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LV999の村人  作者: 星月子猫
第五部
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敗者への現実-12

「彼らはどうしますか?」


「君が今しようと思っていることをしてくれればいい。それが僕も望むことだ」


 予想外の返答だったのか、ロイドは少し呆けた表情を浮かべる。


「なにかなその顔は? 言いたいことはハッキリと伝えよう」


「いえ、徹底するのかと思っていたので少し以外に思えました」


「君はさっき演技と言ったよね? 演技というのは人を騙すためにあるのさ、楽しませるにしても、裏切るにしても、隠し通すにしてもね」


 そう言いながら来栖は、地面に這いつくばるアリスの元へと寄ってその身体を抱き上げる。


「演技は終わった。これから待っているのは現実さ。彼女たちが死ぬか、それとも生きるかは彼のこれから次第。仮に乗り切った時は……彼女たちが必要だからね。そうこれからが本当の戦いさ、無論僕は……ここからは本気で彼を殺しに行くつもりだよ」


「今までのは下準備というわけですか? 随分と残酷な下準備ですね……僕でしたら、きっとこの時点で全てを諦めて希望を失わせていますよ」


「彼を舐めちゃいけないよ。予想外がコンセプトみたいな男だからね。彼は必ずその憎しみを糧に……完成する。手をぬくつもりはないけどね」


 抱き上げたアリスをその場にいた他の者に渡すと、その者は来栖に支持された場所に連れて行くために青白い光に包まれて部屋から消え失せる。


 すると、来栖はこの先を起こるかもしれない展開を想像して嬉しくなったのか、再び鏡が消えた空を見上げて醜悪な笑みを浮かべた。


「憎しみを力に変える強さ……必ず手に入れて見せるさ。万が一にだけど……もしかしたら彼女は必要になるかもしれないからね、是が非でも今は生きてもらわないと」


 そんな来栖を、ロイドは悲し気な表情で横目に見ていた。どんな言葉をかけたところで、来栖の考えを変えることは出来ないのだろうと、己に無力さを感じさせながら。


「……かわいそうな人だ。あまりにも」


「誉め言葉だね。自分の考えがぶれていないことを実感できる」


「僕が言ったのは、あなたが考えているのとは違う意味ですよ」


 ロイドはそれだけ吐き捨てると、青白い光に包まれて部屋から姿を消した。何のことかわからず来栖は一瞬首を傾げるが、気を取り直して雪が降り注ぐ外へと視線を向ける。


「さあ……試練の始まりだ」



――――――――――――――――――――――



「……タカコちゃん、レックス、ペス、メリー…………アリス」


 穴の開いた天井から降り注ぐ雪を見つめながら、かすれた声で鏡は失った者の名をつぶやいた。


 運よく投げ飛ばされた場所が良かったのか、それともそこを狙って投げたのかはわからなかったが、鏡は生きていた。ガーディアンから数百メートル離れた地点、廃墟となった街の中へと投げ飛ばされた鏡は、運よく雪の降り積もった建物の屋根へと落下した。雪と屋根がクッションになることで落下の衝撃に耐えきったのだ。


 生きてさえいれば、どれだけ過酷な環境の中にいたとしても、スキルの力によって鏡は徐々に体力と傷を癒すことが出来る。


 しかし、心の傷は別だった。


 鏡には、最早立つだけの気力が残されていなかった。このまま死んだらどれだけ楽なのだろうかと考えてしまうほどに。


「どうして……俺なんか助けたんだ」


 来栖からすべての話を聞くために、断固としてこの地へと行く意志を示したのは自分だった。きっとその情報を引き出せると思っていた。いつものように必ず何とかできるという自信があった。だから、多少の無茶でも自分さえいれば何とかなると思っていた。


 その結果、皆を失うことになった。


「……ッウ」


 腹部にべっとりと染みついたアリスの血を見て最後に視界に映したみんなの姿を思い出し、鏡はたまらなくなって胃からこみあげてきたものを地面へとぶちまける。


 自分を助けるために、まともな回復手段も持たないのにボロボロになるまで逃げ道を作ってくれたタカコ。そのタカコをサポートするため、大きく実力差のあるロイドの攻撃から身を挺して守ったレックス、そしてペス。


 ただの人間なのに、勇気をふり絞って戦おうとしてくれたメリー。


 腹部をナイフで貫かれ、血を大量に流し、目から光を失わせて横たわっていたアリス。


 それらを思い出して、鏡は言葉にならない雄叫びを上げた。


 来栖に話を聞くだけだから少人数で行こうと、どうせ人数が多くても敵地への潜入なら変わらないからと、中途半端な人数で来てしまったのが、そもそもの間違いだったのだと鏡は後悔した。少ない人数であれば、自分の力をもってすれば守れると驕っていた。


 とはいえ仮に、全員で来ていたなら状況は変わったかと問われれば、それも否だった。ガーディアンの人間は、フローネが言っていた以上の力を持ち合わせていたからだ。


「一人で来るべきだったんだ……!」


 結局、無駄に犠牲を増やしただけだった。


 死ぬのは自分だけで良かった。失敗して、大切な仲間を失ってようやく気付く。自分の愚かさに。弱いから、村人だから、強くなろうとしていた。でも、いつの間にか自分は強い存在になったのだと勘違いしていたのだ。何でも乗り越えられると驕っていた。


「何を……勘違いしていたんだ。俺は……ッ!」


 目を閉じると、浮かび上がってきたのはアリスの顔だった。


 どうしてそこで、アリスの顔が浮かんできたのかはわからない。アリスだけじゃなく、メノウ、タカコ、パルナ、レックス、クルル、ティナ、デビッドと、皆で共に過ごしていた日々が次々に思い浮かんできた。


 だがそれは今更すぎた。もう、その日々は戻ってこないのだと、必死に顔を振って掻き消そうとした。今やるべきことは、昔の思い出に浸ることではなく、まだ取り戻せるかもしれないもののために動くことだと、鏡は制限解除の反動で震える身体に鞭を打って立ち上がった。


「……冗談。だろ?」


 それと同時に、絶句した。


 落下した建物の窓からガーディアンのある場所へと視線を向けると、そこにとんでもない光景が広がっていたからだ。


 恐らく、鏡を仕留めるために結成された部隊なのだろう。確実に、誰一人犠牲を出さずに息の根を止めるために、来栖が用意したであろう部隊。


 その最前列には、ロイドが立っていた。そこから予想できるのは、そこにいる全員がガーディアンに所属するアースクリア出身の到達者であるということ。


「フローネ……どこが数千人なんだよ」


 かつて、一万のモンスターと対峙したことのある鏡にとって、それがどれほどの脅威であるかは容易に想像できた。


 眼前に迫っていたのは、一万のモンスターではなく、レベル100を超え、到達者と呼ばれるほどの実力を持った一万を超えるアースクリア出身の者たち。


 鏡の絶望は、まだ始まったばかりだった。

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