なりたいではなく、ならねばいけない時-7
「でも……力を奪われたといっても、その奪われた力が鏡ちゃんにとって取るに足らなければ……勝機はあるんじゃないかしら? 鏡ちゃんが最も強力な力はその身体能力の高さだし」
タカコの言葉を想定していたのか、セイジは再びステータスウィンドウに似た表示を出現させる。そこには、誰の者かはわからないスキルの一覧表が映し出されていた。
「これは……?」
「過去の超人たちが持っていた能力のリストさ、一体どんな力が奪われたのか調べておく必要があると思ってね、そのうち……取り込まれたのがここに表示されている十四名の能力だ」
「オートリバイブ……が入ってる」
鏡が指差したスキル一覧には、鏡も持つ自動的に体力と傷を回復させるスキルが含まれており、タカコたちは再び顔を険しく変化させる。
「取り込まれた超人の中にいたのさ、おかげで、並の攻撃じゃ傷をつけても回復されてしまう……元々の治癒力も高いのでね。だが、本当に脅威なのはそれじゃない、正直、ここに表示されてるほとんどがそこまで脅威ではない。オートリバイブも放置していれば回復するだけで、間髪入れずに攻め込めれば勝機はあった」
何を言いたいのかを察し、鏡は「回りくどい言い方しないでさっさと言え」と、ため息を吐きながらスキル一覧に表示されていた一つのスキルを指差した。
「そこに、『????』って書いてあるスキルがやばいんだろ?」
「そう……これがまずいんだ。当時、超人ではあったが、何の力かわからず解明できなかった者が何人かいた。この『????』のスキルを持っていた者も、超人としての生体反応はあったが、何の力が出ているかわからず、その力を扱いこなすことなくデミスに取り込まれたんだ」
「自分でわからない力って……どういうこった?」
「それだけ、その力の発動条件が限られていたり、ある特定の環境下でしか発動できなかったりするのさ、その代わり……その力は絶大な能力を誇っている。俺はこれを本当の意味でレアスキルと呼んでいる。能力の良し悪しに関係なくな」
そして、そのスキルをデミスが保有している。その事実に鏡を除く一同は更に表情を暗くさせる。
「話を戻そう。俺はこの力が何なのか、ずっと研究し続けてきた。アースクリアのスキルを解明するシステムも、元は超人たちの力を解明するために開発されたものを移植したものに過ぎない」
「もしかして……たまにアースクリアのシステムが適当なスキル詳細を表示するのって」
「そのシステムでも解明できないもの……ということになるな」
それを聞いて、鏡は自分の使えなさすぎるスキルにまだ可能性が残っているのではないかと表情を明るくする。その表情の変化の意味が分からず、セイジは「変わったやつだ……」と若干引き気味になりながら言葉を漏らした。
「解析できなかった力を解明するには……より高度に超人の細胞組織の仕組みを解明するシステムを開発し、更に……そのものと同じ力を持った者が現れる必要があった」
その言葉に合わせるようにして、ずっと沈黙を保って玉座に座っていた水都グリドニアの王、ディルベルトが立ち上がって一歩前へと出る。
「そいつがそうってことか?」
「そうだ。ようやく現れたんだ……デミスに取り込まれたレアスキルを持った者と全く同じ反応の力を持った者がな……ディルベルト、彼がそうさ」
紹介に預かると、ディルベルトは髪をファサッと勢いよくかき揚げ、注目を集めるために両手を勢いよく広げた。
「私は美しい……そう、それは戦いにおいても同じ。敗北を知らないが故に、尚美しいのだ」
その言葉に、セイジを含む全員が顔を引きつらせる。
「頭はちょっとおかしいが、そのレアスキルのおかげでこいつはほぼ無敵に近い力を持っている。仮に……デミスを倒せるというのであれば、ディルベルトを倒してみろ。それが出来たのであれば、デミスに挑まず絶対の安寧を手に入れるというのを考え直してもいい」
それを聞いて、真っ先に前へと足を進めたのはレックスだった。
「師匠がやるまでもない……どんなスキルかはわからないが、僕だけで充分だ」
レックスはそう言い切ると、深く腰を落として構えをとる。
「ペスのおかげで、無駄な動きを省く術を知った……今の僕は強いぞ?」
そんなレックスに対し、ディルベルト王は余裕のある笑みを浮かべながらクイクイッと手招きをして挑発をかけた。
「いいからかかってきたまえ、戦いの前に多くを語るのは……美しくない」
その言葉には賛同なのか、レックスは一瞬笑みを浮かべると、片足に力を入れて飛び出すように前進し、一瞬にして間合いを詰めると回し蹴りを放つ。
「な……? 避けた?」
誰もが確実に当たると思われたその蹴りは空を切り、ディルベルトは「ふぅー……やれやれ」と困ったような表情を浮かべてレックスを再び挑発した。
「さあどうしたんだい? 君は強いのだろう? 私はまだ何もしていないよ?」
「っく……馬鹿にするな!」
ディルベルトの言葉にレックスはいきり立ち、激しい地を蹴る音を鳴り響かせて次々に殴打と蹴りによる連撃を放っていく。その動きは、一流の武闘家であるタカコでさえ見事と思えるくらいに無駄がなく、華麗な攻撃だった。
「あぁ……美しい。華麗なる連撃だ……しかしそれを避ける私は更に、アッ……おっふ、美しい」
だがその攻撃が、ディルベルトに触れることは一度もなかった。ディルベルトは避けるたびにレックスを挑発しているのか、「ああ……美しい」や「おっふ……美しい」などと言葉を残していく。
「あの人いちいち美しい美しいうるさいんですけど」
やばい人物を見るような目でティナがそう呟く。
「それでもダメージ与えられてないから何も言えないのが……凄い悔しいね」
同じくヤバい人見るような目で見つめながら、アリスも続いて呟く。
「馬鹿な……何故当たらない⁉ 確実にとらえたはずの攻撃が……馬鹿な⁉ 避けようとする動作もなくどうやって回避している⁉」
「それを語るのは……美しくない」
レックスの困惑は変ではなかった。レックスの実力が足りていないから攻撃が当たっていないわけではなかったからだ。レックスの攻撃が当たる瞬間、ディルベルトはまるで煙のように消え去り、攻撃が当たらない一歩後ろへと下がっていたのだ。
「っく……ならばせめてレベルを答えろ! その動き……ロイドや師匠くらいに高くなければありえない動きだ。僕が目で捉えられないなんてありえない」
「私のレベルは110……そこまで高くないよ。そう、低レベルで高レベルの相手を圧倒する私……だからこそ美しいのだ」
最早挑発でも何でもなく、ただの癖としてやってるのか、ディルベルトは再び髪をファサッとかき上げると、身体をくねらせてレックスにポーズを決めてみせた。