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LV999の村人  作者: 星月子猫
第六部
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なりたいではなく、ならねばいけない時-5

「いや、無理じゃろ。見るがよいこの鳥肌。これ以上会話すると頭がおかしくなりそうじゃ。ナルシストがすぎるじゃろう。無理」


「いやいや困るよ姫様。あなたが話してくれないと誰があれと話すんですか? 変な人には変な人をあてがわないと……ね?」


「ね? じゃないわ! 誰が変な人じゃ! お……この、貴様! は、離せ!」


 しかしここで下がられては困ると、鏡は必死にフラウを王の前へと立たせようとする。だがその時、そんなくだらないやり取りに痺れを切らしたのか、ヤレヤレとため息を吐いてダークドラゴンが一歩前へと出る。


『茶番はそこまでにしろディルベルト。我が何故ここに来たのかわかっておるのだろう?』


「なんだよ……知り合いかよ。なら最初からあんたが話してくれよ」


『会ったことはない故、どのような人物か様子を見ていたのだ。名は、同じ特異点としてその座に着いた者だからな……そのくらいはわかる』


 ようやくまともな話ができると、鏡はフラウを解放し、ディルベルト王に視線を向ける。すると、王もようやくまともに話をする気になったのか、「これは珍しいお方がいらっしゃったものだ」と不敵な笑みを浮かべた。


「初めましてだね……ダークドラゴン。君から溢れ出る力で何者かはすぐにわかったよ。まさかそんな姿で私の目の前に現れるとは……人生何が起きるかわからない。だからこそ……美しい」


 ダークドラゴンを前にしても余裕の表情を浮かべるディルベルト王に、やはりグリドニア王国を管轄しているセイジと何かしらの関りがあることを勘の鋭いタカコ、鏡、ロイドは確信し、表情を強張らせる。


『聞きたいことは山ほどある。この国のこと、魔王がいない理由……だがその前に聞かせてもらおうか、グリドニア王国を管轄している地下施設……エデンは今どこにある? どうやって動かした?』


「それは答えられないし、調べさせるつもりもない。一応言っておくが……私の身体に触れても無駄だぞ?」


『無駄だと? この国の住民といい……一体何をした? セイジ様は……何を考えておられる』


「セイジ様本人に聞くといい。君たちがエデンを探り当てるのをこうまで妨害しておいて、いざ国の中に入られても特に襲いもせず、こうしてこの場に招き入れたのがどうしてか……わからない奴でもあるまい。この場に来るように誘導されていたくらいは気付いているのだろう?」


『セイジ様がこの場にいるだと? 馬鹿な、ならエデンは今一体……?』


 その時、聞くよりも早く、ディルベルト王の目の前に円形の魔法陣が出現する。そこから眩い光が放たれると、こことは違う別室でこちらの様子を窺っていたのか、來栖と同じ研究服に身を包んだ一人の男性が姿を現した。


「エデンは放棄した……とは言っても、最後の仕事をこなさせるために数人は残しているがな」


『……セイジ様』


 ダークドラゴンがセイジと呼称した男性は、來栖と同じく身体を入れ替えているのか若々しく、好青年をイメージさせる爽やかな赤髪の短髪で、鼻筋の通った整った顔立ちをしており、鋭い目つきに似合うどこかクールな印象を抱かせる眼鏡を着用していた。


「思っていたより見た目は普通ですね」


 それなりにカッコいいと思える身なりがイメージと違ったのか、ティナがそう口走る。


「どんな姿を想像していたかは知らないが、俺の見た目は昔からこれだ。身体を入れ替えても、若返るだけで見た目は変わらないからな」


「いや、來栖さんから聞いていた印象で、根暗な姿を想像してました」


「あいつはまた勝手なことを……まあ、もうあいつと会うことはないだろうがな」


 來栖とは仲が悪いのか、來栖の名を聞いて嫌悪した顔を浮かべる。だがすぐに切り替えて溜息を吐くと、「さて、話を戻そう」と、再び真剣な顔つきで鏡たちへと視線を向けた。


「今は來栖や俺の姿の話よりも聞きたいことがあるだろう? ようこそグリドニアへ……お前たちがここに来るのを待っていた」


「待っていた……ですって?」


「そうだ。お前たちと交渉をするためにな」


 一瞬、嘘の可能性を考慮してタカコが問いかけるが、すぐにここまでの道中、ダークドラゴンの力が失われるというトラブルがあったものの、何の苦労もなく辿り着けたことから、それが本気で言っていると判断する。


「ずっと見ていた……エデンの地下施設で村人。お前がガーディアンに所属する1万の軍勢を相手に勝利したことも知っている。どのようなスキルを手に入れてそれだけの力を得たかは我がグリドニア王国のサーバー状にお前のデーターが保管されていないためまだ知らないが……見事だった。まさしく、過去最強の人間であることは否定のしようもない」


「そこまで知ってるってことは……これから俺たちがデミスに立ち向かおうとしているのも既にわかってるんだろ? どうして姿を隠すような真似してんだよ。というより……六大大陸……だっけか? そこにある古代兵器を稼働させたり……あんたは一体何がしたいんだ?」


「交渉というのはそれに関する話だ。もうわかっているのだろうが、六大大陸にある古代兵器を稼働させたのは、デミスを目覚めさせるためだ」


 考えていた通りの目的に、一同は表情を歪める。だが、それにしてはあまりにもあっさりと目的を話してきたことに、ロイドだけはその違和感に気付き、顔をしかめた。しかし、現段階では情報が足りず、鏡とセイジの会話に耳を傾け続けた。


「目覚めさせるのはこれから俺たちが戦う予定だからいいけどさ、せめて足並み揃えろよ。まだ色々準備とかあるから勝手なことされると困るんだよ」


「それはこちらのセリフだ……勝手なことをされては困る」


「……どういうこった?」


「お前たちが戦うなどと言い出したから、予定を早めることになったんだ。本当なら、デミスが目覚めるだろう時期を見て、選択肢のなくなった來栖とライアンに合意を得て、平和的にやるつもりだったが」


 心底邪魔臭いと思っているのか、セイジは鏡たちにイラついた顔でそう吐き捨てる。


「なんかそれ、聞き方によってはデミスが世界を滅ぼしてくれるのを望んでるように聞こえるんだけど?」


 元々デミスによって滅ぼされるのを待っていたところを鏡たちに邪魔をされたかのような言い草に、パルナが腰に手を当てて睨みつけるようにセイジに向き合う。


「それは少し違う。俺もデミスがいなくなるに越したことはないと思っているし、滅ぼされてたまるかとも思っている」


「じゃあどういうことよ」


「無駄な犠牲を生み出したくないということだ」


 ただ、デミスによって滅ぼされるのを望んでいるわけでもなく、根本的な気持ちは鏡たちとそう変わらない。それが何となく伝わり、一同は殺気を解いて改めてセイジに向き合う。


「何を……やろうとしているんだ? 交渉ってなんだ?」


「お前たちを含め、現在アース状に存在する全ての人類を、このアースクリアの世界に入るようにお前たちからも動いて欲しい。これが交渉だ」


 それが出来ないからアースに残された者たちは今も貧困な生活を強いられ、外で再び生活をすることを夢見ている。故に、セイジのその提案は可能であればこの世界にもう一つの平穏を与えられる解決策でもあった。


「今アースにいる人間も……アースクリアに? ……来栖は定員オーバーで全員を収容することは不可能と言っていたが? それが出来ないからアースにいる皆は必死にあがいてるんだろ?」


「その必要がなくなった。今であれば……全人類を収容できる」


 ハッキリと宣言されたセイジの言葉に、アースの住民であるメリーは勿論、アースの惨状をよく知っているロイド、フローネも動揺する。ティナも、それが可能であればもう戦わずに済むのではないかと、身体を一瞬硬直させた。


『まさか……グリドニア王国の民たちの実体に反応がなかったのと何か関係しているのでは?』


 最悪の事態を想定して顔を強張らせながら、ダークドラゴンは問いかける。

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