『ふーん』って感じ-3
そう言いつつ、メリーが一番ワクワクと目を輝かせていた。
ジーッと見つめてくるメリーを横目に、鏡はどこか腑に落ちない気持ちになりながら『イモータルリカバリー』の詳細を開く。
スキル……イモータルリカバリー
効果……死を恐れぬその魂に、不滅と錯覚させるほどの回復力をもたらす。
「遂に俺、人間やめてしまったか」
「予想通り、『覚醒』の力によって鏡ちゃんが持ってた以前のスキルが底上げされたようね。説明から見ても、『オートリバイブ』の上位互換にしか見えないわ」
「すげえな、じゃあ鏡をどれだけボッコボコに痛めつけてもすぐ回復しちまうってことか? 殴り放題だな」
「いやいや、回復力が凄いだけでちゃんと痛いし死ぬからね? ちょ、試そうとしないで」
タカコの説明通り、新たに得たスキルのほとんどが、以前手にしていたスキルの上位互換に進化したものだった。
スキル……ゴッドハンド
効果……その手は、全てをイメージ通りに捌き、神が如き力で全てを粉砕する。
「これってつまり。フィンガー系のスキルをまとめたってだけじゃねえの? ミラクルフィンガーが無くなった分、損してる気がするんだけど」
「指だけじゃなくて手全体になったって考えれば、強くなってるんじゃないかしら? ロシアでの戦いで、鏡ちゃんが銃弾を素手で全部掴む動きが出来たのも指だけじゃなくて手全体が強化されたおかげなんじゃない?」
「うお……本当だ! 見てくれタカコちゃん! 今まで指で弾かないとゴミ箱にティッシュを精確に入れられなかったのに掴んで投げても必ず入る! 壁に当ててから入れようと思っても精確に入るぞ! なんて便利なんだ!」
「メリーちゃんとアリスちゃんの微妙な表情を見て察してあげて鏡さん。凄さがすごく伝わりにくい」
名称が変化した反魔の意志も同じだった。
スキル……反魔
効果……魔力を反射する闘気を、身体全体に発生させる。
名称が変化したスキルは、どれも以前のものよりも強化されていた。以前よりも何倍もの力を発揮する優れた力に。
「つまりだ。今までまるで何の役にも立たなかったこのスキルもパワーアップして使えるようになってるはず」
「確か前に鏡さんがボクに見せてもらった時は、名称がカッコいいだけのスキルだったよね」
先に見た三つのスキルが確実に性能が上がっていたことから、鏡は胸を躍らせて今まで名称がカッコいいだけで何の役にも立たなかった『エクゾチックフルバーストAct7』の詳細を開く。
スキル……エクゾチックフルバーストAct7
効果……次の段階へと進んだ名称がカッコいい何か。
「きれそう」
そしてほとんど変化のないスキルの効果に、鏡はニッコリと笑顔を浮かべながら眉間をピクピクと動かした。そんな鏡をアリスとメリーは哀愁の漂う優しい眼差しを鏡に送る。
「多分だけど……アースクリアのシステムでも解析できていないスキルなんじゃないかな。アースクリアのシステムもスキルを全て把握し切れてなくて、人体の変化や影響からそのスキルの詳細を出してるって来栖が言ってたよ」
だがその中で、油機だけが真剣な顔つきでスキルの効果詳細を見続けた。
「解析できてないって……じゃあ俺もアースクリアのシステム気付けてないだけで、何かしらの力が発現してるってことか?」
「超人の遺伝子が注がれてるはずだから何かは発現してるはずだけど……まあ鏡さんだし、もしかしたら本当に名称がカッコいいだけなのかもしれない」
「ていうかお前、もうそんだけ強いならこのスキルが何なのかとかどうでもいいだろ」
メリーの指摘に「確かに」と鏡は頷くと、『エクゾチックフルバーストAct7』の効果詳細を閉じる。その傍らで、タカコが気難しそうな表情で首を傾げていた。
油機の説明通り、気付けていないだけで、何かしらの力である可能性が高いとタカコも感じていたからだ。そう思える理由が、スキル名にも、効果にも現れていた。
何故、Act5からAct7になったのか? どうしてAct6じゃなかったのか? タカコはそれをこう考えた。「鏡は気付かない間に、Act6になっていたのではないのか?」と。それが、覚醒の力が開花したことによって『次の段階へと進んだ』とするなら、効果の説明とも紐付いた。
何よりも、それが『名称がカッコいい』、『何か』と記されていたことにタカコは違和感を抱いた。前まではただ名称がカッコイイだけのスキルだった。しかし、アースクリアのシステムが、鏡に起きた変化を比較して何かが起きていると判断して文面を修正したのであればと、鏡が言うように、何かしらの力が発現している可能性は高いのではと感じていた。
しかし、その詳細はやはりわからない。
「残りのスキルの名称が変わってないみたいだけど、なんでなんだ?」
「進化はしてるんじゃないかしら? 特に名称が変わるほどじゃないってだけで、『神へ挑みし者』は王様が言うに、鏡ちゃんに起きていた異変であってスキルじゃないみたいだから変化はないかもしれないけど」
タカコの言葉通り、『神へ挑みし者』は変わらず限界を超えて成長し続けるスキルのままだった。しかし、『制限解除』は効果の内容が変化していた。
スキル……制限解除
効果……解き放たれたその力に、最早制限は存在しない。
元々のスキルの真価を表すような文面が、そこには表示されていた。その効果内容に、ロシアでの戦いを見届けた一同は納得したように頷く。鏡も、今もなお身体から溢れ続けるその力を握り拳を作ることで確かめると、最後に残された『リバース』のスキルを表示した。
スキル……リバース
効果……レベルが低ければ低いほど、強力な技や魔法をコストなしで使用できる。だが、レベルが上がれば上がるほど、強力な技や魔法を使える幅が狭くなる?
「なんも変わってなくない?」
「でも見て鏡さん! 最後に『?』があるよ! ボクが前見た時はついてなかったのに!」
「なんでシステムが自信なさそうなの?」
「いいじゃねえかどうせもう充分強いんだし。どうせレベルが高くて使えないんだから、このスキルが何なのかとかどうでもいいだろ?」
「メリーちゃん? お前なんでもかんでもそのセリフで片付けようとしてない?」
確実に進化はしているはずなのに、何も効果が変わっていないことから、システムが表示していたスキルの効果は間違っていると判断したのか、『リバース』はシステムでさえ疑問を抱く効果となっていた。どちらにしろレベルが高い鏡にはスキルの効果を確認しようもなく、相変わらず魔法や技の類が使えないことから諦めてスキルの効果表示をそっと閉じる。
結局、元々使えなかったスキルは、使えないままだった。




