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6.作戦は完璧なのです

長くなりましたが、守たちが出番はまだ先になります。もう少しお付き合いください。

「つまり本隊をおとりにするわけか」

「その通り。守りの厚い正面にあえて軍を展開、敵を牽き付け少数で側面を攻撃する。しかしそれも陽動だ。さらに少数でいいから最も薄いであろう湖側から攻撃を仕掛ける。まさか我々が水軍を擁しているとは思っていないだろうからな。敵方の混乱は必至だろう。それに乗じて一気に攻め、城門が破壊出来た時点で我らが勝利だ。」


 新進気鋭の万人隊長メッセ・アインとライル・ヒルトは個人的な作戦会議に熱が入っていた。皇帝が来るまで包囲待機を命じられた以上、空いた時間を出来ることを費やすのは現場責任者の責務である。万人隊長である彼らの責務はいかに味方の損害を少なく敵地を攻略できるかにかかっている。


「中々非凡な作戦だ。ここに到着後、直ぐに船を作らせていたのはそのためか。だが、守りが薄いと言っても全くゼロではあるまい。どうやって上陸する」


 メッセの疑問にライルは自信をもって答える。


「そうだ。この作戦の課題はいかに湖側に損害なく上陸できるかにある。そこで上陸は深夜に行う。人数は多くても十名程だ」

「ばかな!そんな少数であの城塞都市を落とせるのか」

「混乱させるのが目的と最初に言っただろう。自分が防衛担当者だったらどう思う。敵の大兵力が今にも迫ってくる中で内側に敵のスパイがいる。人数も分からない。もしかしたら門を内側から開けられるかもしれなし、自分が暗殺されるかもしれない。味方を信用できず、疑心暗鬼に駆られた者の顔を見てみたいな」


「ふはははは」と笑うライルを横目にメッセはこのあたりで唯一の森に目を向ける。そこで潜入用の船を作っている。


「このあたりは我々の故郷に似ているが、あそこを除けば畑と草原が広がっているだけだ。城壁の建築に使えそうな岩石もない。いったいどうやってあの街を作り上げたのか」

「いろいろ気にする男だな。だが、それについては噂を聞いたことがある。一〇〇年以上前、この地にたどりついた一人の青年によって、まだ村落しかなかった辺境の地を開拓した。その開拓技術は画期的で算術と占星術を用いあっという間に巨大な街を作り上げたそうだ。詳細は分からぬがほとんど事実らしい」


 その時、開墾すると同時にこのあたりの資源は街に建設に使われたという。もう少し規模大きく街の規模がさらに巨大なら神話の域である。グランチェの街はそう思わせる何かがあった。

 

「話がずれたな。潜入用の船はあの街の漁船に似せねばならないが、船を作らせているのは誰だ?それこそ我々には造船技術者なぞおらんぞ」

「ふふ、実はグランチェの、その方面に明るい者を買収してある。もちろんそいつはこの周辺の地理にも城内の地理にも詳しい」


 突然の告白に驚くメッセ。


「いつの間に!まさかここに到着してから買収したとか言うんじゃなかろうな?」

「もちろん時間はかけたさ。ドルフを攻めるもっと前からな。遠征が決定されたとき、当面の戦略目標はグランチェになることは分かり切っていた。あの街の噂は帝国まで届いていたからな。豊かな街で攻めがたい要塞ということも。万人隊長としてやるべきことは、いざ攻めるときにいかに楽して勝つことだ。騎馬兵が突撃して戦場を引っかきまわしていた時代は終わったのさ」


 本隊の参謀的役割を果たしていたライルは最近台頭著しいヒリツへの強烈なライバル心があった。周到な計画を立て、マールバラ王国占領までのロードマップは出来ていた。

 しかし主将たるウランバルが何を思ったか無意味な突撃を繰り返し、本隊の二割近い兵力を損耗させたのである。百戦錬磨のウランバルがこのような愚かなことをする理由がわかなかったが、風の噂でヒリツとウランバルが対立していたことが耳に届いた。

 だとしたら死んで言った兵士のなんと惨めなことだろう。個人的な感情により間違いを正すために命を散らせたのである。兵士の無念はなんとしても晴らさなくてはならない。ライル・ヒルトは固く誓っていた。

 とは言っても皇帝から待機を命じられているので動きようがなかった。この振り上げた拳よりも強い怒りはどうすればよいか。いつでも作戦が発動できるように準備していたことは上述の通りである。

 メッセ・アインは感心して同僚を見据える。


「貴公の執念はよくわかった。順序が逆になったが、やっと本来の働きを見せてくれるというわけだな。しかし、これほどの作戦、俺にも秘密にしていたとは水臭いぞ!」

「作戦自体は完璧だが、情報漏洩というものがあるからな。知る者は実行部隊とその長だけでいいのさ。今日にも準備が整う予定だ。皇帝陛下の命令がありしだい作戦を開始する」


 ライルは誰が見ても意地悪な、言い方を変えれば狡猾な表情を浮かべ、船が作られているはずの森を見据えた。

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