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LV999の村人  作者: 星月子猫
第六部
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なりたいではなく、ならねばいけない時-3

「レックスさんも基本ムッツリですけど、今は強くなることしか興味なくてパルナさんの気持ちに全然気付いていないっぽいですし、まあパルナさんもあまり表だって好意を表現していないので」


「なるほど……つまり、世界が完全に平和になればアプローチも皆出来るようになって恋が進展するということじゃな⁉」


「そうなるんでしょうけど、どうしてフラウ様がそんなことを気にするんですか」


「言ったであろう? 妾は恋バナが好きであると! 品がないと言われてもいい……妾はそういうのが好きなんじゃ。特に妹の恋の進展じゃぞ⁉ 気にならない姉なんているのか⁉」


「はぁ……そんなもんなんですかねぇ」


「お主……なんか冷めとるのぉ。お主にはそういった相手はおらんのか?」


 言われて、ティナは素直に思考を巡らせる。自分もそれなりに恋愛にも興味のある年頃で、好きな相手がいるのか? と問われれば、鏡やレックスが時折見せる勇ましい姿に心が揺れないこともない。


 だが、気持ちを表現するには障害が多すぎて、すぐにその気持ちを閉ざす。それの繰り返し。そして、ハッキリとしないのが自分らしさであると言い聞かせながら、今はここにいないメノウの姿を一瞬思い浮かべて自分でも気づかない内に暗い顔を浮かべた。


「私はこうやって皆で集まってワイワイやってる日々が好きなので」


「……どうした?」


「いえ、その日々を取り戻すために、早く全てを終わらせないとですね。とりあえずこれからどうするか、そろそろ鏡さんかダークドラゴンさんに決めてもらわないと」


「そうじゃの……ここでダラダラするわけに行かんじゃろうしな。おーい村人よ、これからどうするのじゃー?」


 誤魔化すようにフラウを鏡へとけしかけ、ティナは安心したのかホッと溜息を吐く。そして再度、「今は平和のために」と切り替えて、ティナも追ってアリスとクルルにそれぞれの腕を引っ張られ、タカコに顔面を鷲掴みにされている鏡の元へと足を向けた。


「ていうかそれどういう状態なんですか?」


「おべが……ぎぎたい」


 タカコに顔面を鷲掴みにされて呼吸もままならない鏡にティナが困惑した目つきで問いかける。とりあえず話が進まないからと解放してもらい、ベンチに座っていたダークドラゴンとも合流してこれからどうするかの話をまとめる。


「ま、とにかくグリドニア王国の管理者に会いに行くしかないだろう。幸い、ここにグリドニア王国の王様がいるみたいだしな。会えそうになかったらグリドニア王国の魔王に会いに行く」


「そういえば、グリドニア王国の魔王ってどこにいるんでしょうか。認識を変えられているのなら私たちでもわかったのかもしれませんが……街の人に聞いてみましょうか」


 魔王は他国には存在しない認識を保つため、鏡たちは現在ヘキサルドリア王国にしか魔王が居ないという認識のままグリドニア王国に来ている。そのため、グリドニア王国に存在する魔王の所在がわからず、街人に声をかけて魔王の情報を集め始めた。しかし――、


「え? 魔王?」


「何を言ってるんだこの平和な世界で。魔王はおろか、魔族もモンスターもとっくの昔に滅んだじゃないか、あんたたち頭おかしいんじゃないのか?」


「魔王がいないからこんなに浮かれてられるんだぜ? あんたらも折角しゃれた水着を着てるんだ。俺たちと騒ごうぜ?」


「君、かわヴぃいねぇえ⁉ ギュッとしていいですかぁ⁉」


 誰もかれもが、魔王は既に滅んだものとして認識していた。同時に、どうして街人が水着姿で浮かれ、街に光の花が降り注いでいるのかをなんとなく察し始める。


「どういう……ことでしょうか? アースクリアは強者を外に排出するために存在する世界。その最終目標である魔王がいないなど……ありえません」


 アースクリアが本来あるべき秩序が乱れている。それは誰もが追い求めた理想ではあったが、本当の意味での平和が訪れていない現状での世界の改変とも呼べる事態に、フローネは顎に置いて思案顔を浮かべる。


『どうやら……アースで古代兵器が稼働している件も含め、セイジ様が意図的に何か大きな問題を起こそうとしているようだな。それも……我々が思っている以上に大きな何かを』


 これらのことを含め、実際にグリドニア王国を管轄しているセイジによって力を失っているダークドラゴンが、今起こっている事態が考えていた以上の危機であると判断した。


「意図はとにかく、まずはそのセイジって奴の居場所を突き止めないとだろ? こりゃ何がなんでもこのグリドニア王国の王様に会わなきゃいけなくなったな」


 そう言いながら、鏡は水都の城下町からでもハッキリと見える、水都全体に水を行き渡らせている遥か上空にまで届くほどの巨大な建造物、王城へと視線を向ける。


「行こう」


 そしてそのまま全員に声を掛けると、鏡は何があっても良いように気を引き締め直し、全身に闘気を纏わせながら先導をきって王城へと向かい始めた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



「ビックリするくらい、普通に入れたわね」


 ヘキサルドリア王国でクルルを救出した時のように、城の兵士とドンパチ戦うことも想定していた鏡は、タカコのその一言で全身に纏わせていた闘気をプシューと煙をあげるようにして解く。


 覚悟を決めて城門へと向かった鏡たちは、案の定城門に立っていた兵士に足を止められた。しかし、普通に王様に謁見したいと申し出ると「ご案内致します」と丁重に案内され、特に何か騒動が起きることもなく城内へ入ることに成功する。


「正直俺が一番ビックリしてる。今までこんなにも簡単に話が進むことがあっただろうか」


「むしろ、鏡さんのトラブルに巻き込まれる確率が異常に高いだけだと思いますけど」


 ティナの的確なツッコミに、鏡は「そんな不幸の象徴みたいに言うのやめて」と、少しだけ気にしていたのか少し傷ついた様子で答え返す。


「まさか私、水着姿で王様に謁見するとは思いませんでした……」


 ロイドに褒められて少し自信がついたものの、やはり恥ずかしいのかフローネが頬を紅潮させながら言葉を漏らす。


「私もよ……この水着姿の刺激が強すぎて、王様が卒倒しなければいいけど……」


「めっちゃくちゃ強そう」


「鏡ちゃんもそう思う? 大丈夫かしら……心配だわ。ところで皆どうして視線を逸らすの?」


 タカコの問いかけに、その理由を誰も答えようとはしなかった。

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