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LV999の村人  作者: 星月子猫
第六部
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『ふーん』って感じ-5

「さっきここに着いたんですが、中々良い街じゃないですかここは。魔族と人間が共存しているのにも驚きですが……フォルティニア王国にはないエンターテイメント性がありますね」


 既にいくつか場所を見てきたのか、ロイドは満足そうに椅子に座るとそのままケンタ・ウロスに「コーヒーをもらえるかな?」と、常連かのように注文する。


「すげーナチュラルに席に座ったけど、どうしてお前らがここにいるんだ? ガーディアンで俺たちが戻るのを待っているんじゃなかったのかよ?」


「そのつもりでしたが……そう言っていられない事態になったので、私たちが鏡さんへの連絡役として派遣されたんです」


「そう言ってられない事態?」


 フローネの浮かべる焦った表情を察してタカコが問いかける。


「皆さんがノアへと戻ってからほんの数時間後のことです。六大大陸にそれぞれ長年放置されていた、対デミス用の古代兵器が一斉に稼働を開始しました」


 しかしフローネの言葉の意味がよくわからず、タカコは「六大大陸?」と首を傾げた。


「あ……そうでした。皆さんは六大大陸の古代兵器と言ってもわかりませんよね。えっと……皆さんに分かりやすく説明すると……」


「皆さんも戦ったことがあると伺っていますよ。ラストスタンドの原型とも呼べる人類最強の古代兵器……メシアとよく似たもの……と呼べばわかりますか?」


 コーヒーカップを片手にフローネの言葉を遮ってロイドから放たれたその名称に、それを知る鏡、タカコ、アリスの三人は表情を強張らせる。また、ロイドのその言い方はまるで、自分もかつて対峙したことがあるかのようだった。


「六大大陸と言うのは、ユーラシア大陸、アフリカ大陸、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸・オーストラリア大陸、南極大陸と呼ばれるアース上の6つの陸上部分のことです。クルルさんかパルナさんなら王国の書物でご存知と思いますが……今はいらっしゃらないようですね」


「あいつ等なら今頃王都にいる。……ていうかメシアって、アースクリアだけに存在する人類殲滅兵器じゃなかったのかよ」


「この世界ではそうですね。というより、この世界でもあれは緊急時以外に使われることはないらしいですけど。元々、対デミス用に作られた兵器を転用させたとライアン様は言ってました。アースクリアがデミスとの戦いのために作られたと考えれば変でもないでしょう?」


「ロイドは戦ったことがあるのか?」


「ええ、おかげで引っ張り出されました。あ、ギリギリでしたけど……ちゃんと倒しましたよ? あなたのせいで全然目立ちませんが、これでもレベル450の勇者なので」


 レベル450の勇者ともなれば、あれを倒せてもおかしくはないかと、変わらずにこやかな笑みを浮かべるロイドに対して一同は苦笑を浮かべる。そこで、言葉を遮られたのが少し悔しかったのか、頬を紅潮させながらフローネが「おほんっ!」と咳払いして説明を続ける。


「メシア……アースでの正式名称はED、『アースディフェンダー』、それぞれの陸地を守るために作られた人類が保有する最大級の兵器です。莫大な魔力が必要なためそう易々と動かせる代物でもなく。現在エネルギー供給のために稼働しようとしている段階ですが……このままだと確実に一週間後、この世界での時間経過なら三週間後に6大大陸にある全てのアースディフェンダーが動きだします」


「誰が何のために……?」


「何のために動かそうとしているのかはわかりません。ですが、それを動かそうとしているのが誰なのかはわかります。あれを動かすための魔力供給が行えるのは、ライアン様、來栖様、そしてセイジ様しかいませんから」


「じゃあ、セイジって奴が動かしてるのか?」


 フローネは頷いて答えると、そのまま不安そうに俯く。


「急がなければなりません。このままだと……一週間後、アースディフェンダーが動き出します。それまでに、セイジさんにコンタクトを取らなければ」


「動き出すと何が問題なんだ? 戦力を求めているなら動いてくれた方がいいんじゃねえのか?」


「まだ準備が整っていません。アースディフェンダーが動き出せば、デミスが目覚める可能性があります。そうじゃなくても、セイジ様がアースディフェンダーを動かそうとしている意図が気になります。理由もなくアースディフェンダーを動かすとは思えません。恐らく……」


 何を言わんとしているのか、聞くまでもなくフローネの不安そうな表情から鏡は察する。動かした以上、セイジは使う前提でいる。千年もの間、耐え続けてきた男の一人が、何の意味もなく動かしたとは到底思えなかったからだ。


「意図はわからないにしても、デミスとの戦いを控えた今。アースディフェンダーを動かされるのは僕たちにとってもマイナスでしかありません。早急にグリドニア王国へ向かう必要性があります……ほんの一時のバカンスを楽しもうとしていた皆さんには申し訳ありませんが」


「……まあしゃあねえだろ。何より優先するべきはそっちの方だ。元々無理言ってこっちに連れてきてもらったわけだし、私は文句ねえよ」


「とは言いつつメリーさん、残念そうですね?」


「あ?」


「い、いえ、なんでもありません」


 メリーから視線を逸らすと、急かしているのかロイドは飲みかけのコーヒーをテーブルに置いて立ち上がる。


「まずは、グリドニア王国に向かうために、ヘキサルドリア王国にいる管理者権限を持った者を探しに行きましょうか」


「管理者権限を持ったやつがいないと、確か記憶を書き換えられるんだっけか?」


 鏡の質問にロイドは頷く。ヘキサルドリア、フォルティニア、グリドニアの三ヵ国はそれぞれアース上に地下施設がある場所であり、それぞれにアースへと出るための条件として魔王が存在する。そしてこの三ヵ国は、自由に行き来することが出来る。


 鏡もかつて、LV999へと辿り着くための過程でフォルティニア王国とグリドニア王国に足を踏み入れていた。しかし、ヘキサルドリア王国にいるものは皆、魔王がヘキサルドリア王国にしかいないと認識している。無論、フォルティニア王国、グリドニア王国もそれぞれ自国に魔王がいることになっている。


 そうなるのも、アースクリアの機能を保つために、各国のエリア内に入ると自動的に認識を変えられてしまうからだ。


 ヘキサルドリア王国のエリアにいる時、フォルティニア王国のエリアにいる時、グリドニア王国のエリアにいる時、それぞれでそれぞれの国に都合の良い認識にさせられる。


 その認識が変えられる際、必要以上のことを知っている鏡たちの記憶が変に侵される危険があるため、移動する時は管理者に認識保護を受ける必要があった。


「ロイドさんとフローネさんはどうやってここに来たの?」


「フォルティニア王国にいる管理者……王に記憶が書き換えられないようにしてもらって、管理者権限で飛ばしてもらいました」


「王様は一緒に来てないの?」


「管理者は基本的に管轄している地域を離れられませんので。こちらから飛ばしてもらうにはこちらの管理者に頼むしかありませんね」


「そっか……じゃあボクたちもエステラーか王様にそうならないようにしてもらって、グリドニア王国に飛ばしてもらう必要があるね」


 そうと決まれば行動と、アリスは勢いよく席から立ちあがって鏡の服を引っ張る。しかし鏡は動かず、どこか困った顔を浮かべるフローネを見つめていた。


「……なんかあるんだろ?」


「察しがいいですね。先程も言いましたがアースディフェンダーは稼働を開始しているため時間がありません。なので皆さんに頼らず、僕たちだけ先行してグリドニアに転送するように王に頼んだのですが……転送を拒否されました」


「転送拒否って……どういうこと?」


「管理者権限で転送を行うには、転送先の管理者に許可をもらう必要があります。つまり……グリドニアに住む管理者が私たちに来られることを拒んでいます」


「グルって可能性が高そうだな」


 それは、グリドニア王国が、現在アメリカの地下施設の管理者であるセイジに協力しているということを告げていた。


「向かうには船で行くしかありません。今から船で向かっても2週間……皆さんがこちらの管理者の方に会って認識保護を受けるための時間も考えれば……時間がないと言っていた意味をご理解いただけるでしょうか?」


 フローネの言葉に、鏡とロイドを除く一同は暗い表情を見せる。しかし鏡は「本当にそうか?」と危機感のない表情で首を傾げ、ロイドもどこか余裕のある笑みを浮かべながら鏡がそれに気付くのを待つ。


 暫くして、気付いたのか鏡がポンッと手を叩くと――


「あれだ。ダークドラゴンの背中に乗せてもらおう」


「正解」


 パチパチと手を鳴らして、鏡の出した答えに賛同を示した。

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