第二十五章 『ふーん』って感じ
「なんだ……このダサい看板は?」
ヘキサルドリア王国から西北西に位置するヴァルマンの街へと向かう道中にある、広大な森の中にドンッと突き刺さった『鏡・オブ・カジノ』と記された看板を見て、メリーが驚愕した表情でその看板を見つめた。
「いやいや、ダサくないから。むしろカッコいいだろ? これ、俺が作った特注品なんだぜ? 俺の顔がでかでかと描かれて最高に素敵だろ?」
「ダサさはともかく、なんでこんな森の中の誰も見てなさそうな場所に突き刺さってんだよ」
「なんかタカコちゃんとデビッドに街道じゃなくて森の中に刺しとこうって言われてな?」
「なるほど……タカコとデビッドは優秀だったんだな」
「あら? メリーちゃんにはどうしてそうしたかわかっちゃったかしら?」
鏡に皮肉った笑みを見せると、メリーは軽快な足取りで少し先に見えるヴァルマンの街の外壁へと向かう。その後を、やれやれと笑みを浮かべながら鏡、アリス、タカコ、油機の五人が続いた。
ガーディアンでの戦いが終わってから一週間後、一同は來栖の依頼通りアースクリアへと戻ってきていた。戻ったのは、鏡、アリス、油機、メリー、タカコ、レックス、クルル、パルナ、ティナの九人のみ。
後から追ってきたシモン、ミリタリア、デビッドの三人はアースクリアに戻るよりも、アースに残って戦いの準備を整えると残留し、ウルガ、ピッタ、朧丸の三人は鏡について行こうとしたが、人間でなければアースクリアに入ることは出来ないという理由から渋々残留した。
メリーに関しては元々アースクリアの住人ではなく、アースクリアの環境に適応させるなどの調整で來栖が苦い顔を浮かべていたが、「私もアースクリアに行きたい!」と本人が強く願ったため、こうしてデビッドが使っていたカプセルを利用することでアースクリアの中へと訪れていた。
成長した身体に進化を促すのは負担が大きすぎるため、メリーがここで戦ったところで強くなることは出来なかったが、どうせ最後になるかもしれないのなら、最後の思い出作りでもしてくればいいという来栖の計らいだった。
「気をつけろよー。ダメージを受ければ現実世界の身体にも影響があるからな。転んで頭ぶつけんなよ」
「子供扱いするな! あと鏡、前々から言ってるけどな……私はこう見えて14歳だぞ!」
「え、マジで? 7歳くらいだと思ってた」
「殺す!」
現在五人はヴァルマンの街へと向かっていた。というのも、何もない空間から突如現れた一同を見られるのはまずかったため、人気のない場所に送ってもらったからだ。
レックス、クルル、パルナ、ティナの四人も同じ場所に送ってもらったが、現在四人は王都へと向かっている。シモンが王都で一つだけやり残したことがあると、クルルに使いを頼んだからだ。三人は付き添いとして同行し、後でヴァルマンの街で合流することになっていた。
「メリーちゃん。ステータスウィンドウの開き方はわかる? 身分証明にもなるし、誰かと挨拶を交わす時にも見せることになるから開けるようにならないと」
「何度目だよ……もうわかったっての。お前は私の親か何かか?」
「だって心配なんだもん。メリーちゃん肝心なところでマヌケだし」
「この前私を裏切ったばかりなのに随分と態度でかいじゃねえか……あぁん⁉」
腰元のホルダーから魔力銃器を抜き出そうとするが、いつもそこに入っていたガバメントは入っておらず、メリーは「あれ?」と間の抜けた声をあげる。その様子を油機はにやにやと笑みを浮かべながら眺めた。
「魔力銃器はこの世界には存在しないから、メリーちゃんは無力なんだよ? あたしの言うこと素直に聞いといた方がいいんじゃないかなぁ⁉ あはは! メリーちゃんかわいいねぇ!」
「こいつ!」
ムキになってメリーは素手で殴りかかるが、油機は余裕の笑みを浮かべながら腕を振り回すメリーの頭に手を置いて動きを止める。
「ねえねえ鏡さん。ボクたちっていつまでアースクリアに居られるのかな? 來栖さんやライアンさんから何か聞いてないの?」
そんな、ここに来るまでに何度も行われているやり取りを見ながらアリスが首を傾げた。
「さあ……あの二人は特に期限は言ってなかったな。元々俺たちが現れたから予定を早めただけだし、時間に余裕はあるんだろ。さすがにダラダラと何年も過ごすわけにはいかないだろうけど、暫くはゆっくりしていいんじゃないか? ライアンも最後の休息って言ってたし」
「そっか! クルルさんたちが戻ってくるのも待たなきゃいけないし……久しぶりにゆっくりできるね! まだ二ヵ月も経ってないはずなのにカジノで働くのもなんだか久しぶりに思えるよ!」
「あ、働くんだ」
嬉しそうに笑みをこぼすアリスを見て、鏡も優しい笑みを浮かべる。改めて、アリスたちと過ごす時間の大切さを噛みしめ、何のために戦うのかを確認すると、ポンッとアリスの頭に手を置いた。
「そういや、角の生えたお前を見るのも久しぶりだな。触っていい?」
「鏡さん、なんか言い方がいやらしい」
そうこう言っている間に、既に見えていたヴァルマンの街の壁門へと一同は辿り着く。門兵に指示を出して門を開いてもらうと、メリーは目を輝かせて「な、なんじゃこりゃぁ⁉」と叫び声を上げた。
「す、す、凄すぎだろ⁉ なんだよこれ! アースクリ……ヴァルマンの街ってこんなにすげえのかよ⁉ 私が夢見た平和そのものじゃねえか!」
門を出た先に広がる大通りから既に見える煌びやかな海、その大通りに設営された露店と行き交う人々の活気を眼にして、メリーは興奮した様子で街の中へと駆けだした。
「んふー、やっぱこの街はいいわねぇ。賑やかなのに解放感があって、居心地いいわぁー。ケンタ・ウロスちゃんたちは元気かしら? カジノのスタッフの皆も」
「吹き通る風も気持ちいい……帰ってきたって感じがするねタカコさん!」
メリーの後を追って街中を歩くタカコとアリスも、激動だった日々の疲れを癒すように背筋を伸ばした。
「……随分と変わったねこの街も。魔族が人とあんなに仲睦まじく一緒に歩いてるなんて……昔じゃ考えられないよ」
「この街だけじゃないぞ? 他の街も少しずつだが交友が進んでる……とりあえずカジノに行く前にタカコちゃんのバーに行くか? 少し休憩したいしな」
視線を促して確認を取ると、タカコは軽く頷いて答える。
「そうね、情報も整理したいし……こっちに戻ってきたら確認したいこともあったし」
「確認したいこと?」
「アースクリアじゃないとわからないことってあるじゃない? ……鏡ちゃんの身に起きたスキルの変化とかね」
そう言いながら放たれたタカコのウィンクを仰け反って回避すると、ガーディアンでの戦いで目覚めた、今も尚溢れ出すように湧き上がる力を鏡は握りこぶしを作ることで確認し、頷いてバーへと向かう。
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今後ともLV999の村人をよろしくお願い致します!




