全てをぶち壊して、ただ前に -6
「元々来栖に頼まれてたんだ。ここにもしお前が辿り着いて来栖が死ぬようなことがあれば、必要になるだろうから解放してやれってな。逆に、お前が死んだ報告が入ったら殺せって言われてたけど」
ライアンは「勝者に褒美が与えられるのは当然のことだ」と目を瞑りながら満足気につぶやき。うんうんと頷く。
「あ……アリス?」
「鏡さん……!」
解放された五人も、ここに来るまではどこか違う場所に閉じ込められていたのか、現状を把握しきれずにそれぞれ困惑した様子で状況把握に努めようとする。
直後、今どうなっている状態なのか理解するよりも早く、鏡は無意識のうちにアリスの元へと駆け寄って呆けた表情のまま抱きしめていた。
「アリス……アリス? アリスなんだな? ちゃんと……記憶あるんだよな? あの時のメノウみたいに……コピーじゃないんだよな」
「鏡さん……苦しい。苦しいよ! ボクはコピーじゃないよ! ちゃんと生きてる!」
確認するように鏡がライアンへと視線を向けると、ライアンは頷いてコピーではないと返した。
「言っておくがな……治療すんの大変だったんだぞ全員。ったく……治す方の身にもなれってんだ。特にそこの魔族の嬢ちゃんなんてギリギリだったぜ? 身体を構成する魔力があと少しでも抜けてたら身体が崩れてたぞ?」
それを聞いて、魔力を失ったメノウが光の粒子になって消えてしまった時のことを鏡は思い出した。そして、ナイフを刺されて出血はしていたが、アリスの身体は残されたままだったことも。
「メノウ……お前が守ってくれたんだな」
もしかしたら、最後にメノウが与えた魔力がアリスを守ったのかもしれない。そのおかげなのかはわからなかったが、それでもそう思わずにはいられず、鏡は言葉を漏らす。
「鏡さん……約束守ってくれたんだね」
「…………約束?」
「あ、そっか……これボクが見た夢だったや。なんかね、身体がどんどん冷たくなって、動かなくなった時にね、真っ暗な部屋で座り込む鏡さんを見たんだ。だから、精一杯励まそうとして頑張って……立ち直った鏡さんに言ったんだ。待ってるねって」
「そっか……悪いな。待たせた」
「ううん、大丈夫。信じてたから」
その時、アリスの血が付着していた鏡の胸元から、魔力と思わしき光が吸い込まれるようにアリスへと戻っていったのを見て、鏡は「まさかな」と苦笑する。
そして、ずっとそれだけを不安に感じていたのか緊張が解けたように「ふひ~~~」っと鏡は息を吐きだすと、「あー良かったぁー」と、いつもの調子でアリスの身体をポンポンと優しく叩き――
「さ、帰ろう。帰って寝よう」
踵を返してその場から去っていった。
「いや帰るな。俺たちの話を聞いてから行け。いや行くな、おい、ここにいろ!」
アリスが無事だったことで満足してしまったのか、鏡はアリスの手を引いて帰ろうとする。それを、その場にいたほぼ全員が殴って止めた。
「アリスちゃんばっかりで私とはハグしてくれないのかしら鏡ちゃん?」
「あ、お断りさせていただきます。俺よりふさわしい人がいると思うので」
「そうよね…………デビッドすわぁん! まさかあなたが来てくれるとは思ってなかったわ!」
「ふぉっふぉっふぉ……久しぶりですなぁタカコ様。さて、私もそろそろ帰りますかな」
「おい、俺のネタパクんなよ」
久しぶりに会えたことに感動しているのか、タカコは頬を赤らめ、デビッドは顔を青ざめた。
「映像でずっと見てはいたがどうして……デビッド殿が? それに……王様とミリタリア様まで。僕たちがいない間に何があったんですか?」
「久しいなレックス。まさか、お主ほどの男が捕まってしまうなんて……情けない」
「本当ですね。勇者というのもたかが知れているのですね」
「……相変わらずですね」
暫く見ない間に状況が大きく変わっていることに、助かった他の者たちは困惑する。しかし、自分たちのために駆けつけてくれたことをとりあえずは素直に喜び、安堵した表情を浮かべた。
「メリーちゃん! ごめん、ごめんねぇえ! あたしを許してとは言わないからハグさせて!」
「っば! お前胸デカいから邪魔なんだよ! おい離せ! 言っておくけどなぁ! 私はまだ全然許してないんだからな!」
まだどこかシコリを残しつつも油機はメリーが無事だったことに安堵し、メリーも嫌々言いながらも、自分のためにと考えを変えて行動してくれた油機に対して気恥ずかしそうに笑顔を浮かべていた。
「ハッピーエンドはまだ少し早いんじゃないかな?」
そこで、和やかな空気をぶち壊すように、来栖が言葉を挟む。
「余計なことをしてくれたね……ライアン。おかげで、面倒なことになった」
そう言いながら来栖は鏡に視線を向け、コツコツと足音を鳴らして近付いた。
鏡も身構えて近付く来栖に視線をぶつける。
「……どうして君は僕を殺そうとしない? 憎くて仕方ないはずじゃないのかい? それとも……僕を許すのかい?」
その問いに、鏡は目を閉じて考える。だがすぐに答えが出たのか、目を開いて来栖を見た。
「今回、お前が正体を知った人物を殺さないでおくことにしたのは、俺という存在がたまたま現れたからだろう? 俺じゃなったら……お前は殺してたんだろ? 今までもずっとそうしてきたように」
「だったらなんだい?」
「……殺しはしない。そうしないといけない理由があったんだろうからな……でも、他にもっと良いやり方があったはずだ。でもお前は、効率を重視して人の命を弄んだ……それは許されることじゃない」
「なら、早く僕を殺しなよ? 感情の抑制なんて……君の力を引き出すためには邪魔でしかない。感情に委ねて僕を殺した時……君という存在は完成する」
「しないね。完成なんてしない。完成した俺なんて、もはや俺じゃない。今の俺は俺のまま、終わりなく突き進む」
「愚かだね……今回君がここまで辿り着けたのは、君が感情に身を委ねたおかげだ。気付いていないとは言わせないよ? 憎悪、怒り……君を強くしたのはそれらの感情だ」
しかし鏡には、来栖が何を言っているのかがわからず首を傾げる。その反応が予想外だったのか、来栖は眉間に皺を寄せて「とぼけるつもりか?」と声を荒げた。
実際、鏡には何を言っているのかがわからなかった。鏡に目覚めた新たな力が憎しみや怒りで開花した力なのかと言われれば、否だったから。
「あなたはそこを勘違いしています」
その時、既に全てを悟っているのか見据えた表情でフローネが一歩前へと出る。
「あなたは鏡さんの力が、憎悪や怒りで高まったと勘違いしているようですが……違います。鏡さんを強くさせているのは……仲間を大切に思う心です」
「何を言っているんだ……君は?」
「仲間のために戦おうとする思いが強くなるほど、鏡さんはその意志に呼応した力を発揮する……私はそう感じました」
思い当たる節がないわけではないのか、来栖は一考した。ノアの地下施設の時も、そして今回も、憎悪や怒りとは別として、仲間のために戦おうとしていたのも事実だったからだ。




