全てをぶち壊して、ただ前に -4
「はは……これが、彼の本当の力ですか…………来栖さん。あなたの考えはやはり正しかった」
諦めたのかロイドは盛大に噴き出して笑うと、こちらへと接近している青白い閃光に注視した。今回の一件の責任者の一人として、鏡がこれから何をしでかすのか、せめてその目に焼き付けようと瞬きもせずに。
だが鏡は、ガーディアンの陣営が設立されている地点から五十メートルほど離れた地点で突然立ち止まった。何を思い立ったのか、鏡は大きく息を吸い込むと、腰を深く落として殴りつける時に誰もがとるポーズで力を少しずつ溜め始める。
誰もがその光景に目を疑った。
ただ足を踏ん張らせただけで、雪に埋もれた大地に数十メートルにも及ぶ亀裂が走り、大地に零れ落ちる小さな石や雪の塊がその反動で地を離れて宙を舞ったからだ。
そしてそのまま、その場に立っているだけで目が眩んでしまうほどの力の塊が、大気が震わせて更に力を溜めていく。
ただ力を溜めているだけのはずなのに、大地の怒りを体現したかのような振動が発生し、周囲の雪は鏡から発せられる熱気で溶け落ち、地面が闘気によって砕かれ、数を増して上空へと浮遊していく。
最早、何が起きているのか誰も理解できなかった。それがただのチャージブロウでしかないことを知るのは、その場でただ一人、鏡だけ。
「ぜ、全員退避! 急げ! 早く逃げるんだ!」
直後、陣営に居た者たちは即座に鏡が狙おうとしている場所へと気付き、素早くその場から退避した。
敵前逃亡など、数々の強敵を相手に屈さず立ち向かってきた到達者たちのプライドが許さなかったが、すぐにロイドの判断は正しかったと安堵する。
それは、限界の限界の限界を超えて、今も尚限界を超え続ける規格外の男が撃ち放つ、人の限界という常識を覆し、神が定めた物理的な法則もその摂理をも打ち砕く、打たれた者はただただ存在を否定され、消えゆくことしかできないほどの力を秘めた――ただの殴打。
限界を超え続ける一撃
それは、どんな暴風を発生させる魔法よりも強力な風圧を発生させると、設立していた陣営の全てを上空へと吹き飛ばし、ガーディアンの壁面へとぶつける。
それだけでは終わらず、鏡の拳から発生した拳圧と闘気は、そのままガーディアンの鋼鉄で作られた壁面を押し潰し、まるでえぐり取ったかのようなクレーターを作り出した。
えぐり取られた部分からその内部に存在したダンジョンが剥き出しになり、中に居たモンスターたちの姿がチラホラと見えだすが、モンスターは一匹として外へと逃げ出そうとはしなかった。
そこにいた存在が、あまりにも恐ろしすぎたから。
その瞬間、見ていたガーディアンの到達者たちは一瞬だけだが脳裏に希望を過らせる。
これならば、あの絶望に対抗できるのではないのかと? 同じ恐怖と絶望を与えられるこの存在ならば未来を自分たちにも見せてくれるのではないかと活路を見出す。しかしそれよりも今は眼前に迫る鏡から逃げるのが先だと、誰もが無我夢中で足を動かした。
「やっべやりすぎた……だ、誰も死んでないよな?」
対する鏡は、自分でも突然身に着いたその力を制御しきれずに困惑していた。目の前の惨状を前にして、わたわたと誰かが巻き添えを喰らってないか心配そうに駆け回り始める。
まさか自分でも、空気を殴りつけただけで五十メートルも先にある物体を破壊できるとは思っていなかったからだ。
「一体……あなたの身に何が起きたのですか?」
その時、鏡の前にロイドが立ち塞がり問いかける。
顔を見て、鏡も一瞬表情を強張らせるが、すぐに何も問題ないかのように――、
「わからん。でも、諦めたくなかったからまた来ちゃった……それだけだ」
鼻でフッと笑って見せた。
「安心してください。あなたが何も考えずにぶっ放す前に皆さんは避難させておきましたから。誰も死んでいないはずですよ」
「そりゃ助かる。さすが優秀だな、レベル450の勇者様ってのは」
「あなたほどじゃありません。こっちはまだまだ戦力を残していますが、その誰もがもう戦う気はないでしょうね……それくらい、圧倒的でした」
本当に同じ人間なのかと確かめるように、ロイドは苦笑いを浮かべながら、呆けた顔であっけらかんとしている鏡を見つめる。
「私もそっちに加わりたいところですが……責務は果たします。それが組織というものですから」
そして、それだけ言い残すと、ロイドはガーディアンへと向かって逃げるように走り出した。鏡はそれを引き留めることなく見送る。ここで止めない方がむしろ、自分を認めさせることに繋がると判断したからだ。
「鏡さん!」
そして、戦闘が終わると共にティナたちが鏡の元へと駆け付ける。
「あたしたちの出番……一切なかったわね」
あまりにも圧倒的な力で到達者たちを蹂躙した鏡を見て、その凄さを伝えるのもめんどうになるくらい驚愕したせいか、疲れ切った様子でパルナはため息を吐いた。
「お主が悪人でなくて良かったと、ワシは今心底安心している」
「王よ、私も今敵でなくて良かったと凄く安心しています。実はさっき私のスキルを掛けて隙あらばちょっと復讐しようと思ったのですが、スキルを掛けても掛かってるのかわからないくらいステータスが高すぎて困惑しています」
「あんたら正直だな」
かつて敵として相対した日を思い出しているのか、シモンとミリタリアは遠い目でガーディアンを見つめながら呟いた。
「鏡……コレからドウスル?」
「とりあえず、タカコちゃんたちが無事かどうかを確かめたい。ウルガは獣牙族を仕切ってガーディアンの内部を散策してくれ、まだモンスターもいるみたいだから油断するなよ?」
「……ワカッタ、鏡は?」
「俺は最上階に行って来栖に会ってくる。まだ……タカコちゃんたちが生きているかもしれないからな……フローネ、油機、案内頼めるか?」
鏡の問いに、フローネと油機は頷いて答える。
「こちらです。転送装置を使って最上階へ一気に参りましょう。油機さん……例の物は?」
「ガーディアンの施設を扱うための装置のコピーなら作ってあるよ! こういうことくらいしか役にたてないからね」
懐から予め用意していたガーディアンの施設の装置を動かすための遠隔操作機を取り出すと、フローネはそれを受け取って先頭に立つ。
「これさえあれば私の権限で……行きましょう!」
そして一同は頷き合うと、フローネの誘導を受けてガーディアンの内部へと侵入した。




