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LV999の村人  作者: 星月子猫
第五部
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全てをぶち壊して、ただ前に -5

「……よぉ、また来てやったぜ」


 最初にここへ来た時とは違い、最上階に辿り着くのに時間は掛からなかった。ほんの数日前にここに来たばかりなのに、その光景は鏡にとって、もう何か月も前のことのように感じられた。


 光の粒子が行き交う壁に覆われた、円形に広がる出入り口のない部屋。崩した壁も、流した血も、失った仲間の姿も、数日前に残した戦いの痕跡は全て綺麗に消え去っていた。


 ただ一つ変わらず、中央に立つ来栖の姿を除いて。


「ふふ、まずは先に言わせて欲しい……コングラッチュレーション。素晴らしかったよ君の力は」


 ずっと来るのを待っていたのか、来栖はこちらに背を向けながらも、パチパチと手を打ち鳴らして大きな高笑いを上げる。


「……アリスは? タカコちゃんたちはどうした?」


「君も見てたじゃないか、僕がアリスちゃんを刺し殺す瞬間をね。君のお仲間も……僕がちゃんと処分しておいたよ」


 まるで悪びれた様子もなく、来栖が醜悪な笑みを浮かべた瞬間、ざわっとした嫌なものが鏡の全身に駆け巡った。


「教えてくれ。全部……お前たちが立ち向かおうとしている絶望も含めて全て」


 しかし鏡はそれをグッと抑えると、視線を来栖へと静かに向けて問いかけた。


 そんな激情せずに冷静であり続けようとする鏡を前にして、来栖はどこか腑に落ちない表情を浮かべると、残念そうに軽くため息を吐く。


「ラストスタンドの操縦席の入り口のボタンがどうして外にあると思う?」


 そして、不可解な問いかけを鏡へと投げかけた。


「古代の機械にうとい君に理解できるかはわからないが、普通搭乗型のロボットとは、外部からの侵入を防ぐために中からハッチを開くか、もしくは外部から特殊な信号を受け取らない限りは開けられないのが普通だ。じゃないと簡単に奪われちゃうからね」


 言われて鏡は目を細める。それは、元々気になっていたことでもあったからだ。


 フローネと最初に会った時、フローネ自身も鏡くらいの身体能力があれば接近してハッチを開けることは訳がないと言っていたように、わざわざ弱点を晒す必要性はないはずだからだ。


「ではここでクエスチョン。ラストスタンドは、なんのために作られたと思う?」


「なんのために……? 戦うためじゃないのか?」


「それはもちろんそうさ、でもそれは人類に対してじゃない。むしろ人類のためだけにあるからこそ、人間であれば誰でも中に搭乗できるよう……外に入り口が用意されているのさ。人の命を守るためにね」


「やっぱり、あんたたちが立ち向かおうとしている敵は……人じゃないんだな?」


「その答えを知りたいなら、僕を殺すんだね」


「……は?」


 不可解な言葉に、鏡は眉間に皺を寄せて困惑する。来栖の表情はいたって真面目で、冗談で吐いた言葉とは思えなかったからだ。


「言っただろ? 全てを教えるのは……僕を追い詰めたらってさ。君はまだ僕を追い詰められていない。僕にとって追い詰められたとは、僕自身が死ぬことだからね」


「殺して欲しいのかよ?」


「いいや? 僕も別に死にたくはないさ……でも君は僕を殺したいはずだろ? 大事な仲間を何人も殺されて憎いはずだからねぇ!」


 再び、鏡の内から黒くざわついた何かがこみあげる。その正体が何なのかすぐに鏡は理解できた。これが、憎悪なのだと。そして自分はこれに負けてしまったのだと。


「君の仲間が実はまだ生きていて……僕を殺さなければ死んでしまう状況にあるのだとしたら……どうする? 君は……どうする?」


「みんな……生きてるのか?」


「さあ、それも嘘かもしれない。でも、それが本当だったらどうする? 僕は真実を話さないことで自分の身を守っているんだ。だから、君は僕を追い詰められたとはいえない……」


「お前が死んだらその真実も聞けなくなるだろうが」


「別に僕が死んでも真実は知れる。そういう風に手回ししておいたからね……僕は約束を違えることはない。つまりだ。僕を殺せれば君は真実を知れるということだよ」


 その言葉に、鏡は目を見開いて拳を震わせる。


「どうした……ほら⁉ 僕を殺せ! 僕を殺さない限り……君は何度でも仲間を失う! 非情になりきれないようじゃ君に……未来はない!」


 まるでそれが望みかのように来栖は鏡を挑発し続けた。しかし鏡は、震える拳を静めて一度深呼吸をすると、アリスの姿を脳裏に過らせ、真っ直ぐに落ち着いた眼差しで来栖を見つめ直す。


「お前は……殺さない」


 その判断に、ティナとクルルは安心したように笑みを浮かべ、その一言を聞くまでは表情を強張らせていたパルナとデビッドも優しく笑みを浮かべた。


 最後に確認するように鏡が仲間たちに視線を送ると、全員が異論はないと頷いて見せる。


「……っは?」


 しかし、来栖にとってその展開は望んだものではなかった。不服な結末に眉間に皺を寄せる。


「アリスと約束したんだ。俺は誰も殺さないって、俺のまま……世界を救って見せるって」


「君は僕が憎いはずだ。殺さなければ、怒りを収められないはずだ! 僕は君の大切な仲間を殺した男だよ?」


「憎いさ。でもだからってあんたを今殺したって何の意味もない。メノウは……帰ってこない。なら、どうせ死んで無くなってしまう命なら、俺はあんたの力だって借りたい」


「何を言ってるんだ君は? ……いいか? 君はここで僕を殺さなきゃいけないんだ。それだけの覚悟と、冷酷さを持たなければあれには絶対に……!」




「もういいだろう来栖。充分だ。この村人は充分に可能性を見せてくれた」




 その時だった。部屋の中央に立っていた来栖を挟むようにして、鏡たちがいる場所とは反対側の位置に、車いすのようなものに腰をかけた老人が突如現れたのは。


「申し訳ありません。必要と思い……お連れ致しました」


 その背後には、ロイドが立っていた。


「……ライアン」


 老人を視界に映すと、呆れた様子でため息を吐きながら、来栖はライアンを睨みつける。

来栖がライアンに出る幕はないと失せるように忠告するが、逆に、ライアンはお前こそ出る幕はないと掌を来栖へと向けた。


 二人は睨み合い、緊迫した空気が数秒間流れるが、ライアンは「時間の無駄だ」とロイドに車椅子を引かせて鏡たちの前へと移動する。すると、ライアンは強張らせた表情を一転させ、優しい笑みを浮かべた。


「初めましてだな。俺はライアン。ライアン・ロード。ここ、ガーディアンを統べる……来栖と同じ立ち位置にいる男とでも言えばいいかな?」


「来栖と同じ……? 失礼ですけど……来栖のおじいちゃんか何かで?」


「おじいちゃん? こいつとか? ガッハハハハ! やっぱり来栖の提案通り、ボディを変えておくべきだったか……残念ながら、俺と来栖は同い年だ」


 来栖と同じ年齢というには、あまりにも異なる見た目の若さに事情を知らない一同は困惑する。


「凄かったよ。正直、この先数千年かけても見つからないようなとんでもなさだった。最初の頃はお前みたいなのが本当にいつか現れるのかとドキドキしていたが、良かったよ。ようやく現れてくれた」


 何を言ってるのか理解できず、事情を知らない一同は揃って表情を歪めて首を傾げた。その様子を見て、とりあえず話が進まないからと「まずは、落ち着いて話せる環境を整えようか」と、ライアンは指をパチンッと鳴らす。


 すると、部屋の中に青白いサークル状の光が5つ出現し、その中からタカコ、レックス、ペス、メリー、そしてアリスがすっかりと傷の癒えた綺麗な状態で姿を現した。


 その姿を眼にして、鏡は目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。

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