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4.ウラヌーフ帝国

次話との整合性が取れなくなってきたため、一部セリフを加筆しました。

 中央大陸東北部に端を発した遊牧民族ウラフの民は破竹の勢いで進撃を続け大陸東部をほぼ征服、ウラヌーフ帝国を建国した。この周辺に古くからある大国はいくつもあったが、全兵士が騎兵という当時の常識を覆す用兵に対応できず滅ぼされることになる。第二代皇帝ウルム・カリファ(カリファは王を指す)は大陸を完全に征服すべく、古より大陸東部諸国と争ってきた大陸西部に目を向けた。東部と違い西部は同一の神を信じ、古代統一帝国の版図を引き継いでいたため文化的にも類似している国々が多かった。にもかかわらず、彼らは同胞(東部の人間にはそう見えた)同士でダラダラと争っている。

 大陸東部は我が帝国が征服した。長きにわたった対立に終止符を打ってやろう。ウルム・カリファの決意もあった。歴史を見れば、東部と西部は二度大きな合戦を行っている。いずれも西部が勝利し境界の街々は蹂躙された。何度かの小競り合いの末、勢力は一進一退し、うやむやの末過去の統一帝国は解体、それぞれ戦乱の時代を迎える。しかし、東部は再び統一した。これを機に我々が世界を統一すべきだ。古より西部諸国に苦しめられてきた東部の民全体の願いでもあった。

 帝国歴二〇年。ウルム・カリファが帝位に就いてから三年。社会基盤も整い初めた帝国は民意も味方につけ最初の外征を行う。外征先に選んだのは帝国に最も近い国の一つ、マールバラ王国である。

 マールバラ王国を外征先に選んだのは理由があった。

 王国の地方領、レイブン伯爵領が帝国にも名が轟く豊かな地であり、ある噂の発生源ともなっているグランチェ市があったのだ。

 それは、

 商取引を多いに発展させ、あっという間に普及し始めた数字。「アガルタ」が球体であることの予言と発見。測量技術の発達による地図の精密化。医療・衛生概念の向上。それまで錬金術と呼ばれていた怪しげな実験の体系化。

 これら有益な発見、発明が全てグランチェ市由来するという噂だ。確かなのは数字を作ったのがレイブン家ということだけで、他の発明者は分からなかった。

 しかし、少なくともレイブン伯爵領周辺から広まったのが確かなようであった。

 

 おそらく彼の地には何かがある。相当な知恵者がいるかもしれないし、悪魔の知恵を借りているのかもしれない。レイブン家は天から降り立った神の使いという噂さえあった。ウルムは無数にある噂も確認するまではいずれも信じる気になれなった。だが、どちらにしても強固な城壁に囲まれたグランチェ市は拠点として確保しておきたい場所だった。

 

「申し上げます。「九の月」の十日正午(二日前)グランチェ市の東約五〇〇リーグの地点にて西方諸王国連合軍と会敵。我が軍は三五〇〇〇の兵力にて、敵約五〇〇〇〇と対峙。現在優勢に戦いを進めているとのことです」

 

 思考を中断されたウルム。普段は不機嫌になり場合によっては首が飛ぶのだが、今回は良い報告に口角を上げる。

 

「さすが我が優秀な兵士たちだ。寡兵でも遅れは取らぬか」

 

 命拾いしたことを知らない兵士は「は、そのようで!」と笑顔で答えている。

 

「しかし、今は優勢でも最後に負ければ意味がない。数は多い方が良い。

 援軍を向かわせる。最も近い場所にいる隊はだれか?」

「ノウエル、ヒリツの両万人隊長閣下が開戦地より北五〇リーグの距離にある都市に駐留しております」

「直ちに伝令を出せ」

「は!承知しました」

 

 命令した後にウルム直前考えていたことを思い出し、直ちに伝えに行こうとする兵士を呼びとめる。

 

「待て」

 

 皇帝の呼びかけに思わず倒れそうになる兵士。なんとか思いと留まり主君に向きなおす。

 

「はい、何かありますでしょうか?」

「負けた場合は一矢報いるなど考えず、損害を最小限に抑えつつ本国まで速やかに撤退せよ。勝った場合はそのままグランチェ市に向かうと思うが、私が来るまで包囲だけに留めるように伝えよ。グランチェには手を出してはならん」

「は、はい。承知しました」

 

 今度こそ伝令所へ向かう兵士。

 噂はどれも信憑性がない。革新的な発見が全てグランチェ市由来という話も嘘かもしれない。しかし噂をあてに軍令内容を変更したことは初めてではない。百も噂が集まれば真実の一つはかすめているものだ。新しい知恵は必ず軍事にも利用される。もしかしたらグランチェ市は我々が思いもつかない新兵器を用意しているかもしれない。

 一抹の不安を拭うことができなかったが、ウルムには東西統一という使命感のほうが勝っていた。

 

「父の夢を、民の願いを今こそ」

 

 本人も気づいていないが想いが口に出てしまっていた。

 ウルムは初代皇帝テムネイ・カリファの肖像画に礼をし、全軍に指令を出すため執務室を後にした。


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