルを覚えてから間もないか……使用時のあまりの辛さにほとんど発動したことがないんじゃないか?」


 図星なのか、ティナはウッと苦虫を潰したような顔を浮かべる。


「じゃあなんだよ? 俺たちに何が足りないんだ?」


 それならばあと何を用意すれば納得するのか、それを聞くべく鏡がセイジに問いかける。するとセイジは「全体的な戦力さ」と、ハッキリと答え返した。


「強いのは鏡……お前だけだ。つまり戦力の問題さ……やはりそれでも、デミスを倒すための戦力が足りなさすぎる。ティナが広範囲へとスキルを展開できるだけの力がないようにな」


「でも、かつての超人たちに比べて……私たちは身体能力の高さがあるんじゃないの?」


 そう言いながらタカコは握りこぶしを作り上げる。その肉体を見たあとでもセイジは動じることなく、目を瞑って淡々と言葉を続ける。


「そのかつての超人たちが戦った時よりもデミスは強くなっているんだ。それに、過去の戦いも身体能力が低いから負けたというわけじゃない。そして、身体能力の高さと言ってもそれはまばらだ。高い者もいれば低い者もいる。そこにいるロイドくらいに高ければ確かに充分と言えるだろうが、他にもかつての超人たちを超える要素が必要だ」


 だが、絶望的ではないと思えるセイジの余裕のある表情に鏡は察すると、先程、セイジが「現状では駄目」と言っていたことを思い出す。


「まだ……方法があるんだろ?」


 そして問いかけると、セイジはゆっくりと頷いた。


「もしかして……さっきディルベルトさんが言ってたクラスチェンジ……覚醒のことですか?」


「ほう……気付いたか。そうだ。覚醒……クラスチェンジのことだ」


 フローネの言葉通りだったのか、話が早いとセイジは不敵な笑みを浮かべる。


「それって鏡さんの持ってたスキルですよね?」


「……え?」


 しかし次に吐かれたティナの何気ない一言で、セイジは再び間の抜けた顔を浮かべた。

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