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LV999の村人  作者: 星月子猫
第五部
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そんな現実、認めたくないから-3

 もっと正直に生きろと訴えかけてくるメリーの視線に耐えきれず、油機は後ろめたそうに視線を逸らす。


「納得してないのに嫌なことやり続けんのかよ? それがお前たちの言う目的にとって良い結果になったとしても……お前の人生には関係ないんだろ? フローネがそう言ってた……今はどうしようもなくても、将来世界が救われるために皆、自分を犠牲にしてるって」


「そうだよ……私も、皆も、今じゃない未来のこの世界のために全てを諦めて戦ってる。どうせ今頑張っても無駄だから」


「でも、嫌なんだろ?」


「嫌に……決まってるじゃない! でも……そうするしかないから! そうしないと……結局皆死んじゃうから。メリーちゃんだけじゃない、皆、皆! この世界にいる全ての人が! だからどれだけ嫌でも……やらなくちゃいけないんだよ!」


 ずっと溜めていた気持ちを吐き出すように、油機は叫び声をあげた。すると、それが聞きたかったとメリーは満足そうに微笑を浮かべる。


「私は正直、お前の言うそれが何なのかわからないからやっぱり共感はしてやれねえ。でも、その言葉を聞けて良かったよ。つまりあれだろ? そんなことしなくても世界を救える方法があるならそっちをとるんだろ?」


「……当たり前だよ」


「なら……鏡を助けてやってくれよ。あいつにその可能性があるから、来栖はあいつを試しているんだろ?」


「そうだけど……駄目だよ。……それは可能性でしかない。鏡さんが一人で勝てなかったらどっちにしたってあれは倒せない。星喰いは、デミスは……倒せないんだよ」


「星喰い……デミス?」


 初めて耳にするその名を聞いて、メリーは困惑した表情を見せる。レックスとタカコも顔を強張らせて、来栖たちが脅威としている存在の名に耳を傾けた。


「鏡でも、その星喰いってのは倒せないってのかよ」


「わかんないよ……だから可能性なんだ。掴めるかもわからない未来のために、全てを台無しにすることなんて……出来ない」



「それは、あなたが恐れているだけなのではないですか? 可能性を信じて失敗した時のことを」



 牢の中にいるものとは違う声が通路側から聞こえ、油機は咄嗟に顔を振り向かせる。


「本当は知るのが怖いのでしょう? 失敗し……全てが無駄だったと知ってしまうのが。だから、自分の一生の間では結果すらわかりようのない来栖に加担する。来栖が歩む道も……鏡さんと同じく一つの可能性でしかなく、失敗で終わることだってあるはずなのに」


 自分の心の内を言い当てられた気がして、油機は表情を歪める。姿を現したのは、鏡たちに雪の中へと埋められて以降、行方不明になっていたフローネだった。


「なるほどね……最初からこうなることがわかっていたのかしら?」


 タカコが閉じ込められている牢の前にフローネが立ち止まると、タカコは納得したように微笑を浮かべた。


「最初からこうなると予測していたわけではありません。状況は常に変化します……私がしたのは、最善の一手を打てる環境を整えること。傍観者となり、あなた方だけではなく、来栖たちの出る行動も観測することです」


「……今がその一手を打つためのタイミングってことかしら?」


「いえ……残念ながら、もう打たざるを得ない状況と考えてもらった方がいいでしょう。モニターを通して外をご覧になっているならば、理解できるのではないでしょうか」


 フローネが何を言わんんとしているのかがわかり、タカコは再び表情を強張らせる。それは、黙って傍観しているほどの余裕が、鏡に残されていないことを物語っていた。


「何しに来たんですかフローネさん。まさか、ここにいる皆を逃がすために来たわけじゃないですよね?」


「いえ、そんなことをすれば即座に牢からの脱獄がばれ、警備にあたっている到達者の皆さんに囲まれてしまう……皆さんをお連れしての脱出は困難でしょうね」


「じゃあ、どうしてここに?」


「用があるのはあなたです、坂上油機さん」


 一瞬、騙すための嘘かと油機は思考するが、それならばわざわざ自分がいるこのタイミングでこの場に訪れる理由もなく、結局何が狙いなのかわからず困惑した表情を見せる。


「あなたが、ここに来るのを待っていました。ここであれば人の目もありません。通路側に設置されているカメラも私の権限で映さないようにしています。……メリーさんとお話されていたようなので少し待っていましたが、もう時間がありませんので出しゃばらせていただきました」


「私に……用?」


 その時、問い返し首を傾げる油機に、フローネはスッと手を差し出した。


「鏡さんを助けます。それを手伝ってください。一人では……どうしようもないのです」


「……は?」


 わけがわからず、油機はたじろいで一歩後ろへと下がる。フローネの顔を真剣だった。騙そうと考えているわけでもなく、何か隠そうとしているわけでもなく、真っ直ぐに油機を見つめていた。


「どうして……あたしなの? というより、どうして鏡さんを助けるだなんて⁉ 来栖を……いや、来栖だけじゃない……ガーディアンにいる皆も裏切るつもり⁉」


「あいにく、私のマスターは来栖ではありません。ライアン様です。ライアン様は私の思うように動けばいいとおっしゃいました」


「だからって……どうして⁉ まだ来栖の試練は終わってないんですよ⁉」


「試練を乗り越えたところで、可能性は可能性です。さっきも言いましたが、どの選択を取ったとしても失敗のリスクは必ず存在します。それに……もう充分、鏡さんという可能性をこの目で確認させていただきました。あの人は……ここで死ぬべきじゃない」


「ここで死ぬべきじゃないって……もし本当に可能性があるなら死ぬことなんてないはずですよね? なら、あたしたちが出る幕じゃ……!」


「それは、その時点での可能性が低いというだけで、早々に見切りをつけているだけではないのですか?」


 まさしくその言葉は油機がずっと引っ掛かっていた部分だった。本当にこれでいいのかと迷ってしまっている原因。ここで死んでしまえば本当にそれこそ全てが終わる。だがここで死ななければ、より大きな存在になってくれるのではないかという期待。


 そして試練を乗り越えられなかったとしても、今の鏡の力でも未来を切り開けるのではないかという小さな希望。それがずっとチラついていた。


「来栖は勘違いしています。……鏡さんの力が高まっているのは感情のぶれであり、怒りや憎しみを抱けば抱くほど強くなると考えています。そして、怒りや憎しみが最大限に高まっている今こそが鏡さんの全ての力であり、試練を乗り越えられなければもう芽はないと切り捨てようとしているようですが……それは違う」


「違うって、そんなはずないです……! 実際、鏡さんは仲間を殺されて、人質まで取られて、怒り憎んでるから今も強く……!」


「怒り憎んでるのは確かにそうなのでしょうが、戦っている理由は違うでしょう?」


 それを聞いて、ハッとしたような表情を油機は浮かべる。鏡が強くなっていた要因が、別にもう一つあることに気付いたからだ。


「私に声をかけたのは……どうしてですか?」


「その理由なら、先程、メリーさんが説明していたではないですか。あとはあなたが勇気を出せるかどうかだと思ってます」


「失敗……確かにそうかもしれません。理由をつけてずっと逃げてただけ。それが正しいからって、失敗を恐れて本当はあったかもしれない別の方法に目を瞑り続けてただけ」


 その時、油機はメリーの顔を見て辛そうな表情を浮かべた。


 ここに来たくなかったのは、切り捨てることになってしまうメリーの顔を見るのが辛かったからだ。しかし、そのメリーを失わずに済むかもしれないと考えた途端、抑えていた申し訳ないと思う感情があふれ出して止まらなくなった。


 それを見て、フローネは再び手を差しのべる。


「鏡さんが必ず良い結果を出してくれるとは限りません。ですが……信じても良いと私は判断しました。可能性は低いかもしれません、ですが……だからといって傍観しているだけではその可能性すら掴めないまま終わってしまいます。他力本願で行動に移さない者に……未来を切り開けるはずがないのですから」


 油機は地下施設ノアで皆を裏切ってしまってから、心にモヤモヤとしたものが残り続けていた。だがそれはまだ晴れておらず、それを晴らすにはまず可能性を掴むことからなのだと覚悟を決め、油機はフローネの差し出した手を取った。


「やるよあたし……もう逃げない。失敗してもいい、どうせ同じ可能性なら……自分が信じたほうを進みたい。こっちなら、あたしが夢見た生活も送れそうだから」


「奇遇ですね……私にも夢があるんですよ。私……これでも裁縫が得意で自分の店を持ちたいなって思ってたんですよ? アースクリアを出るまでは全てが終わったらって……。お互い様です。諦めてしまった夢を追い求めるために、今は……!」


 油機はフローネと頷き合うと、そのまま視線をメリーへと向ける。


 メリーは何も言葉を発しなかったが、微笑を浮かべていた。それで全てを悟り、「待ってて」と声を掛けた後、フローネの後を追って、ラストスタンドを保管している格納庫へと向かって走り出した。

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