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LV999の村人  作者: 星月子猫
第六部
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なりたいではなく、ならねばいけない時-4

『すんなりと案内してもらえるということは、向こうも我らがこうしてここに来るのを想定していたということなのだろうな、でなければ、我が力を抑え込むなどという前準備をしているはずもない』


「でしょうね、こうしてすぐに謁見できるということは、今向かっている場所に罠が仕掛けられているか、そもそもグリドニア王国に来たのが罠だったか……もしくは、ただの余裕か」


 ダークドラゴンの懸念に、ロイドも思案顔で肯定する。


「気は抜けませんね、警戒は怠らないでください。念のために私も何かがあった時、すぐに逃げ出すことができるように呪術の準備はしています。城内の所々に呪術による陣をこっそり仕掛けていますので」


 言われて通ってきた城内の通路を見ると、呪術を仕掛けたであろうフローネの魔力が仄かに感じられる箇所が点々と残されていた。今も右手に僅かな魔力を仄めかせて、逃げ出す際に効率的に敵を罠にはめられるであろう箇所に、呪術による罠をしかけている。


「フォルティニア王国出身の連中はさすがだなー……俺何も考えてねえわ。何があってもまあゴリ押しで何とかなるだろうって楽観的に考えてた」


 実際にゴリ押しでなんとかするために闘気を纏わせていた鏡に、油機が「鏡さんは何も考えてなさすぎだと思うけどね」と呆れた様子でツッコミを入れる。


「それだけ強いってことだろ。レベル1の私が同行しても問題ないって言えるくらいにはな」


「あれ、もしかしてメリーちゃん……まださっきクソ雑魚って言ったこと怒ってる?」


「怒ってねえよ! 事実を言っただけだ。それより……ここの国の王様ってどんな奴なんだ? 鏡なんかは色んな国に行きまくってたんだからわかるだろ?」


 的確にまだ怒っていることを言い当てられて、自分の子供っぽさを誤魔化すようにメリーは話を鏡へと振った。


「いや、俺は街の雰囲気とかそういうの楽しんだり、色んな場所で、色んな敵を相手に戦うのを目的にうろついてただけで、人に会うのを目的としてなかったからな……会うのは初めてだ」


「なんだ……そうなのか、他に会ったことある奴はいないのか? クルルとか王族だろ? 王族同士で交流とかあるんじゃねえのかよ?」


「いえ……私もありません。私は魔王討伐のためにずっと修行をしていましたから、そういった行事は一度も……向こうからこちらにいらしたこともないはずなので。姉さまは?」


 クルルの問いかけにフラウは「んー?」と思案顔を浮かべる。そのまま暫く考えたあと、ポンッと手を叩いて閃いたような顔を見せた。


「おー……そういえば他の国の王族と会ったことは一度もないのぉ。これが初交流になるわけか、妾と言葉を交わすのに相応しい人物であると良いがな」


「そこまで考えないと思い出せないって、あんたどんだけ他人に興味ないんだよ」


「ふ……妾と妾の家族以外は下賤な連中ばかりだからな……一々覚えてられんわ」


「うわー」


 あまりにも堂々としたクズ発言に、さすがの鏡もドン引きした様子で顔を引きつらせた。


「あ、鏡さんたちの邪魔になるんでお姫様は会話に入らないようにしてくださいね。長引くとあれですし、交流に来たわけでもないので」


「なんでじゃ! というかお前! さっきから妾にきつすぎるだろ! 妾は王族じゃぞ!」


「今は別にそういう立場とかあまり関係ないので」


 しかし、ティナはそんなフラウに堂々と言葉攻めを行う。


「諦めろ、これがティナたんだ。ティナたんは俺も認める心えぐりの天才だから」


「その言い方はやめてください」


 そんなティナに、鏡は心からの敬意を示す。それが腑に落ちなかったのか、フラウは「うぉい!」と威嚇するが、聞く耳をもたれず、フラウはそれ以降、小動物のように大人しくなった。


「とにかく、もうこれから会う相手なんだ。情報を今共有しなくても、嫌でもわかるだろ」


 そこで吐かれたレックスの言葉に、一同は頷いて賛同する。


「そういうことね、今は何かあった時のことを考えておいた方が賢いと思うわよ? アリスも、私から離れないようにね」


「大丈夫だよパルナさん。來栖さんにアースに置いてきた身体には魔力を補充してもらったし、この世界なら魔力が尽きることもないからボクも戦えるよ」


「それでも、ほどほどにね」


 大丈夫とは言葉にしながらも心配してくれているのが嬉しいからか、アリスはパルナの腕にしがみついて「じゃあ折角だし守ってもらお」と無邪気な笑顔を浮かべる。


 それとほぼ同時に、先導していた兵士が立ち止まり、一同はヘキサルドリア王国の王城内にある王の間と同じく、巨大な扉が佇む一室に視線を向けた。


「着きました。ここが王の間です。くれぐれも粗相のないようにお願い致します。何かがあれば、すぐに護衛の者たちが皆さまを捕らえることになってしまうので……」


 丁重な言葉ながらも、どこか意味のありげな警告にタカコは表情を少し歪める。

少なくとも、この中で何かが起きる。王の身を案じて兵士が一緒に中に入らず、鏡たちだけを案内したことで、その確信を抱いたからだ。


 同じくそれに気付いた鏡が、タカコと視線を合わせると頷き合い、扉へと手にかけてゆっくりと開いていく。そのまま扉を開ききった先には予想通り兵士はおらず、ヘキサルドリア王国の王の間にも似た金色の彩色が施された内装の、広い空間が広がっており、部屋の奥の中心に一人、玉座に腰を掛けた王と思われる人物が座っているだけだった。


 部屋へ入ると、扉は閉められ、王様と一同だけが部屋にいる状態になる。


 王は、玉座に座って見下すように視線をこちらへと向けていた。海パン一丁ながら女性のように手入れの施された長い金髪と、レックスやロイドにも並ぶほどに美麗な容姿をしたその姿に威厳を感じ、一同は思わず息を呑む。


「私は…………美しいものが好きだ」


 そして、言葉を発さずに一同が沈黙を保って視線を王に向けていると、何も話しかけてこない一同に痺れを切らしたのか、王はため息を吐きながらそう言葉を漏らした。




「そして私は……美しい」




 空気が凍りついたかのような感覚が、一同を襲う。


「どうしましょう鏡さん。この私でも何言ったらいいかわからないくらい意味不明なこと言い出したんですけどあの人」


 すぐさま一同は気持ちを切り替えて、ティナのその言葉を開始の合図に、審議とも呼べるヒソヒソ話を王に聞こえないように円になって始めた。


「やっぱりか、俺もどう返したらいいかわからなくなってたけど、ティナたんが何も言えないんだったらおかしなことじゃないな」


「いやいや、誰か代表してちゃんと話をしてもらわないと困ります」


 そのまま誰も言葉を交わそうとしない状況に、フローネが頬に汗を垂らしながら警告する。


「じゃあフローネ頼む」


「これは……困りましたね」


 だがフローネも、突然意味不明なことを言い出す相手に会話できる自信がなく、心底嫌なのか困った表情でキョロキョロと周囲を見回し、誰か代わりに王の相手をしてくれる人を探した。


「そなたがグリドニア王国の王か? 妾はヘキサルドリア王国が第二王女、フラウ・ヘキサルドリアである! こうして対面できたこと、光栄に思うぞ」


「あまりの話しかけなささに、さっき口を閉じろと言われたばかりのお姫様がいったぁ!」


 誰も話しかけようとしない状況がむず痒くなったのか、フラウが堂々とした表情で、ふんぞり返りながら前へと進み、高らかに声をあげて王へと指を差す。あまりの勇ましい姿に、さっきまで馬鹿にしていた鏡も、尊敬の眼差しを送りながら叫び声をあげた。


「ほぉ……あなたがヘキサルドリア王国の? 美しいお方だ……さぞヘキサルドリア王国の国民は誇らしいであろうな。貴女のような美しいお方が、姫なのだから」


「ふふん、わかっておるではないか。最近それをよくわかっていない連中に囲まれて自信を失いかけておったが、ようやく理解のある者に出会えたわ……どうやらお主らより、何倍も話のわかる相手のようだぞ?」


 フラウに一同は煽られるが、今はそれよりも話を進めることが大事だと、うっかり変に言い返さないように遠い目をしながら二人の会話を見守ることに徹する。


「お主も中々に良い男のようじゃの、妾が認めてやろう……お主は普通に美しい」


「否⁉」


「へ……? へ……?」


 突然の激怒に身体をびくつかせ、あまりにも不可解な激怒に、フラウは困惑した様子でオロオロと鏡たちに視線を送って助けを求めた。しかし、誰も助けようとはしない。




「私は普通に美しいのではない………………ありえないほど、美しいのだ」




「姉さまが言葉を交わすのを諦めた⁉ こんなことが……!」


 そして王の言葉を聞くや否やフラウは急に冷めた顔になり、踵を返して「あとは任せた」と帰ろうとする。

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