終わりの見えない道-10
徐々に視界が慣れ、小柄で男勝りな女性の全貌を一同は捉える。橙色に輝く艶やかなセミロングの髪、まるで人形のかのように整った小顔のフェイスライン、まるで貴族の令嬢かのように端麗な容姿にも関わらず、その眼差しは何度も死地を経験したかのように鋭く、狼のような眼をしていた。
服装も鋭い眼に合わせたかのようにバンダナが首元に巻かれ、手には黒のグローブ、身動きの取りやすそうな半袖のカーディガンとTシャツ、藍色の短パンと灰色のブーツを身に着け、素肌の見えている太ももには見たことのない形のホルダーを装着し、そこには鈍い光を放つ黒い物体が差し込まれていた。
「今回は粒揃いじゃないか、そこの金髪のイケメンのあんた……佇まいからして勇者だろ?」
小柄な少女は小さな唇をにやつかせるとレックスへと近付き、物色するかのようにレックスを見回してそう言い放つ。突然現れた二人に警戒しながらも、レックスは下手に動くことなく相手の出方を待った。
「そこの藍色の髪のあんたは……魔法使い? いや……服装からしてまさか賢者?」
小柄な少女は信じられないといった顔つきでクルルへと視線を向ける。少女からの問いにクルルは頷いて返事すると、「うっそ⁉」と喜んだ様子で少女はクルルへと飛び出すように近付く。
「あは……! まさか勇者と賢者とセットで来てくれるなんて! しかもそこの筋肉質なあんたは武闘家でしょ? そこの白い服の子は絶対に僧侶! そこの魔法使いっぽい服着てるあんたは言うまでもなく魔法使いだろうし……凄い……凄いパーティーじゃないか! こんなに戦闘に特化した役割を持った連中が出てくるとはな!」
すると小柄の少女は、さっきまでの緊迫した空気感を解き、興奮した様子で一同を見回し始める。その様子を見てヤレヤレと溜息を吐きながら、背後に控えていた背の高い女性が一同へと近付く。
「結局メリーちゃんの方が興奮してるじゃん」
「うるせえ! 私の代でこんな凄い連中が来てくれるなんて思ってなかったから、ちょ、ちょっと感動しただけだっての……」
「おほぉ……! 照れちゃって、かわいいねぇメリーちゃん」
「撃ち殺すぞてめぇ」
パルナくらいの身長のある女性は、まるで何かの作業員かのような服装をしており、上半身はヘソを見せた黒色のタンクトップ、少しダボダボな草色の作業服のズボンとそれに合わせたかのような貧相なブーツ、腰元には工具が入っているのがわかるポーチを下げ、背中には巨大なスパナが背負われている。
地味な服装に反し、顔は親しみやすいパッチリと開いた紺色の瞳、思わず目を向けてしまう派手な薄桃色のショートヘアにはゴーグルが着用され、容姿もメリーと呼ばれる女性に劣らず整っており、パルナに負けずバストがあるせいか、地味なのに派手な印象を受ける不思議な格好をしていた。
「いやはや急にごめんね? あたしは皆の案内役を任せられた坂上 油機。油機ちゃんって呼んでくれたらいいから。それでこっちの小さいのがメリーちゃん」
「ちゃん付けするんじゃねえ。私はメリー・マズメリアだ。メリーでいい。……よろしく」
メリーと油機が自己紹介と共に軽く頭を下げたことにより一同は警戒を解き、各々二人に続いて自己紹介を行う。
「メノウさん……それとアリスちゃんか、気になってたんだけど二人の役割は何なの? メリーちゃんも二人のことはスルーしてたし」
「我々は魔法使いだ。パルナ殿とクルル殿に比べれば劣るがな」
油機の突然の問いにアリスは困惑したが、メノウはまるで迷う素振りも見せずにそう言い放つ。
「あー……確かに言われてみればそれっぽいかも。服装があまり見たことがなかったからわからなかったや」
來栖の話を聞いた後、メノウはこの世界での立ち回り方を一番最初に考えた。魔族である自分は、あのアースクリア内には本当は存在しない。存在しないはずなのに、この世界に生まれた。正体を明かしたくない理由は色々あったが、今はそれを気取られたくなかったメノウは、そういって誤魔化した。何より魔族であることを明かしても、無用な混乱を招くだけだと考えたから。
アリスも、どうしてメノウがそういうことにしたのかをすぐに悟り、「うん、そうだよ」と笑みを浮かべて返す。どうしても気取られたくなかったから。
「とことん攻撃特化のパーティーね。それより……クルルだっけ? あんたヘキサルドリアって言ってたけど……それって国の名前よね? あんたもしかして……管理者? な訳ないか、ここにいるんだし」
「ええ、私は管理者じゃありません。それは……お父様のことです」
「へぇー……とんでもないのが外に出てきたじゃん。まあ王国の管理者ってアースクリア内にいる人間がやるから、出て来ても変じゃないけど」
「そう……なんですか?」
「あんた何も知らないんだな。人間の管理者はアースの事情とか、アースクリアの事情を全てを知れる代わりに王族って役割になるんだ。王族はアースに出てこれない代わりにその世界で最高の権利を保障される。まあ同時にアース側の人間に管理されることになるから、下手なことをすれば殺されちゃうんだけどね、あんたも王位を継承してたのならそうなってたかもよ?」
予想外の真実に、クルルは絶句する。そして、かつては自分を洗脳して魔王討伐に向かわせようとしていたとはいえ、その重すぎる責任に耐え続けていた日々の苦しさを想像し、「……お父様」と、クルルは自分の父親をその苦しみから解放するためにここにいるのだと、使命感を抱かせた。
思えば、父親に心酔していたミリタリアも、それを知っての行動原理だったのだろう。
「人間社会をまとめて思い通りに動かそうと思えば、同じ人間で絶対的な権力を持った存在がやるのが一番なのはわかるけど、自分の父親がそういうのに縛られてるってのは娘あんたからすれば辛いよな。とっとと解放してやるために、あんたもこれから頑張ってくれよ」
思いがけず放たれたメリーの気遣いに、クルルはきょとんとした表情を浮かべる。
「な、なんだよ?」
「いえ……優しいんですね」
「なんだよ、普通のことだろ? 生きたいように生きれないとか、かわいそうだろうが」
メリーはどこか気恥ずかしいのか顔を背けると、「わかったらついてこい、案内してやる」と言い放つ。まだあったばかりだが、なんとなくメリーの人間性を窺うことのできたクルルは、軽く微笑を浮かべると言葉に従い、素直にメリーの後を追って部屋を出た。




