そんな現実、認めたくないから-9
「今度は逃げません。誰も失わせたりなんかしません。仲間のためなら、私の大好きな人たちのためなら。やれるとこまでやってやります!」
部屋の片隅に置いてあったいつものリュックサックを背負い、魔導書を片手に準備はできてると言わんばかりにティナが、
「今度は私が……皆さんを助ける番です」
同じく準備はできているのか、杖を片手にクルルが、そして何も言わずに理解したと微笑を浮かべてウルガとピッタが頷き答える。
「さって、この場にいないアリスちゃんとか、タカコさんたちを返してもらいに行きましょうか?」
「悪いパルナ……皆が生きてる保証はないんだ。少なくともアリスは……」
「死んだ瞬間を見たの? ちゃんと確認した?」
「……いや」
「だったら信じなさい。それがあんたの取柄でしょ? まだ……確定してないんだったら尚更ね」
気合を入れるようにパーンっと鏡の背中を叩くと、パルナはついてこいと首をクイッと動かして部屋から立ち去る。それに一同も続き、一階へと降りて外に出ると、鏡は信じられない光景を目の当たりにした。
「なんだ……これ?」
そこに居たのは、ノアの地下施設に残してあった数十機にも及ぶラストスタンドをはじめとした大部隊だった。搭乗員の都合のせいか、百人足らずの人数しかいなかったが、ノアの地下施設に残っていたアースクリア出身の冒険者たち、レジスタンスに所属する一般人、そして獣牙族たちがまるで鏡を待っていたかのようにそこで待機していた。
同時に悟る。暖炉に火を焚きつけて煙まであげているのにも関わらず、ガーディアンの到達者たちがどうしてここをすぐに攻めてこないのかに。
「距離を離したとはいえ、時間を稼げているのは彼らがラストスタンドに乗って警戒網展開してくれていたからなんですよ。目覚めるのにもう少し時間が掛かると思っていましたが、……随分と早いお目覚めで助かりました」
するとフローネは、こんなにも信用を集める鏡が羨ましいのか、「命の危険も顧みずにあなたのために集ったんですよ?」と、微笑を浮かべた。
その場にいた者たちは口々に、「この世界を変えてくれるんだろ?」、「また起こしてくれよ、奇跡ってやつを」、「ようやく掴んだ未来への兆しなんだ、命を捨てても惜しくねえ」など、全員が勇ましく雄叫びをあげて鏡についていく意志を示していた。
「お前らって……いつ呼びに行ったんだ?」
「丁度日が変わったころですので……2日前ですね。鏡さんがあの一万人の軍勢と一人で戦い始めてから今日で6日目ですので……むしろ、その間まで何も出来ず、申し訳ありません」
深々と頭を下げようとするフローネに、鏡は「いや充分充分、俺……まだ生きてるし」と、慌てて顔をあげるように促す。その時、密集する部隊の中を掻き分けて、鏡の目の前に信じ難い人物が現れた。
「ふ、もっと……一人で戦いたかったか?」
「あんた……………………え? ん? え? マジで?」
その人物を視界に映して、鏡は瞬時に隣に立っていたクルルへと視線を向ける。するとクルルはどこか気恥ずかしそうな様子で「マジです」と、頷いて返事した。
そこに立っていたのは紛れもなく、ヘキサルドリア王国の頂点に立つべき男、シモン・ヘキサルドリアだったからだ。
「なんであんたがここにいるんだよ……え? 国は?」
「デビッドに誘われてな。安心するがいい……王位なら我が国が誇る第一王女に押し付けてきた。女王になれると張り切っていたぞ?」
「え、押し付けてきたって、えぇ……会ったことないけどクルルの姉ちゃんかわいそう……」
押し付けたことを全く悪びれていないのか、シモンは鏡の反応を見て「変わらんな」と大きな声をあげて高笑いした。その様子に鏡はクルルに視線を向けて困惑した表情を浮かべる。
対するクルルは、どこか気恥ずかしそうに顔を赤くして「お父様……」ともごもごとつぶやいていた。
「デビッドと王様……二人はどうしてここに?」
「私もいますよ?」
そして次に姿を見せたのは、シモンのために飲み水を取りに行っていたのか、片手に水の入った瓶を持ったヘキサルドリア王国内で公爵の位を持つ男性。ミリタリア・リモートだった。
「なんで……あんたまで?」
「忘れましたか? 王のために私は存在するのです。王のいる場所に私がいる……昔それで、あなたと一悶着あったでしょう?」
アースクリアと外の世界アースの事情を知る管理者の一人である王。その王より重たすぎるその使命を知り、付き従うと心に誓ったミリタリアを前にして、鏡は困惑しつつ「おっさんが三人も増えた」と、絵面的には全然嬉しくなさすぎる光景に表情を歪めながら驚愕する。
「デビッドに誘われたって言ってたけど……どういうことだ?」
「それは私からご説明させてくださいますかな?」
そこで、「ふぉっふぉっふぉ」と喋る機会を窺っていたのか、鼻から伸びた毛をいじりながらデビッドが前に出て鏡へと視線を向ける。
「皆様と別れたあの日……ダークドラゴンにより一人だけ地上へと戻ったあの時、私は既に決めていたのですよ。いずれ、カジノの管理も全て、私がいなくても回るように準備し、お役にたてられるだけの強さを得て……必ず皆様を追いかけると」
「でもなんで王様とミリタリアまで?」
「私も王に仕える身でしたからな。二度と戻れないかもしれないと報告しに参ったのです。この世界の全てを変えるであろう男のために、命を捨てに行くと……そしたらですね」
言い難そうにチラチラとシモンに視線を送りながらデビッドは髭をいじり続ける。すると察したのかシモンは軽くフッと笑い――、
「お前はワシが認めた唯一の人間だ。その男が世界を変えようと命を賭そうとしているのに、その可能性に賭けたワシが何もせずにのうのうと玉座に座ってるのが許せんくてな。ワシとて、全ての事情を知る管理者とはいえただの人間だ……人生に一度くらい、希望を抱いてぶつかってみるのも悪くないと思ったのだ。大冒険だぞ? まあそれに……我が娘もおるしな」
何故この世界に来てしまったのかの理由を明かした。
それを聞いて、クルルが手を頭に置いて「歳を考えてください」と大きなため息を吐く。
「そうか……あんたも、この世界の本当の絶望とやらを知ってるんだったな?」
「ああ……だがそれを話すことも許されていなかった。もっとも、お前ならそこにまで辿り着くだろうとは思っていたがな。それで……知りたいか? 何故、来栖様がお前たちにその絶望を頑なに話そうとしないのかも含めてな」
「いやいい。それはあいつの口から直接聞くつもりだ……あと一歩のところまで来てるんでな」
すると鏡は、ここからでもハッキリと見えるガーディアンの最上階へと視線を向ける。
「出来るのか? ワシらはここに来たばかりだが……来て早々にこの状況だ。フォルティニア王国の者たちはヘキサルドリア王国の者たちよりも遥かに優れていると聞く……そんな連中一万を相手に、お主に何か対抗できる手段でも?」
「さあな……わからない。けどできないとも思わない。何より……対抗できないからって諦めてしまう自分が許せない」
「ほお? 無論、この場にいる者たちも諦めてはいない。お前ならなんとかしてくれると信じてこの場にいるわけだからな……だが」
シモンがチラッと集まった部隊に視線を向けると、やはりまだ安心仕切ってはいないのか、所々で不穏な表情を浮かべるものたちがいた。
たとえ、鏡がレベル999を超えて何度も奇跡を起こし続けてきた存在とはいえ、一万人を相手に、たった百人足らずで挑むのは無謀でしかないと全員理解していたからだ。
「お前は示さなければならない」
「ああ……わかってる」
背中を押すようにシモンが語り掛けると、鏡は一歩前に踏み出してその場に集まってくれた者たちへと視線を向けた。




