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LV999の村人  作者: 星月子猫
第五部
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そんな現実、認めたくないから-7

『俺は、メノウやアリスを殺されて怒り狂った。もしそれで、俺が来栖や……来栖を支持する誰かを殺していたら、俺みたいな気持ちになる奴をまた生み出していたかもしれないんだな』


『本当にそう思う?』


『思うさ。来栖たちはレジスタンスや地下施設の皆を裏切ってはいたが……あいつ等はそうするしかないから、それが必要なことだからやっていた。あいつ等にとっての正義のためにやっていたんだ。本当の悪なんて……今回に限ってはどこにもいない。それぞれの考える正義がぶつかってるだけ……なら、来栖の正義を支持する奴らは、誰かが死ねば恨むんだろうさ。俺みたいにな』


 そんな、簡単なことも忘れていた。そう反省するかのような表情で鏡がアリスを見つめると、アリスは『思い出したんだね』と、嬉しそうに笑顔を浮かべた。


『そうだよ? あの時……ボクが来栖を殺しちゃ駄目だって思ったわけじゃない。鏡さんが教えてくれたから……鏡さんがそういう人で、そんな鏡さんにボクが憧れてたから、誰も死なせちゃ駄目だって思ったんだ。だから、ボクが優しいんじゃない。全部、鏡さんの優しさなんだよ』


 気付けば、アリスは鏡の目の前に立っていた。その意味を悟り、鏡は苦笑いを浮かべる。


『だからボクは、それを教えてくれた鏡さんに否定して欲しくなかったんだ。ボクが憧れた、鏡さんの生き様を』


『でも、もう駄目なんだ。どうあがいてもあいつ等には勝てない。何より、俺の命はもう…………だから、お前は俺を迎えに来たんだろ?』


 鏡の言葉に、アリスは苦笑いを浮かべて首を左右に振る。


 自分の想像していた返答と違い、鏡は眼を丸くして困惑した。


『もう一度聞くよ鏡さん。諦めるの?』


『諦めたくなんか……ねえよ!』


 その時、心の底から思っている言葉を叫び、アリスへとぶちまけた。


『でも、もうメノウも、お前もいないんだ! 俺が……守らなきゃいけなかった人たちはもういない! 俺一人がこれ以上戦ったところで……無駄に犠牲が増えるだけだ! それに……俺じゃあいつらには勝てない。俺が死ねば……全て終わらせられるんだ』


『本当にそう?』


『本当にって……?』


『ボクの知ってる鏡さんは、駄目だって思ったことがあっても、最後の最後まで諦めないで立ち上がって、そして……最後には希望を見せてくれる人だよ』


『今までのはマグレだったんだ……村人なんかにそんなこと、出来るかよ』


『役割なんか関係ないよ。村人だからなんなの? レベル999だから限界なの?』


 その言葉に、鏡は眼を覚ましたかのようなハッとした表情を見せる。それは、かつて自分が吐いた言葉だったからだ。


『答えなんか……自分次第なんでしょ? 大事なのは気持ちなんでしょ?』


 一つ、一つの言葉が鏡に重く圧し掛かる。それは全て、鏡がずっと志してきた生き様だったからだ。そして、ここで諦めるというのは、それを全て否定することへと繋がった。


『鏡さんはまだ助けなきゃいけない人たちがいるでしょ?』


『助けないと……いけない人たち?』


『大切なのは……ボクだけ? 違うでしょ? ボクの知ってる鏡さんなら……きっと違う』


 瞬時に、今までここに至るまでに出会った者たちとの記憶が呼び起こされる。


 まだ、パルナ、クルル、ティナ、ウルガたちが残っている。今は鏡を倒すことを優先して動いていないだけで、鏡が死んだのを確認すれば、きっと来栖はノアの地下施設で待つ皆をその手にかけるだろう。ノアを再び取り戻すために。


 それだけじゃなかった。まだ、タカコたちが生きている可能性は残されている。ここで諦めるというのは、その可能性すらも捨ててしまうことに繋がった。


『ほら、立ち上がって』


 まるで、誘うかのようにアリスは鏡へと手を差し伸ばす。


 そこに立っていたのは、かつて子供だった時のアリスではなかった。鏡の影響を受けて、大きく成長した姿のアリス。鏡を大切に想い続ける。鏡にとっても大切な存在。


『人を殺すのは簡単だ。でも、生かすのはとても難しい……か。俺に……できるかな?』


『できるよ。だって、できるまでやるのが鏡さんでしょ?』


『ああ、そうだな。俺は…………諦めない』


 アリスが向ける眼差しを見据え、その手を取らずに自力で鏡は立ち上がると、その肩をポンッと叩く。すると、鏡の耳元で『待ってるから』とアリスは囁きかけて、再びその暗闇の中へと姿を消した。


 さっきまでアリスが立っていたその場所に、魔力による光の粒子をその場に残して。


 そしてそれは最後に、アリスの血が付着していた、鏡の胸元へと吸い込まれていった。



――――――――――――――――――――――




「…………ここは?」


 目が覚めると、鏡はベッドの上で眠っていた。


 そこがどこなのかはわからなかったが、ふと窓に視線を映すと雪景色が広がっており、ここがロシアであるということだけはかろうじて認識する。


 ロシアのどこか、廃墟となった家屋の中の一室。近くにあった円形のテーブルの上には、布の入った籠に朧丸がスヤスヤと寝息をたてて眠っていた。


 目の前の暖炉の中では、パチパチと木炭が燃やされており、心地の良い温度が部屋中に満たされている。


「おや、ようやくお目覚めですかな?」


 窓のある位置とは逆側から、どこか聞きなれた気品のある低い声が耳に入る。


 すぐさま振り返り、声の主を確認して鏡は眼を見開いた。


「で、デビッド⁉」


 貴族の使用人が好むスーツを身に纏い、貴族でも流行のウェーブのかかった黒髪、鼻から伸び出るダンディーな髭、死んだ魚のような目をした人物を見間違えようがなかった。


 鏡が起きるのを待っていたのか、デビッドは片手に本をもち、優雅にお茶を飲みながら椅子に座っている。


「ふぉっふぉっふぉ、お久しぶりですなー……三年と半年ぶり、いや鏡殿からすればもっと短いのでしたかな?」


「なんであんたがここに? 俺は……一体?」


「いやーこの世界に残っている書物は実に面白いですな! 過去に存在した遺物の情報がびっしりです! まあ、文字が読めないので雰囲気だけで全く読めていませんが」


「答えろデビッド!」


 昔と変わらない調子で、話をはぐらかそうとするデビッドを前に鏡は声を荒らげる。


 その瞬間、部屋の外からドタバタと慌ただしい音が響き渡り、直後、バンッ! と勢いよく扉が開かれた。


「「鏡さん!」」


「お父!」


 そしてそこから、まるで射出されたロケット砲のごとくクルルとティナとピッタの三人がほぼ同時に鏡に向かって飛び掛かった。


「ぐはあぁぁぁああ!」


 まだ傷が癒えていない腹部へと、クルルとティナのヘッドパッドが命中し、苦痛に満ちた表情で鏡は息を噴き出す。


「ほぁ……これはクリティカルヒットですなぁ」


 その様子を、楽しげな様子でデビッドはお茶をすすりながら眺めていた。

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