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LV999の村人  作者: 星月子猫
第六部
324/441

なりたいではなく、ならねばいけない時-10

「時間……制御?」


 あまりにも突拍子のなさすぎる力の正体に、ロイドが訝しく言葉を繰り返す。


「ありえません! そんなの世界の物理的な法則を操るような力……!」


 フローネも、そんな力がありえるはずがないと、声を荒らげてセイジに再確認した。


「正式には、世界の時間の流れに干渉するスキルじゃない。自分の時間の流れだけを変化させるだけのスキルだ。そうだな……超速思考と呼んでもいい」


「超速思考……ですか?」


「そうだ……お前たちにとっての一秒、それを変化させる。たとえばだが、お前たちの目の前に猿でもわかるような単純な数式問題を百個表示させて、一秒で全て解けと言われたら解けるか?」


「いくら猿でもわかるとはいえ、一秒では不可能かと……まずは問題を読む必要がありますから」


「なら十分ではどうだ?」


「十分もあれば……私なら解けるかもしれません」


 知力に自信があるのか、フローネはハッキリとそう答える。


「超速思考とはそういうことだ。十分かけて本来解けるものを、僅か一秒で全て読み解き、答えを導き出す力……それが、ディルベルトが使っているスキルの正体だ」


「いまいちわからないぞ? つまりどういうことだ? 頭が猛烈に良くなるということか?」


 しかしそれだけではいまいち理解できなかったのか、メリーが首を傾げて問いかける。しかし他の者たちには理解できたのか、信じられないといった表情で狼狽えた。


「メリーちゃん……今の理解できないのヤバいよ」


「んな⁉ 馬鹿にするなよ? なんとなくわかったけど、もっとハッキリ教えろって言ってるだけだ!」


 そんなメリーを小馬鹿にして、油機がぼそぼそと耳打ちしてどういうことなのかを教えようとする。


「ならハッキリと教えてやる。ディルベルトは今……一秒を我々の体感速度でいうところの二十秒として行動を可能にしているということだ」


 蓋を開けてみれば、獣牙族のように感覚を鋭くするだけの力のようにも思え、メリーは何が凄いのかと不思議そうに首を傾げる。


「大したことないと思うか? 残念ながらその答えは違う。アースクリアで強化された身体……そしてデミスの身体は本来、それだけの間隔で身体に命令を出してもついて行くことができるんだ。今ディルベルトが……あの村人についていけているようにな。脳の思考速度、身体に動くように命令を送る回数が一秒間の間では限られているところを……二十秒感覚で命令を出し続けることができるんだ……恐ろしいスキルだよ。驚異的な反射神経とでも言うべきか?」


 そこで、どうしてディルベルトが鏡の動きに対応しながら、まともにダメージを与えることができないのかの理由を理解し、「なるほど」とロイドがその脅威を表情の歪みで表現した。


「それは……先程のディルベルトさんの言葉通りならば、精度をあげれるんですよね? まさか、まだまだ一秒間の感覚を増やすことができるのでしょうか?」


「いいや、あれがディルベルトの最大だ。レックスとやらが戦った時は一秒を五秒に、お前と戦った時は一秒を十秒に、そして今は二十秒……このスキルにはギアのような段階があるんだ。正直、あれについていけているあの村人はとんでもないとしか言いようがない」


 まさかここまで戦いらしい戦いになるとは思ってもいなかったのか、セイジは顔を強張らせて解説しつつも、鏡とディルベルトの戦いから目を離そうとはしなかった。


「だが、多くの者が0.05秒を認識できない。認識できないまま……お前たちはデミスに殺されることになるだろう」


ここまで戦えたにもかかわらず、それでも諦めろとしか言葉にしないセイジの気持ちが痛いほど伝わったのか、一同は苦痛の表情を浮かべる。


「それこそが、デミスが手に入れてしまったディルベルトも持つ、超速思考による時間を制御したかのような錯覚を与えるレアスキル――」


 そして、セイジは告げる責任を果たすために、その力の名を口にした。





「エクゾチックフルバーストだ」





「「「「「「「「ん?」」」」」」」


 だが、その力の名を耳にした瞬間、その場にいた鏡のスキル一覧を知る全員が鏡とディルベルトとの戦いから目を逸らし、呆然としながら一斉に間の抜けた声をあげてセイジへと顔を向けた。


「デミスがディルベルトほどに時間の感覚を制御できるかはわからないが……一応、ディルベルトが持つスキルの正式名称は『エクゾチックフルバーストAct3』。時間の制御を三段階にまで開放することができる力だ」


「それってどうやって発動してんの?」


 耳を傾けていたのか、ディルベルトとの戦闘を放棄した鏡が突然目の前に現れて、セイジへと問いかけた。


「いつの間に話を聞いていたんだ……というより、戦っていたんじゃないのか?」


あまりにも唐突の問いかけに、セイジは驚きつつも頬に汗を垂らして真意を確かめようとする。


「いや、あまりにも攻撃が当たらなかったから不毛だなーって考え始めてたら、すっごい、もうものすんごい興味深い話が出てたからさ」


「それで……何故俺に発動の仕方を聞いてくる? 俺に聞くより実際に使っているディルベルトに聞いた方が早いだろう」


「それもそうだな」


 セイジの言い分に納得したのか、鏡は手をポンッと叩くと、そのまま手を止めて放置していたディルベルトの目の前にまで瞬時に移動し、『エクゾチックフルバースト』の発動方法について教えを乞い始める。


 その光景を、セイジは「何が起きているんだ?」と困惑した様子で見守る。タカコたちに至っては勝利を確信したような顔つきで、それが終わるのを見守った。


「精神を集中させて……解き放つんじゃないんだな? 制限解除とはちょっと違うのか……ていうか、制限解除のせいで今まで気付けなかったのか? 制限解除とかいうカモフラージュめ……許せん」


「何だ? 本当に何をしているんだ?」


 訳が分からずセイジは声を荒らげる。それとは対照的にティナは勝利を確信した顔で「早く休みたい」と呆けた顔で欠伸をもらした。


「集中して……時間を数える。そして一秒の認識を徐々に早め…………」


 鏡が目を閉じ、「一、ニ、三」と時間をゆっくり数え始め、その秒数が十になると共に鏡の姿がその場から消える。そして――、


「……な⁉ なんだ急に?」


 再びセイジの目の前へと現れては、肩をポンッと叩いて見せた。


「あれ? 使えたと思ったんだけどな。なんか皆の動きがドンドンスローになっていくからできた! って思ったんだけど」


 セイジのパッとしない反応に、鏡は「あれ?」と首を傾げる。


「そもそもあんた、目で捉えられない速さで動くから、私たちじゃ認識できないでしょう?」


「ああ……そうか、さすがパルナは天才だな」


「馬鹿にしてんの?」


 ヤレヤレと言いつつも、パルナは柔らかい笑みを浮かべて安心した様子を見せる。


「なんだ? お前たちは何を言っている?」


 その二人のやりとりが理解できず、遂に我慢できなくなってセイジは鏡に説明を求めて掴みかかった。すると鏡はすかさず「ほい」と言って、自分のステータスウインドウのスキル一覧を開いて見せる。そしてそれを目にして、セイジはこれでもかというくらいに口をパカッと開いて身体を震わせた。


「俺も持ってるんだよ『エクゾチックフルバーストAct7』。ずっと名称がカッコいいだけの糞スキルだと思ってたけど……まさかのレアスキルで俺も動揺を隠し切れない」


「ば、……えぇ⁉ 馬鹿……な? え? おふぇ? えぇ? いやいやいや? おっほ?」


「驚くのはいいですけど、せめて人語で話してくださいよ」


 あまりの驚きようにまともに言葉を話せなくなっているセイジに、ティナが「気持ちはわからないでもないですけど」と同情しながらツッコミを入れる。


「あれだけの強さを持ちながら……そのスキルは駄目だろう⁉」


 心底そう思えたのか、その場にいた全員が抱いた気持ちを代弁してセイジが言葉にした。


「確かに気持ちはわかる。お前どれだけ強くなれば気が済むんだ?」


 むしろそこまで強くなられると気持ち悪いと、メリーが嫌悪の視線を鏡へと向けた。その態度が腑に落ちなかったのか、鏡が「ちょ、待って」と弁明を始める。


「俺もそんなの知らないからね⁉ それにこのスキルは元々俺が持ってたスキルだからね⁉ ていうか何で今までこれのスキルの効果詳細、『名称がカッコいい』だったんだよ」


「さっき言っただろう! 元々解明されていないスキルもあったと! そういうものにはアースクリアのシステムが判断しきれずに適当な表示が行われるんだ! いや……今話すべきはそうじゃなくて、Act7だと⁉ ディルベルトよりも4段階も上位だと⁉」


 言いたいことは山ほどあった。既に素の状態で『エクゾチックフルバーストAct3』の力を持ったディルベルトの動きについていけていたのに、そんな男がそのディルベルトを超える『エクゾチックフルバーストAct7』の力を持っている。


 信じられない事態だった。信じられなさ過ぎて言葉の整理がつかず、肩をわなわなと震わせて鏡に指を差し続ける。


 そんなセイジに対して鏡は冷静な表情で、「まあとりあえずだ」と言葉を添えると、逆にセイジの額に指を差して――、


「これで、デミスと戦う理由ができただろう? さ……約束は、守ってもらうぜ?」


 このまま前進することをハッキリと告げた。

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